36 お披露目会
そして、その日は思ったよりも早く訪れた。
数日後、私の元にレスタリア公爵家から養女となったフレイアのお披露目会の招待状が届いたのだ。
「陛下、思ったより早かったですね!」
隣にいたアレクが私に届いた招待状を見て言った。
これで何かが分かるかもしれない。
そう思うと居ても立ってもいられなくなった。
「ああ、そうだな」
私はペンを手に取り、すぐに出席の返事をした。
◇◆◇◆◇◆
その数日後。
私は一人、馬車に揺られていた。
行き先はもちろんレスタリア公爵邸だ。
「……」
公爵邸に行くのは初めてだからか、少し緊張している自分がいた。
行ってみれば何かが分かるかもしれないと思ったが、今からフレイアやレスタリア公爵たちに会うと思うと気が重くなった。
私にとって彼らは出来るだけ関わりたくない相手だったからだ。
フレイアは言うまでもなくレスタリア公爵と公子に対しても苦手意識があった。
(…………私はまだまだだな)
立派な王になってフランチェスカに会いに行くと約束したが、まだまだ道のりは長いようだ。
間違いなくレスタリア公爵はこの先私と対立してくるだろう。
それなのに、今からこんな調子ではダメだ。
(もっとしっかりしなければいけないな。私はこの国の王なのだから)
もう昔みたいに自分のことを愚王だなんて言ったりはしない。
何があっても、国だけは絶対に守ると決めたのだから。
私は馬車の中で決意を固めた。
それからしばらくして公爵邸に到着した。
(…………さすが、高位貴族なだけあるな)
私は馬車の中から外を見てそう思った。
私の目の前に広がったのはフランチェスカの生家であるヴェロニカ公爵邸にも負けないほど立派な屋敷だったからだ。
名門公爵家なのだから当然のことなのだろうが、初めてここへ訪れた私は何だかそれが新鮮に感じた。
(……そういえば私は、フランチェスカ以外の貴族の邸に訪れたことなどほとんど無かったな)
幼い頃、ヴェロニカ公爵邸へは時々行っていた。
もちろんフランチェスカに会うためだ。
公爵邸で彼女と遊んだりお茶をしたりするのが私の楽しみだった。
王太子教育があったからいつも、というわけにはいかなかったが。
王宮の庭園と同じように、公爵邸にもフランチェスカとの思い出の場所は数多くある。
(…………今度、ヴェロニカ公爵邸にも訪問してみるか)
まだあの場所は残っているだろうか。
残っていたとしたらどれほど嬉しいだろう。
私はそう思いながらも馬車から降りた。
会が行われるのは公爵邸のすぐ近くにあるホールだ。
外の様子からして既に会は始まっているようだ。
「……」
会場の扉の前に立つと、まるで今から戦場に行くかのような気分になった。
(…………いや、ある意味戦場か)
隣にフランチェスカがいればきっとこんな気持ちにはならなかっただろう。
しかし今さら引き返すことなど出来ない。
出来たとしてもそんなつもりは毛頭ないが。
(…………行くか)
私は覚悟を決めて屋敷の中へと足を踏み入れた――




