6 愛妾フレイア
数日後、フランチェスカの葬儀が執り行われた。
棺の中で眠る彼女を見て未だかつてないほどの悲しみに襲われた。
これほど悲しい気持ちになったのは生まれて初めてだ。
葬儀の最中、今にも溢れそうになる涙をこらえるので必死だった。
王が人前で泣くことなどあってはならないから。
正直、葬儀でのことはあまりよく覚えていない。
貴族たちが何かを言っていたような気がしたがそのときの私には何も耳に入ってこなかった。
それからの私はずっと上の空だった。
フランチェスカが亡くなった。
それは紛れもなく私のせいだ。
私が彼女をここまで追い詰めた。
私が彼女を殺したのだ。
その事実が重くのしかかる。
フランチェスカが亡くなってから執務が捗らない。
いつもならすぐに終わる仕事がなかなか終わらなかった。
「陛下、大丈夫ですか?」
隣にいた侍従が私に声をかけた。
心配する素振りを見せてはいるが、その目は冷たかった。
(……そういえばこいつはフランチェスカを昔から知っていたな)
フランチェスカを蔑ろにしてフレイアにのめり込んでいた私を良く思っていないのだろう。
この侍従とは長い付き合いだがこのような目を向けられたのは初めてだ。
いや、ただ私が気付いていなかっただけでもしかしたらフレイアを愛妾として迎えた頃から侍従はずっと私に呆れていたのかもしれない。
「あぁ……大丈夫だ……」
大丈夫じゃない。
本当は今すぐにでもここから立ち去りたい。
一人になりたかった。
私は先ほどからズキズキと痛む頭を押さえて執務に取り掛かる。
体調不良なんて久しぶりだ。
子供の頃は厳しい王太子教育に耐えられなくて体調を崩すことがよくあった。
そんな時はいつだって、フランチェスカが……
『レオ、大丈夫?熱が下がるまで私が傍にいるから、早く良くなってね!』
幼い頃のフランチェスカの記憶。
彼女のことを考えると何故だか心が温かくなる。
(……あと少しだから頑張ろう)
そう思って執務を再開しようとしたそのときだった――
「レオン様ぁ~!」
突然部屋の扉が開き、甘ったるく甲高い声が聞こえてきた。
「フ、フレイア……!?」
私の名前を呼びながら執務室に入ってきたのは、私が五年前に愛妾として王宮に召し上げたフレイアだった。
「レオン様ぁ……」
フレイアは執務室の椅子に座っていた私に抱き着いた。
「フレイア……何故ここに来たんだ……」
私が怒っていることに気づいたのか、フレイアはショックを受けたような顔する。
そういえば私はフレイアを怒ったことが無かった。
彼女に対してイラッとしたことも。
「レオン様、どうしたのですか?いつもは優しく抱きしめ返してくださるではありませんか」
たしかに、いつもの私ならそうしただろう。
しかし、今の私にはそれを出来るほどの気力がなかった。
「フレイア、ここは用もないのに勝手に入っていいところではない。君ももう王宮に住んで五年になるのだからいい加減……」
「そんなに言うだなんてひどいですっ!レオン様は私のことをお嫌いになったのですか……?」
フレイアは一人で泣き出す。
(何だこの女は……)
私はこのとき初めてフレイアのことを面倒臭いと思った。
フランチェスカがいる間は気づかなかったが、フレイアはかなり礼儀がなっていない。
(王宮に来て五年も経っているのに何故だ……?)
フレイアを王宮に召し上げた際、最低限のマナーを身に着けさせるために講師を付けたはずだ。
それなのに五年前と全く変わっていないどころか、ひどくなっているではないか。
私は喚くフレイアを泣き止ませるために無理矢理笑顔を作った。
「……フレイア、そういうわけじゃないよ。仕事が終わったらすぐに部屋に行くから、大人しく待っていてくれるかい?」
私が優しくそう言うと、フレイアはパァッと目を輝かせた。
「本当ですかっ!?もう、最近全然来てくれなくて悲しかったんですよっ!約束ですからね!」
フレイアは走って部屋から出て行った。
「……」
走るだなんてみっともない。
部屋のドアも開けっ放しだ。
こんなに礼儀のなっていない女は初めて見た。
これなら市井で暮らしている平民の方がまだましだろう。
「……フレイアはあんなに無作法だったか?」
私が傍に控えていた侍従に聞くと、侍従は驚いたような顔をした。
「陛下、まさか今まで気づかなかったのですか?」
「いや、五年前はもっと慎ましい女だった気がするのだが……」
「……最初は確かにそうだったかもしれません。しかし彼女は調子に乗ったのですよ。今じゃ陛下の寵愛を笠に着てやりたい放題ですよ」
「な、なんだと……?」
私は侍従の言葉に驚きを隠せなかった。
そんな話は初めて聞いたからだ。
「今すぐにフレイアの侍女を呼べ!!!」
私は真意を探るためにフレイアの侍女を部屋に呼び付けた。