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2 残酷な現実

~フランチェスカ視点~






それから一週間後。

私は陛下と結婚式を挙げた。

この日だけを楽しみに今まで頑張ってきていたのに、何故だか気分は晴れなくて。



結婚式の最中、陛下は一度も私の方を見なかった。

彼のためにと一生懸命選んだウエディングドレスも王妃の証である頭の上で光り輝くティアラも今となっては何の意味も感じられない。



即位してからの彼は仕事が忙しいからかいつも険しい顔をしていて近寄りがたかった。

昔のように私に優しい笑みを向けてくれることもほとんど無くなっていった。



(どうして……こうなったのかしら……?)



一週間前、陛下に告げられた言葉がショックで眠れない日々が続いた。

きっと今自分は酷い顔をしているだろう。

とてもじゃないが幸せそうな花嫁には見えないはずだ。

そんな自分が情けなくて仕方が無い。



私は今日、お飾りの王妃として愛する人に嫁ぐのだ。

寵愛を受けられない、憐れな王妃。

王妃としての仕事をこなすだけの女。

それならいっそ婚約破棄にしてほしかった。

そうすれば二人が仲睦まじくしている姿など見なくて済むのに。







それから私たちは無事に式を終え、式場の外に用意されていた馬車に乗った。



今からはパレードの時間だ。

国王の結婚に王都は完全に祝福ムードになっている。

民衆が馬車に乗った私たちを見て騒いでいる。

彼らは私と陛下の結婚を祝いに来ているのだ。

そんな彼らに手を振ってあげるのが王妃として正しいのだろうが、今はそんなこと出来る状態では無かった。

嫉妬に狂った醜い女だなと自分でも思う。



ふと横にいる陛下を見てみると、馬車に乗りながらキョロキョロと辺りを見回していた。

こんなにも落ち着きの無い彼を見るのは久しぶりだ。

まるで誰かを探しているようである。



(あ……)



次の瞬間、陛下の表情が驚くほど優しいものになった。

私にはもう何年も向けてくれることの無かった穏やかな笑み。

彼は頬を染めながら群衆の中のある一点を見つめている。



私はそんな陛下の姿を見て確信した。



(あぁ、彼はきっと……見つけたのね)



おそらく陛下の視線の先にはいるのだ。

彼が心の底から愛するその人が。



平民という身分では国王の結婚式には参列出来ないから、市井から彼を見に来たのだろう。

陛下はフッと優しく微笑んで視線の先にいるのであろう愛する人に軽く手を振った。



彼のその表情が、その行動が、私をいっそう惨めな気持ちにさせた。












それから結婚式が終わり、夜になった。



「……」



陛下がここに訪れることは無い。

一週間前にハッキリとそう宣言されたのだから。



そのため私は今日一人ぼっちで初夜を過ごさなくてはならない。

そのことだけが私に重くのしかかった。この先私は一生彼に愛されることはないのだと。

悲しくて苦しくて惨めでどうしようもない。






私は初夜、ベッドの上で一人涙を流した。






◇◆◇◆◇◆





そして数日後、陛下が愛妾を王宮に召し上げたという知らせが入った。



愛妾として迎えるのが思ったよりも早くて驚いた。

普通なら正妃に子供が出来るまでは待つものだ。

私と陛下の間に子供が出来ることはありえないからこんなにも早く愛妾にしたのだろうか。



「結婚して数日後に愛妾を作るだなんて非常識にも程があります!!!」



公爵家から連れて来た侍女のリリアンは声を荒げている。私のためにそんなことを言ってくれているのだろう。彼女は昔から本当に優しい人だ。



「リリアン……落ち着いて……私は平気だから」

「ですが……王妃陛下……」

「本当に大丈夫だから。この後陛下に呼ばれているの。そろそろ行くわね」



私は怒り狂うリリアンを何とか宥め、陛下の元へと向かった。










「お呼びでしょうか、国王陛下」



私は洗練された美しいカーテシーで国王陛下に謁見した。

結婚してから彼に呼ばれたのは初めてだ。

その呼ばれた理由が愛妾に関することであるというのがよりいっそう私を苦しめた。



謁見の間にいたのは陛下一人では無かった。

陛下のすぐ傍には一人の女性が佇んでいた。



私はその女性を見て確信した。



(あぁ、そうか、この人が……)



心の中でドス黒い何かが広がっていく。これはきっと嫉妬だ。

こんな気持ちを抱いてはいけないと分かっていても彼女を目の前にすると耐えられそうになかった。



陛下は私が謁見の間に来たのを確認すると口を開いた。



「あぁ、よく来たな、フランチェスカ。こちらは私の愛妾となるフレイアだ」



フレイアと紹介された女性は私に対して丁寧にお辞儀をした。



「王妃陛下、初めまして。フレイアと申します」



「初めまして、フランチェスカです」



私も彼女に挨拶を返す。

彼女の顔をまじまじと見つめた私は思った。



(……綺麗ね)



愛妾は本当に美しい人だった。

私では到底勝てそうにない。

これほどの美貌を持ち合わせているのなら陛下が好きになったのも頷ける。



(…………………惨めだわ)



彼女を見ると物凄く悲しい気持ちになった。

彼女に女として負けたのだと言われたような気分だ。

もうこれ以上彼女を視界に入れたくない。

今すぐにでもここを去りたい。



私はそう思って口を開いた。



「陛下、他に御用が無いのであれば私は失礼し―」

「ああ、フランチェスカ。実は君に頼みたいことがあるんだ」

「………………え?」



陛下が私の言葉を遮った。

どうやら私に頼みがあるのだという。



(………)



愛する人に頼られるだなんて嬉しいことなはずなのに、何だか嫌な予感がする。

彼は一体何を言うつもりなのだろうか。

まだ聞いてもいないのに不安になっている自分がいた。



しばらくして、彼は私の目をじっと見つめて口を開いた。

相変わらずその瞳には私を映してはいない。



「――君に、フレイアを守ってほしいんだ」



(…………………何を、言っているの?)



私は陛下の言葉に耳を疑った。

聞き間違いであってほしかった。

しかし、そんな私の願いも虚しく残酷な言葉が次々と耳に入ってくる。



「フレイアは平民で何の後ろ盾も無いんだ。彼女を良く思わない貴族も一定数いるだろう。出来ることなら私が守ってやりたいが王は忙しい」

「……」



陛下はグッと苦しそうな顔をした。

愛する人を守ることの出来ない自分を情けないとでも思っているのだろうか。



「ほら、君は王妃で名門公爵家の出身だろう?君がフレイアを守ってくれれば誰も彼女を悪く言えないはずだ」

「……」



正妃に、夫の愛人を守れと言うのか。

いくら何でもこれは非常識すぎる。

白い結婚の件といい、何故正妃である自分が我慢しなければいけないのか。

普通は愛人の方が立場を弁えるべきではないのだろうか。



「は……い……分かりました……陛下……」



私は声を震わせながらも返事をした。

全く理解が追いつかない。

本当は嫌だと言ってしまいたかった。

そんなのは私がやることではないと。



だけどここで断ればきっと彼に軽蔑される。

君は何て醜い人間なのだろうと。

それだけは耐えられそうになかった。



私はブルブルと身体を震わせながら俯いた。

あまりにも辛すぎて感情が表に出てしまいそうになる。



「……」



愛妾はそんな私を見て何故だか不安げな表情をしている。

何故貴方が私を見てそんな顔をするの。

愛されているのは貴方なのに。



「……陛下」



そして、彼女は陛下の方を見て口を開いた。



「どうした?フレイア」

「やはり私はッ……ここにいるべきではないのでは……?」



愛妾は目に涙を溜めて陛下を見上げた。

その姿は非常に愛らしく、これに心を動かされない男性はこの世界にいないだろうと私でも思ってしまうほどだ。



「何故だ?何故そんなことを言う?」



陛下は優しい口調でそう言いながら彼女の目に溜まった涙を手で拭ってやった。



「だって陛下にはフランチェスカ様がいらっしゃるではありませんか。私がいたらフランチェスカ様が……」

「……!」



私はその言葉にハッとなった。

実はこのとき少しだけドキドキしていた。

陛下はこれに対して何と答えるのか。



もしここで彼が少しでも私を気遣う発言をしてくれたら、私は……



しかし、現実はどこまでも残酷だった。



「――あぁ、フランチェスカのことなら気にするな。フランチェスカは私を愛していないのだから」

「え……?」



陛下の放った何気ない一言につい心の声が漏れてしまった。

しかしその声が彼ら二人に届くことはない。



「あら、そうなのですか?」

「あぁ、フランチェスカは王妃になるべくして生まれた人間だからな。だから心配しないでいい」



陛下はそう言いながら愛妾を優しく抱きしめた。



「……ッ!」



二人の抱き合う姿を見て先ほどよりも体の震えが酷くなっていった。

しかし、それ以上にショックだったのは彼が発した言葉だった。



(嘘……そんな……)



私は陛下を愛している。

この世界の誰よりも。

だから厳しい王妃教育にも耐えることが出来た。

それなのに―



どうやら私の愛は彼には全く伝わっていなかったようだ。

私は彼に王妃の座だけが目当ての女だと思われていたらしい。

私はそこでフッと自分自身を嘲笑うかのような笑みを溢した。



(ハハッ……それなら愛せないのも当然か……)








あの後、私はおぼつかない足取りで謁見の間を出て行った。



これから私はお飾りの王妃としてこの王宮で過ごさなければいけないのだ。

死ぬまでずっと。

そう考えると目から涙が溢れそうになった。

すれ違う使用人達が生気の無い顔で廊下を歩く私を見て口々に言う。



「見て、王妃陛下よ……お可哀そう、あれだけレオン陛下を慕っていらしたのにポッと出の平民女に奪われてしまうだなんて」

「どうやら結婚式の一週間前に陛下から直々に白い結婚を宣言されたらしいわよ」

「ウソ!私がフランチェスカ様だったら自殺しちゃうわ」



侍女たちの心無い言葉が胸に突き刺さる。



私はそれらを聞きたくなくて早足で自室へと戻った。




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