27 卑怯者
侍女たちが去った後、私はずっとその場に立ち尽くしていた。
『―ああ、もういっそ、二人まとめて死んでくれないかしら』
『死ねばいいのに』
『生きてる価値ない』
「……」
――もし今私が死んだら、誰かが悲しむだろうか。
(……いや、きっと誰一人として悲しまないはずだ)
私にはもう何も残っていない。
フランチェスカも父上も母上も。
皆いなくなってしまった。
それは紛れもなく私のせいだ。
愚かな私が三人を死に追いやってしまった。
父上は賢王と名高く、国民からの人気も高かった。
母上とフランチェスカも優しく優秀で色んな人間に慕われていた。
それに比べて私はというと、侍女にすら死を願われるのだ。
何故あれほど国に貢献してきた人たちが死ななければならなかったのだろう。
本当に死ぬべきなのは私の方ではないのだろうか。
そこで私はようやく歩みを進めた。
いつまでも王宮の廊下で立ち止まっているわけにもいかなかったからだ。
特に行く当ても無かったが、誰にも会いたくなかったのでとりあえず自室へと向かった。
(今は……一人になりたい……)
フレイアに言われたこと、侍女に言われたことがずっと頭から離れなかった。
こんな状態で執務をしても捗らないだろう。
それなら一度部屋に戻って休んだほうがいい。
仕事はそれからだ。
私はそのまま歩き続け、自室に戻った。
部屋の中にはもちろん誰もいない。
当然のことなのに、今の私にとってはそれがとてつもなく寂しいことのように感じられた。
(あれは……)
そのとき私の視界に入ったのは、この間フランチェスカの部屋から持ってきた毒の小瓶だった。
結局騎士に渡すのを忘れてそのままにしていたようだ。
毒の小瓶は私の机の上に置かれていた。
誰かが私の服に入っていたのに気付いてあそこに置いたのだろうか。
何故だか分からないが、私はその毒の小瓶から目を離すことが出来なかった。
そのまま私は吸い寄せられるように小瓶を手にした。
瓶に入っている液体は半分ほど無くなっている。
半分はフランチェスカが飲んだのだろう。
「……」
そのときに私の頭に浮かんだのは、ある考えだった。
(もし……これを飲めば……私は……きっと……)
――死ぬだろう。
手にしっかりと握られた毒の小瓶を見て私はそんなことを思った。
フランチェスカが亡くなるあの日まではどれだけ辛いことがあったとしても、死にたいと思ったことなど一度も無かった。
だけど今は?
死にたいというよりかは生きていたくなかった。
とにかくこの窮屈で退屈な世界から逃れたかった。
それが出来るのならたとえ地獄へ行くことになっても構わなかった。
逃げるなんて卑怯者だと言われるかもしれない。
何て無能な王なのだと。
だけどそれでも良かった。
何より、私はもう――
――これ以上この世界に、いたくない。
私はそのまま迷いなく瓶の蓋を開けた。
そして、中身を一気に呷った。
「……」
自身の身体に異変が訪れたのはすぐだった。
(何か眠いな……)
飲んだ瞬間、強烈な眠気と身体が沈んでいくような感覚に襲われた。
フランチェスカが飲んだこの毒は比較的楽に逝けるものだ。
だからきっとこのままゆっくりと死んでいくのだろう。
(……身体に……力が……入ら……な……)
そう思ったのを最後に、私の意識はプツリと途切れた。




