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56 和気あいあい

それから私たちは侍女たちに部屋まで料理を持ってきてもらい、ヴェロニカ公爵を含めた三人でテーブルを囲んで食事をした。

クロードにああは言ったが、本当はただ単に私のお腹が空いていただけだった。



(……私にも謎のプライドがあったんだな)



私はそう思いながらも出された料理を口に運んだ。

少し前と違い、今ではちゃんと味がする。

やはり王宮のシェフたちが作る料理は美味しい。



ふと隣を見てみるとヴェロニカ公爵も私と同じ気持ちだったのか、黙々と食事をしていた。

私はそんな彼に話しかけた。



「久々にちゃんとした食事をしたような気がするな」



私の言葉を聞いた公爵が食事をしていた手を止めて口を開いた。



「ずっと思っていたんですが、陛下は頑張りすぎですよ。最近は食事もろくに摂られていらっしゃらないでしょう?このままではいつか倒れてしまいます。しっかりと健康管理をなさってください」

「……………誰かさんみたいなことを言うんだな」



真剣な顔でそんなことを言うその姿は、少し前まで私の傍にいた誰かにそっくりだった。



「私はただ思ったことを述べたまでです」



公爵はそう言いながら再び食事を再開した。



(……コイツ、私に対してだんだん遠慮が無くなってきているような気がするが気のせいか?)



私は薄々そう感じながらも公爵に尋ねた。



「…………そうだ、今度ヴェロニカ公爵邸を訪問しようと思うのだがかまわないだろうか?」

「ええ、かまいませんよ。いつでもいらしてください」



私の問いに彼は笑顔でそう答えた。



きっと嬉しいのだろう。

ヴェロニカ公爵邸にはフランチェスカとの思い出の場所がたくさんあるということを彼もまた知っている。

私にとっては、フランチェスカのことを語り合える人間がもう一人増えたというだけで嬉しかった。



「……」



料理を口に運びながらそんな会話をする私とヴェロニカ公爵を、クロードはただポカーンと眺めていた。



「ん?どうした、クロード。腹減ってないのか?」



それに気付いた私は手を止めてクロードに声をかけた。



「い、いえ……そういうわけでは……」

「なら食え」



しかし私がそう言ってもクロードの手は動かない。

彼は先ほどからずっとモジモジしながら座ったままだ。



(何だ?何をそんなに迷っているんだ?)



クロードはそんな私の視線に耐えかねたのか、しばらくして口を開いた。



「こ、こんな高貴な方が口にするようなものを一介の使用人である私がいただくわけにはいきません!」

「私が食えと言っているのに何が問題だ?」

「で、ですが私は……」



クロードがそう言いかけたとき、ヴェロニカ公爵が横から口を挟んだ。



「陛下のご厚意だ。ありがたく受け取れ」

「ヴェ、ヴェロニカ公爵閣下……!」



クロードは驚いて公爵の方を見た。



「陛下がせっかくお前の分まで用意してくださったんだ。むしろ断り続ける方が無礼極まりないぞ」

「……!」



私だけではなく、ヴェロニカ公爵にもそう言われたクロードはようやく料理を口に運んだ。



「……」



その所作は非常に美しかった。

彼の身分を知らない者は高位貴族だと言われても信じるだろう。

さすがはレスタリア公爵家で育て上げられただけある。



「……………美味しい」



そんな彼の様子を見て私とヴェロニカ公爵はクスリと笑みを溢した。



「だろう?王宮のシェフたちは皆一流だからな」

「はい、こんなに美味しいものを食べたのは生まれて初めてです……!」



クロードはそう言いながら二口目を口に運んだ。



どうやら料理が気に入ったようだ。



彼はその後も黙々と食べ続け、結局出されたもの全てを完食した。

全て食べ終わった頃には彼は今までに見たことないくらい幸せそうに微笑んでいた。



(……こういう時間を取るのも悪くないな)



今までの私は執務が最優先の仕事人間だった。

そのせいでアレクやヴェロニカ公爵には苦言を呈されていたが、自分のしていることが間違っているとは思わなかった。

だけど、今は――



「……………アレクが戻ってきて公爵の件が落ち着いたら皆で飲むか。」

「陛下、酒弱いじゃないですか。それなのにそんなこと言って大丈夫なんですか」

「……何故お前がそれを知っているんだ」

「フランチェスカが昔侍女に対して言っていたのを聞いたことがあったんです」

「……恥ずかしいから誰にも言うなよ」



それを聞いた公爵は笑みを溢した。



「ハハハ、もちろんです。しかし良い提案ですね。楽しみにしています」



私の言葉にヴェロニカ公爵は嬉しそうな顔をした。



「……」



昔は何とも思わなかったが、今では彼らのそんな顔を見ることが出来るのが嬉しかった。

私は今まで自分の下で働く人間のことを気にかけたことは無かった。

視野が狭すぎたのだ。



(たまには息抜きも必要だ!)



私はそう思いながら、一人でうんうんと頷く。



「お前は強いのか?」

「……まぁ、それなりには」

「……フランチェスカも強かった」

「へ、陛下……そんなに落ち込まなくとも・・・」



完全に萎えてしまった私と、それを慰めようとするヴェロニカ公爵。



そんな私たちを、クロードはしばらくの間じっと見つめていた。




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