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9 本当に愛していたのは

「フレイア……」



絶句している私をよそに、フレイアは言葉を続けた。



「だからレオン様、フランチェスカ様のことは早く忘れて前みたいに元気になってください!私はずっとレオン様の傍にいますからっ!」



彼女はそう言いながら満面の笑みを浮かべた。

男を魅了する可愛らしい笑みだが、このときの私にはそれがとんでもなく恐ろしいもののように見えた。



(気持ち悪い……吐き気がする……)



私は不快感を必死で抑えながらも、フレイアから背を向けた。



「……急な用事を思い出した。悪いが失礼する」



「……えっ?レオン様!」



私は自分を呼び止めるフレイアを無視して足早に彼女の部屋を出た。







(私は何故、今まであんな女を愛していたのだろう……?)



王宮の廊下を歩いている私の頭の中はそんな思いでいっぱいだった。



私は先ほどのフレイアが人間ではないように感じた。

彼女は最初はもっと優しい女性だったはずだ。

それなのに、愛妾になってから変わってしまったのだろうか。





私はそのまま自室に入り、ベッドに突っ伏した。



そういえばここで寝るのは久しぶりだ。

フランチェスカが亡くなってからは、どうしても執務が捗らなくていつも執務室のソファで寝ていたから。



何だかすごく疲れた。

やっていることはいつもと変わらないのにこんなにも疲れるのは何故だろう。



(少しだけ……少しだけ寝よう……執務は起きてからでいい……)



仕事は全て終わってはいなかったが、疲れていた私はベッドに横になったまま目を閉じた。



フランチェスカの死、フレイアの相手をすることで疲れが溜まっていたからか、すぐに眠りにつくことが出来た。






◇◆◇◆◇◆






(ここはどこだ?)



次に目を開けたときには、私は知らない場所にいた。



ここがどこなのか確認しようと辺りを見渡すが、視界がぼやけていて周りがよく見えない。

しかし、私は何故かこの場所に見覚えがあった。



(花……?)



視界が少しずつクリアになっていく。

そこで私はようやく気が付いた。



(そうか、ここは王宮にある庭園だな)



懐かしい。

無意識に私の口元が緩んだ。



(ここはたしか……彼女が……フランチェスカが好きだった場所……)



フランチェスカは王宮の庭園が好きだった。

私とフランチェスカは幼い頃からよくこの場所でお茶をしたものだ。

フランチェスカがお茶をするならここがいいって言って譲らなかったから。





『レオ!あそこに咲いているお花レオみたいじゃない?レオの瞳の色にそっくりで私好きだな』





私の脳裏に懐かしい記憶が蘇る。





私は幼い頃、自分の瞳の色が嫌いだった。

父とも、母とも違う色だったから。



祖父母の中に自分と同じ瞳の色をした方がいたと知ってはいたが、噂好きな貴族たちは私が不貞の子なのではないかと言い始めた。

だからこそ、どうしても自分の瞳を好きになることが出来なかった。



だけど、フランチェスカが、彼女が宝石みたいで綺麗な瞳だと言ってくれたから――





胸が温かくなる。

何故だか顔も少し熱いような気がする。




そこで私はもう一度王宮の庭園をぐるりと見回した。



彼女との思い出が詰まっている大切な場所。

しかし愚かな私はこの場所が今存在しているのかどうかさえ知らない。

王に即位してからは、気にかけたことも無かったから。



(ん……?あれは……?)



そのとき、少し離れたところに人影が見えた。

庭園に誰かいるようだ。

しかし、遠すぎてよく見えない。



(誰だ……?)



私は不思議に思ってその人物に近付いた。

少し歩いたところで、視界がさらにクリアになった。



「……」



サラサラした銀髪が、太陽の光を受けて美しく輝いている。

風になびいてゆらゆら揺れるその髪は、私のよく知っている人物のものだった。



(あれはまさか……!?)



そう思ったところで、その人物がクルリと振り返った。



(やっぱり……!フランチェスカ……!)



王宮の庭園にいたのは私の予想通り、フランチェスカだった。



今、私の目の前にいるフランチェスカは生前の彼女よりも少し若い。

そんなフランチェスカは花を見て穏やかな笑みを浮かべている。



(あぁ……綺麗だな……)



彼女は美しい。

庭園に美しく咲き誇っている花たちよりも。

いや、その何倍も綺麗だ。



気付けば、私は王宮の庭園で佇むフランチェスカにすっかり目を奪われてしまっていた。



そのときだった――





フランチェスカが突然振り向いて私を視界に入れた。



(!?)



彼女と目を合わせることなど、何年ぶりか分からない。

昔は仲が良かったが、私が王に即位してからは疎遠になっていたから。

彼女の姿は、私の胸を高鳴らせた。



(ど、どうすれば……)



私がオロオロしていると、彼女はパァッと輝くほどの笑みを浮かべた。



(ッ!?)



フランチェスカの笑顔。

公務のときにいつも浮かべている穏やかな微笑みではなく、子供のような無邪気な笑み。



私は、無意識のままフランチェスカに向けて手を伸ばしていた。



(フランチェスカ……!)



だけど届かない。

その瞬間周りの花々が吹き荒れ、フランチェスカの姿は見えなくなってしまう。



(ッ!行かないでくれッ!フランチェスカ!)



そのまま私は真っ暗な世界に一人取り残された。



フランチェスカのいない世界。



(ッ……。何故だ?何故こんなに胸が苦しい?私は……まさか……)








「ッ!!!」



そこで私は、目が覚めた。

彼女のいない世界に戻ってきたのだ。



「……」



そして愚かにも、私は今になってようやく自分の気持ちを悟った。



(あぁ、そうか)



私は……フランチェスカを……





愛していたんだな――



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