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37 異変

私の思っていた通り、中では既に会が始まっていた。



「……」

「こ、国王陛下!」



私が会場に入った途端、貴族たちの視線が一斉にこちらに集中した。

この視線は相変わらず苦手だが、今なら普通に耐えられそうだ。



扉から入場した目だけを動かして私は会場の中を見渡した。



(……あれは)



会場の中央ではフレイアが美しいドレスを身に纏って立っていた。

王宮ではジャラジャラと宝石を着けていたが、人前に出るからか今日は控えめにしていた。

その姿は、見た目だけなら名家の令嬢のようだった。



そしてそのすぐ傍には、レスタリア公爵と公子がいた。



(……やはり公爵夫人はいないな)



そこに公爵夫人の姿はなかった。

自分の娘となる少女のお披露目会にも出席しないつもりらしい。

そして公爵夫人がいないことを周りは気にもしていないようだ。

おそらくレスタリア公爵家においてそれは当然のことなのだろう。



(……まさか、本当にもう既にこの世にいないのか?)



貴族たちのあの噂は本当だったのかもしれない。

そんなことを考えていたそのときだった――



「レオン様!!!来てくださったんですね!!!」



私の姿を見たフレイアがこちらへ駆け寄ってきた。



「会えて嬉しいです!王宮を出てからもうずっと会っていなかったので寂しくって……」



彼女はそう言いながら私を見上げた。



「……」



周りの目が気になるのだろうか。

前は私に対してあれほど暴言を吐いてきたのにもかかわらず、今はまるで恋する少女であるかのように振舞っている。

そんなフレイアに周りにいる男たちは頬を染め、女たちは眉をひそめて侮蔑の目を向けている。



「なんて可愛らしい人なんだ……!」

「走るだなんて淑女の風上にもおけませんわ……それにいくら親しい仲だとはいえ公の場で陛下を名前で呼ぶだなんて……はしたない」



私は令嬢たちの意見に激しく同意した。



(…………私のことを愛してもいないくせによくそんなことが言えるな)



人間とはそういう生き物なのだ。

平気で嘘をつくことが出来る。

愛してるだなんてそんな言葉を簡単に言えるのだ。



少し前までは私もこの嘘に騙されていたのだと思うと、自分が情けなく思えてくる。



「陛下、この度はお忙しい中来てくださってありがとうございます」



フレイアに続いてレスタリア公爵と公子もこちらへとやって来た。

相変わらず公爵に関しては何を考えているのか分からない。



「ああ」



私は短く返事をした。



私の返事に公爵はニコッと笑った。

例えるならそれは張り付けたような笑みだった。



本心から笑ってるわけではないことは誰から見ても一目瞭然だ。

どんなときでも感情を表に出さない。

貴族らしいと言えば貴族らしい。



「……そういえば、公爵夫人はここにいないんだな」



私の口からはそんな言葉が滑り落ちていた。

聞くつもりなど無く、完全に無意識だった。

心のどこかでずっと公爵夫人のことが引っ掛かっていたのだろう。



(…………公爵夫人のことは気になるが、聞いたところではぐらかされるだけだな)



このときの私は軽く捉えていた。

気付いていなかったのだ、自分が失言をしてしまったことに。



その言葉を聞いたレスタリア公爵は意外な反応を示した。



「!」



(何だ……?)



そのとき、ほんの一瞬だけ公爵が動揺したように見えた。

そしてそのすぐ後に公爵は鋭い眼光を私に向けた。

その顔からは僅かな怒りを感じた。



「……」

「……!」



(な、何だ……?公爵夫人のことを話しただけで何故こんな……)



公爵は私に鋭い眼光を向けたまま黙り込んだ。

いつも表情を変えないレスタリア公爵がこのような顔をするとは驚いた。

それと同時にそんなに気に障る発言をしてしまったのだろうかと困惑した。



そんな私とレスタリア公爵の様子に、周りの貴族たちはヒソヒソと話し出す。



「陛下……それは聞いてはいけないことなのでは……」

「レスタリア公爵に対して公爵夫人の話をするだなんて……」

「私たちだったら絶対に出来ないわ……」



しばらくして、公爵は再び口角を上げた。



「!」



いつもの貼り付けたような笑みだ。

先ほど向けていた鋭い目つきが嘘のようだった。



「妻は体調が悪く……今日は欠席なのです。せっかく来ていただいたのに、陛下にご挨拶も出来ず申し訳ありません」

「……そうだったのか」



それだけ返すと、お互いに一言も喋らなくなった。

公爵は口元は笑っているが、その瞳にはまるで感情を映していない。



「レオン様~!私と一緒に踊りませんか!」

「!」



そのとき、私と公爵の会話に割って入ったのはフレイアだった。

彼女は突然私の腕をガシッと掴んで揺さぶった。



「それはいい提案だ。陛下、是非一曲!」



公爵も笑顔でその提案に賛同した。



「……」



結局、私はフレイアと踊ることになってしまった。



私はフレイアと共に会場の中央へ向かった。

私と向かい合ったフレイアが照れたように笑う。



「……」



それを見た私が思ったのはある一つの疑問だった。



(……………………………フレイアは踊れるのか?)




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