21 凶報
「……」
あの後、レスタリア公爵はフレイアを連れてどこかへ行ってしまった。
私はというと、しばらくその場から動けなくなって今は執務室にいる。
私は部屋で先ほどあったことを思い出していた。
『これで私たちまた一緒ですね、レオン様』
(……ッ!!!)
思い出すだけでゾワッとした。
あのときフレイアが浮かべた笑みは前にホワイト侯爵令嬢が一瞬だけ見せた悪魔のような微笑みにそっくりだった。
私の癒しだったフレイアも結局は私が最も嫌悪するものと変わらなかったのだと改めて思った。
(また一緒だなんて冗談じゃない……!)
王宮では既にレスタリア公爵がフレイアの後ろ盾になったということが広まっていた。
そのせいか王宮に勤めている侍女たちは皆彼女を恐れるようになった。
ウィルベルト王国の貴族であれば、誰もがレスタリア公爵の恐ろしさを知っているから。
もしこのことが国中に広まれば侍女だけではなくほとんどの貴族がフレイアを恐れるようになるだろう。
(……………私が、何とかしなければ)
私は執務室で必死に考えを巡らせていた。
レスタリア公爵家に対抗できるのはウィルベルト王国では王家の他にもう一つの公爵家であるヴェロニカ公爵家しかない。
(……ヴェロニカ公爵家が協力してくれるとは思えないし、私一人でどうにかするしかないな)
まさかフレイアがレスタリア公爵と関わりを持っていたなんて知らなかった。
平民一人追い出すなんて簡単なことだと思っていたが、これでフレイアを簡単には追い出せなくなった。
平民と公爵令嬢では訳が違う。
レスタリア公爵の言う通り、フレイアが公爵令嬢なら今までの行動は全て罪に問われない。
貴族のトップである公爵家の令嬢が下位貴族や平民を虐げたところで大した問題にはならないのだ。
もしフレイアがレスタリア公爵家の養女となれば、彼女はウィルベルト王国で一番身分の高い令嬢ということになる。
(…………絶対にダメだ)
フレイアが公爵令嬢になるなどあってはならない。
きっと今まで以上に権力を振りかざし好き放題するに違いないからだ。
それにレスタリア公爵はフレイアの後ろ盾になった理由を誤魔化したが、何かあるはずだ。
あの打算的な公爵が何の理由もなくフレイアの味方になるはずがない。
何か仕掛けてくるかもしれない。
気を付けなければ。
認めたくないが、頭の良さは私より公爵の方が上だろう。
油断するとすぐに足元をすくわれそうだ。
あの場でフレイアを庇った時点でこの先私と敵対する可能性が高い。
(はぁ~……)
私は頭を抱えた。
ウィルベルト王国で最も厄介な相手を敵に回してしまったからだ。
フランチェスカが亡くなったすぐ後にこんなことになるだなんて。
「……」
そのときふと思った。
(………………こんな時、フランチェスカならどうしただろうか)
もしフランチェスカがまだ生きていて、王妃として私の隣にいたとしたら。
彼女は私と違って優秀だから、きっとすぐに解決策を見つけるだろう。
そして私の横で的確なアドバイスをしてくれたのだろう。
しかし彼女はもういない。
そのことを考えると、胸がギュッと締め付けられた。
(…………………フランチェスカ、会いたいよ)
――ドタドタドタドタ
「……」
そのとき、部屋の外から物凄い足音が聞こえてきた。
足音を聞いた私はげんなりした。
(……………またか。今日だけで二回目だぞ)
「陛下!!!大変です!!!」
部屋の扉を勢いよく開けて入ってきたのはやはり侍従だった。
「…………今度は何だ」
ハァハァと息を切らしている侍従に私は冷静に尋ねた。
(フレイアがまた何かしでかしたのか?…………いや、何か変だ)
侍従がこんなにも慌てているのだからフレイアに関することだと思ったが、それにしては侍従の様子がいつもと違った。
体は震えていて今にも泣きそうな顔をしている。
「へ、陛下……」
「だから何なんだ」
「お、落ち着いて聞いてください」
(……一体何だというんだ)
侍従は何とか体の震えを抑えた後、私を真っ直ぐに見つめてから口を開いた。
「先王陛下と、先代王妃陛下が………………
――お亡くなりになられたそうです……………!」
「な、何だと……………?」
(亡くなった………………?父上と、母上が………………?)
私はこのときすぐに侍従の言っていることの意味を理解することが出来なかった。
そしてそれと同時に、目の前が真っ暗になった。




