47 ローレンの王
それから数日後、ヴェロニカ公爵がようやく執務室へやってきた。
「陛下、失礼します」
「ああ」
公爵は部屋に入ってきて私の前に立った。
そして、神妙な面持ちで口を開いた。
「陛下、調査の結果ですが……」
「……」
「――陛下のおっしゃった通りでした。レスタリア公爵家は裏でローレン王国と繋がっています」
「……やはりな」
どうやら私の思った通りだったようだ。
レスタリア公爵家はローレン王国と裏で繋がりを持っていた。
別に驚きもしない。
あの男がやりそうなことだ。
「陛下に言われた通り、惚れ薬の入手経路を調べてみました。惚れ薬はローレン王国の薬師が作ったもので間違いないそうです」
「……だろうな」
(他国にまでその名が届くほどの薬師なら惚れ薬を作ることも可能か……)
納得すると同時に、惚れ薬が未だに存在しているということにゾッとしている自分がいた。
百年以上前に消えたものだと思っていたからだ。
それを復活させるとはローレンは本当に恐ろしいことをするものだ。
それからヴェロニカ公爵はさらに言葉を続けた。
「どうやらレスタリア公爵家を経由して、公女様の手に渡っていたようです」
「そうか……」
そういうことならレスタリア公爵家とローレン王国が繋がっていることはほぼ確定だろう。
「あの惚れ薬はローレン王国でも出回っていないものです。おそらくレスタリア公爵とローレン王の間で何か取引があったのではないでしょうか」
「ローレンの王……」
私はそのとき昔見たローレン王国の王のことを思い浮かべた。
私の両親と同じくらいの年齢で、穏やかで人の良さそうな見た目をしていた。
政治面においてはお世辞にも優秀とは言えないらしいが。
(とてもじゃないが、欲深い人間には見えなかった……)
本当に、人は見かけによらないらしい。
それはもう十分すぎるほど分かりきっていた。
実際、フレイアもあれほど美しく人当たりの良さそうな見た目をしているにもかかわらず、腹の中は真っ黒なのだから。
(ローレンは小国だ。たとえ王という地位にいたとしても、強大な力を持つウィルベルト王国を始めとする他国の王には頭が上がらないだろう)
もしかしたらローレンの王はずっとそのことに嫌気が差していたのかもしれない。
王であるにもかかわらず、強大な権力を持つことも出来ず、他国の王には見下される。
だから、レスタリア公爵と手を組んだのかもしれない。
――ウィルベルト王家を倒し、さらなる権力を手に入れるために。
「……」
ローレン王の気持ちも理解出来ないことはなかった。
王族というのはプライドが高い人間が多いからそのような状況に耐えられなかったのだろう。
しかし私は、そんな欲深いヤツらにそう易々と国を奪われる気はない。
(……私には、約束があるから)
私はそう思いながらも目の前にいるヴェロニカ公爵に尋ねた。
「もう一つの件についてはどうなっている?」
「ああ、はい。それに関しても既に調査は終えています」
「……流石だな。」
ヴェロニカ公爵は本当に優秀なようだ。
この短期間で全て調べ上げてくるとは流石としか言いようがない。
「王宮の使用人たちについて調べてみた結果ですが……一人だけ身元の怪しいものがおりました」
「……!それは一体誰だ?」
「この男です」
ヴェロニカ公爵はそう言って私に一枚の紙を手渡した。
「こいつは…………執事長か!?」
私はそれを見て驚いた。
その紙に書かれていた名前は間違いなく王宮の執事長のものだったのだから。
執事長のエイルは私より年上でかれこれ十年以上王宮に勤めている。
仕事は丁寧だし、真面目な男だった。
他の使用人仲間たちからの信頼も厚いと聞く。
現に、ヴェロニカ公爵に調べさせるまで彼に怪しいところなど少しもなかった。
そんな男がレスタリア公爵家の手の者だったとは正直驚いた。
「はい、今騎士に取り調べをさせていますが黙秘を続けているそうです」
「そうか……」
流石はレスタリア公爵家の人間といったところか。
一筋縄ではいかないらしい。
(どうしたものか……)
ようやく手掛かりが得られそうだというのに、彼がレスタリア公爵について何も喋ってくれないのでは意味が無い。
何とかして情報を得たい。
そう思った私は、じっくりと考え込んだ。
「……」
そして、あることを思いついた。
「…………私もそっちに行こう」
「……はい?」
ヴェロニカ公爵は意味が分からないと言ったように私に聞き返した。
「私も取調室に行くと言っているんだ」
「……………………………………ええっ!?」




