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薄暗い部屋、喋り声などはなく、劈く音が等間隔に鳴る。
カラカラと地面に落ちた薬莢が転がる。
少女は一息ついた。
「はい、調子いいですよ。メンテナンス位自分でやって欲しいですけどね」
「……コイツが調子よくても俺が悪けりゃ意味ね〜。戦場で調達スっからいいよ」
そう言って下投げで寄越す。手渡ししろよ。
投げられた鉄の塊を受け取り、構えて一発打つ。銃口から煙がでる。鼻につく薬莢の匂い。
的の眉間の位置にヒット。
言葉遣いだけは丁寧な後輩の方を向き、腕を横にのばし真横の的にもう一度打つ。
衝撃を殆どその腕に押し殺し、反動受けた様子は感じられない。
見て、狙って、撃っている訳では無い。
全く同じ場所を通過して、的の後ろの壁に当たった。
「やっぱハンドガンは嫌だね」
この手軽さがいけ好かない。はやり、ロマンは機関銃に限る。あの反動と痺れる感じがたまらない。
後輩は呆れ、付き合ってられないと肩を落とす。
真面目と言う第一印象を受けた後輩は、印象のままの人間だった。それは、それで新鮮で面白い。
自分と真逆、受け解けにくく、警戒心の強い子。
素晴らしい程に俺達向けの性格だ。
合理性と心中した後輩と、浪漫と逃避行している俺では相容れない。
「ちゃんと狙えばアナタならなんだって出来るでしょうに」
黒髪、黒服と全身真っ黒な生意気な後輩はそう言ってスタスタと射撃場から出ていった。
1人用の射撃演習場では的は自分たちで補充し、準備し、片付ける。だが、後輩がさっさと出ていってしまったので、この俺が片付ける訳もなく、ただその背中を見ていた。
呆れ半分、尊敬半分と言った所か。
機械のように美しい立ち振る舞い。規則正しい歩き方。真っ直ぐ伸びた背筋。品性を感じさせる振る舞い。
当たり前だろう、機械のように生きてきたのだから。
道具として育ったのだから。
どこに居ても怪しまれない演技も身に付け、冷静さ、残酷さを植え付けられているのだから。
「……出来ればお前はこんな所に来てほしくはなかったよ」
その呟きは誰に拾われること無く、ただ火薬の匂いが鼻につく。