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43 ヴェロニカ公爵

ヴェロニカ公爵家。



レスタリア公爵家と同じくらい力を持つウィルベルト王国の名門公爵家である。

王家を除けば唯一レスタリア公爵家に対抗出来る貴族家でもあり、周りの貴族たちも一目置いている。



ちなみにレスタリア公爵家とはあまり仲が良くない。

ヴェロニカ公爵家の一族はあまり残酷なことを好まない性格だから、過激派のレスタリア公爵家とはどこまでも合わないのだろう。



それと同時に、私となかなか関わりの深い家でもある。

何せヴェロニカ公爵家はフランチェスカの生家だからだ。



しかし、そうは言っても私はヴェロニカ公爵家の人間とはあまり話したことがない。



(……フランチェスカは家族とあまり上手くいっていなかった)



フランチェスカの両親は彼女が幼い頃に不慮の事故で亡くなっている。

まだ幼いフランチェスカに爵位を継がせることは不可能だ。

そのためヴェロニカ公爵家を継いだのはフランチェスカの父親の弟、つまり彼女の叔父夫婦だった。



その日からフランチェスカは叔父夫婦と義兄となった従兄弟と共に暮らすこととなった。

三人との関係は微妙なものだったらしい。

決して虐げられているわけではないが、かといって本当の子供のように愛されているわけでもない。

フランチェスカと三人との間にはどこか壁があった。



フランチェスカはそんな公爵邸に居づらさを感じていたようで、逃げるかのようによく王宮へ来ていた。



彼女の叔父である公爵閣下は数年前に亡くなり、今は義兄が爵位を継いでいる。

フランチェスカの義兄、というだけあってなかなか優秀な男だと聞いている。



しかし、必要以上に関わろうとは思わなかった。

フランチェスカはどうも彼らに苦手意識を抱いていたようだし、そのせいか私もあまり関わりたいとは思わなかった。



王家主催の舞踏会や公爵邸で何度か挨拶をしたくらいだ。



(…………何故、ヴェロニカ公爵が?)



私の頭にはそんな疑問が浮かんだ。

私が愛妾を迎えたときですら何も言ってこなかったのに、今さら何なのだろう。

フランチェスカのことなどどうでもよかったのではないか。



私はそう思いながらも謁見の間へと向かった。





◇◆◇◆◇◆




「陛下の、お役に立ちたいのです」

「……」



謁見が始まって早々、ヴェロニカ公爵家の当主シリウスはそんなことを言った。



今私の目の前で跪いているのはフランチェスカと同じ髪の色をした眉目秀麗な男だった。

しかし、フランチェスカと同じ色の髪は短く切り揃えられており、私を真っ直ぐに見つめている黄金色の瞳は彼女と似ても似つかない。



(……髪の色以外はどこも似ていないな)



従兄弟というだけあって少しは彼女の面影を感じるが、そこだけである。



私はヴェロニカ公爵がそのようなことを言う意味が分からなかった。

私に協力したところで彼らにメリットなど無い。

むしろレスタリア公爵家という巨大な敵を作ってしまうだけだ。



「何故だ?」



私はその言葉の意味を知るため、ヴェロニカ公爵に尋ねた。

すると彼は意外なことを口にした。



「…………フランチェスカのことで、私は後悔しているのです」



「……」



まさかヴェロニカ公爵家の人間からそのような言葉を聞くとは思わず、少しだけ驚いた。

彼らはフランチェスカの家族というよりかは”ただ同居しているだけの他人”という印象が強かったからだ。



(……ヴェロニカ公爵家はかなりの力を持っている。力ならレスタリア公爵家にも引けを取らない。たしかに、味方にすれば心強いだろう)



しかし、私にはどうしても聞きたいことがあった。



「君たち家族はフランチェスカに興味が無かったのではないか?」



私のその言葉に、ヴェロニカ公爵は苦しそうな顔をして俯いた。



「ッ……そんなことは、決して……」



彼はそこまで言うと、言葉に詰まったかのようにしばらく黙り込んだ。

そして、再び私を真っ直ぐに見つめて今度はハッキリと言った。



「……私も両親も、フランチェスカをいない者として扱ったことなど一度もありません」

「フランチェスカにはそう見えていたみたいだが?」

「……私たちは、大きな過ちを犯しました」

「……」



そう言ったヴェロニカ公爵の顔は、どこか悲しそうだった。



「フランチェスカが亡くなってからようやくそのことに気が付いたのです。私は彼女が生きている間、何もしてあげられなかった」

「……」



そのとき、目の前で跪いているヴェロニカ公爵が少し前の自分と重なった。



(……何だ、どこかで聞いたことのあるセリフだな)



そう思わざるを得ないほど、目の前にいる男は過去の自分と同じことを言っていた。



「レスタリア公爵家に狙われていると聞きました。陛下の幸せこそが彼女の願いです。なら私はせめて、彼女が安心して眠れるようにその願いを叶えてあげたい」



そこまで言うと、ヴェロニカ公爵は決意のこもった力強い目で私を見た。



「――どうか、私を陛下の側近にしてくださいませんか」

「……」



その目の奥には、力強い何かが秘められていた。

少なくとも今、彼は嘘をついていないことが伝わってくる。



「……いいのか?今ここで私に付いたらレスタリア公爵家と敵対すると言っているようなものだぞ」

「かまいません。それに、もしレスタリア公爵が今まで以上に権力を手にすれば真っ先に私たちを潰しに来るでしょうから」

「それもそうだな……」



私はそこでしばらくの間考え込んだ。

そして結局、私はヴェロニカ公爵を傍に置くことを決めた。




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