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45 怒り

私はそのままヴェロニカ公爵と執務室に入る。



(……仕事をするか)



執務室にある椅子に座り、公爵はその背後に控えた。

そして机の上の書類を片付け始める。



今日はいつもに比べたら書類の量が少ない。

優秀なヴェロニカ公爵もいる。

普段通りにやれば早めに終わらせることが出来るだろう。



私はそう思ってペンを手にした。

そのとき、部屋の扉がノックされた。



「陛下、お茶をお持ちしました」

「……入れ」



部屋に入ってきたのは侍女のリリアンだった。

彼女は私の机に茶を置くと、その場に立ち止まった。



リリアンが私の執務室に来るときはいつも決まって何かあったときだ。

もちろんヴェロニカ公爵はそれを知らないため、なかなか出て行かないリリアンに困惑している。



彼女は優秀な侍女だ。

何かを見つけたのだろうか。

私がじっと見つめていると、リリアンは懐から封筒の束を取り出した。



(何だ……?)



丁寧にまとめられたそれを私の机の上にボンッと置いた。

ヴェロニカ公爵は一国の王に対しては不敬すぎる彼女の行動にかなり驚いていた。



(……まぁ、驚くだろうな)



私はそれを気にしたことはないが、貴族たちからすれば衝撃的だろう。



「あの女、陛下に隠れてこんなふざけたことしてたみたいですよ」



リリアンは口角を上げてそう言った。

かなり苛立ちを含んだ声だった。



私はすぐに彼女が持って来た封筒を開けて中身を見てみる。



「手紙……?」



中に入っていたのは手紙だった。



(誰かがフレイアに宛てて書いたのか……?)



リリアンの言う「あの女」とはフレイアのことである。

彼女はその名前すら口にしたくないようで、フレイアのことをいつもあの女と呼んでいる。



私はその手紙の内容をじっくりと読んでみる。



「…………なっ!?これは……!?」



手紙を読んだ私は驚きを隠せなかった。

何故ならその手紙は全て、父上がフランチェスカに宛てたものだったからだ。



「これは一体どういうことだ!?」



私はすぐにリリアンに問いただした。



「あの女が暮らしていた部屋から出てきたんですよ。どうやらあの女、この五年の間で先王陛下がフランチェスカ様に宛てた手紙を全てくすねていたようです」

「な、何だと……!?」

「う、嘘でしょう……そんな……」



このことには私だけでなく、ヴェロニカ公爵も驚いた顔をしていた。



私は平静を保ち、手紙の続きを読んでみる。

一通目の手紙には王妃となったフランチェスカを気遣う内容が書かれていた。



(なんてことだ……もし、この手紙がフランチェスカの元に届いていれば……!)



彼女は父上に助けを求めることも出来たかもしれない。

そして、今も生きていたかもしれない。

そう思うと悔しくてたまらなかった。



しかし、一つだけ気にかかることがある。



(…………父上は返事が来ないことを不審に思わなかったのか?)



手紙はフランチェスカの元に届いていなかったのだから彼女からの返事が来ることはない。

それに対して父上は何とも思わなかったのだろうか。



そんな私の疑問を察したかのように、リリアンは言った。



「陛下、二通目をご覧ください」

「二通目……?」



その言葉で私は二通目の封筒を開け、内容を読んだ。



「こ、これは………!」



(そんな……ありえない……だってあの手紙は……)



私は二通目の手紙を見てそう思わざるを得なかった。

何故ならその手紙は、フランチェスカが父上に宛てたものだったからだ。



「これは一体……!?」

「それは先代王妃陛下の専属侍女だった方が亡くなった国王陛下の部屋を掃除していた際に見つけた物だそうです。何故本人に届いてもいない手紙の返事が来るのでしょうね?」



リリアンはそう言っておかしそうに笑った。

しかしその目は笑っていない。

どうやらかなり頭に来ているようだ。



私はフランチェスカが父上に宛てたことになっている手紙の内容をじっくりと読んだ。



「……」





『私は元気です』



『この間も陛下が私に贈り物をしてくれたのです』



『だから心配しないでください』





そこにはただただ父上を安心させようとする言葉が書かれていた。



「……この筆跡、フランチェスカのものによく似ているな」

「ええ、私も最初に見たときそう思いました」



長い間彼女と共にいた私とリリアンですらそう思うのだから相当だ。

父上に怪しまれないように誰かがフランチェスカの筆跡を真似て書いたのだろう。



「……手紙をくすねたことはともかく、これに関してはあの女の仕業ではないでしょうね」

「まぁ、そうだろうな」



フレイアは筆跡を似せるどころか文字の読み書きすら出来ない。

ということは――



「…………レスタリア公爵家の者の仕業か?」



もうそうとしか考えられなかった。

フレイアがレスタリア公爵家との関わりを持ち始めた時期は詳しくは分かっていない。

しかし、彼女にそのような入れ知恵をするのはレスタリア公爵家しか思い当たらなかった。



私の言葉にリリアンは頷きながら言った。



「ええ、おそらくレスタリア公爵家の――」

「何てヤツらなんだ!!!レスタリア公爵家!!!」



「「!?」」



そのとき、突然声を上げたのはヴェロニカ公爵だった。

私とリリアンは驚いて彼の方を見た。

そこには怒りに満ちた顔をして拳を握りしめているヴェロニカ公爵がいた。



「元々我がヴェロニカ公爵家を敵視するレスタリア公爵家のことは良く思っていなかったが、まさかこんなふざけた真似をしていただなんて!ヴェロニカ公爵家を舐めているのか!」

「ヴェ、ヴェロニカ公爵……?」



彼は珍しく声を荒げている。

その顔は真っ赤だ。



「陛下を誑かし、フランチェスカを苦しめるだけでは飽き足らずこのようなことまで……!」

「お、おい……落ち着け……」

「陛下、ヤツらはヴェロニカ公爵家に喧嘩を売りました。その女はもちろんレスタリア公爵家にも必ず制裁を与えましょう!」

「あ、ああ……」



ヴェロニカ公爵の物凄い剣幕に、私はただ頷くことしか出来なかった。



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