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50 疑念

「――公爵、さっきの話についてどう思う?」



私は執務室への道を歩きながら後ろにいたヴェロニカ公爵に尋ねた。

突然私に尋ねられたヴェロニカ公爵は、少しだけ考え込んだ後に口を開いた。



「……にわかには信じられません。あのレスタリア公爵がそのようなことをするでしょうか」



そう言った公爵はどこか疑っているような顔をしていた。



「私もちょうど君と同じことを考えていた」



どうやら私と公爵は気が合うらしい。

執事長の話に対して同じことを思っていたようだ。



(あの男がそんなことをするはずがない。それだけはたしかだ。しかし……)



先ほどの執事長の様子からして、嘘をついているとは到底思えなかった。

彼は公爵を慕っているというよりかは崇拝しているようだった。

それに何より、彼の目が真実を物語っていた。



(執事長が嘘をついているという可能性はおそらく無いだろう。だとしたら……)



「……何かあるぞ」

「……え?」



独り言のようにボソッと呟いた私に、ヴェロニカ公爵が反応した。

私はそんな公爵にハッキリと告げた。



「あの話には何か裏がある」

「……!」



私の言葉にヴェロニカ公爵はハッと息を呑んだ。

私がそう思ったのには訳があった。



まず、あのレスタリア公爵がそんなことをするはずがない。

あの男は他人のために何かを出来る人間ではないから。

人を貶めるのは得意でも、媚びを売ることは絶対にしないタイプの人間だ。



そしてもう一つ。

私は十年近く前、コンラード伯爵家が取り潰しになった後のことを思い出していた。

私はそのとき母上と共に部屋にいて、侍女の口からコンラード伯爵家のことを知った。

それを聞いた母上は一瞬だけ驚いた顔をした後、誰にも聞こえないような小さな声でボソリと呟いた。





『…………お兄様は残虐で欲深いお方。一体、何を企んでいるの……?』





母上はたしかにそう言っていた。

近くにいた私にはそれがハッキリと聞こえたのだ。



私の母はレスタリア公爵の実の妹だ。

仲は最悪だったと聞くが、それでも血の繋がった兄妹である。

母上は長い間傍で公爵のことを見てきているはずだし、その母上がそう言うのならそうなのだろう。





私は執務室に戻り、椅子にドサリと座り込んだ。



「……」



(……どうにかして執事長から情報を得られないだろうか)



私は何としてでも彼からレスタリア公爵家についての情報を得たいと思っていた。

十年以上も王宮に潜伏しているうえに、あの忠誠心。

彼は相当レスタリア公爵に信頼されているはずだ。

私の知らない何かを知っているのは間違いないだろう。

おそらくその情報が公爵家を倒すことにつながるはずだ。



私はそのままじっと考え込んだ。



そこに何かがあることは間違いない。



(……調べてみるか?十年前のあの事件について――)




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