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14 舞踏会

しばらくして、舞踏会が開かれる時間になった。



私は正装である黒い軍服を身に纏い、軽く身だしなみを整えて会場へと向かう。



国王である私の入場の順番は一番最後だ。

ホールでは既に貴族たちが王の誕生日を祝いに集まっている頃だろう。



(……こんな時に祝い事か)



一年に一度の誕生日だというのに、私は朝からずっと気乗りしないままだった。

今祝われたところで別に嬉しくも何ともない。

本音を言えば誰とも会いたくなかった。



舞踏会と聞くと平民たちは華やかな場を想像するだろう。

美しいドレスに身を包んだ女性たちが男性の手を取ってホールで踊り、ワイン片手に談笑をする。

憧れを抱く者も多いはずだ。

しかし、実際はそんなものではないことを私はよく知っている。



――ウィルベルト王国の名門公爵家の令嬢で、当時王太子の婚約者だったフランチェスカですら貴族たちの悪意に晒されていたのだから。



貴族というのはプライドが高く、腹黒な人間が多い。

そんな貴族たちが自分より権力を持つ者に取る行動は大きく分けて二つだ。

媚びを売るか、貶めるか。



私の場合は媚びを売ってくるものが圧倒的に多かったが、フランチェスカの場合はそうではなかった。

伯爵以上の爵位を持つ貴族の令嬢は、事あるごとにフランチェスカを蹴落として自分が王太子妃になろうとした。



(あれは本当に見ていて気分が悪かった。これだから貴族はあまり好きではない)



私は歩きながらハァとため息をついた。



私は昔からフランチェスカ以外の貴族の令嬢がどうも苦手だった。

彼女が亡くなり王妃の座が空席となっている今、その椅子を狙う者も現れるだろう。



そのことを考えると頭が痛くなる。



(王である以上、国のことを考えれば妃を娶るべきなのだろう。しかし、私は……)



そんなことを考えながら歩いていると、後ろに付いていた侍従が突然私に話しかけた。



「陛下、ずっと前から思ってたんですけど陛下って何か歩くの遅くないですか?」

「……」



この侍従はフランチェスカが亡くなってから私に無礼な態度を取るようになった。

侍従とはかなり長い付き合いであり、最も信頼のおける相手なので別に気にしてはいないが。



それよりも私は侍従の言葉の真意が気になった。



「……それはどういう意味だ?」



私は前を向いたまま侍従に聞き返した。



(こいつは急に何を言い出すんだ)



「そのままの意味ですよ。陛下って歩くの遅いですよね。一緒に歩くこっちの身にもなってくださいよ。毎回毎回合わせるの大変なんですから」



私の問いに侍従は少し不満げに答えた。



「……そんなに遅いか?」

「はい」



(歩くのが遅い……か)






『レオ!もう、足速すぎるよ!少しくらい待ってくれたっていいじゃない!』






そのときに私の頭に浮かんだのは、まだ幼かった頃のフランチェスカとの記憶だった。



彼女は勉学においては優秀な人物だったが、どうも運動は苦手なようだった。

私は幼い頃から剣術を嗜んでいたからか同年代の令息たちに比べれば体力はそこそこある方で、二人で遊んだりすると先に体力の限界を迎えるのはいつもフランチェスカの方だった。



それに加えてフランチェスカは歩くのも遅かった。

隣を歩いていてもいつの間にか後ろにいるのだから。



そんなときはいつだって小さな手で私の服の裾をギュッと掴んで頬を膨らませていた。



(……癖になってたんだな)



フランチェスカが隣を歩いている。

それが当たり前のことすぎて、どうやら私は無意識に歩くのが遅くなっていたらしい。



幼い頃の私とフランチェスカは好奇心旺盛でヤンチャな性格だった。

イタズラをしたり、二人で王宮を走り回ったりもしていた。



(淑女が走るなど本当ならあってはならないことだが……)



あの頃のフランチェスカは本当に可愛かったなと思う。

もちろん大人になった彼女が可愛くないわけではないが。



「ふっ……」



フランチェスカと過ごした日々を思い出して自然と口元が緩んだ。



私を穏やかな気持ちにさせてくれるのはいつだって彼女との記憶だった。

王宮の庭園でお茶をしたり、お忍びで市井へ出かけたり、二人でダンスの練習をしたり。

そのどれもが大切な思い出だった。



物心ついた時にはいつもフランチェスカが傍にいた。

彼女は間違いなく私の家族で、唯一無二の存在だった。



(何で君は今……私の隣にいないんだろうな……)



それが自分のせいであると分かってはいたが、信じたくなかった。



「陛下、会場に着きましたよ」

「!」



考え事をしているうちにホールの入り口に着いたようだ。



「ああ、今行く」



私はそこで一度考えるのをやめ、扉の前に立った。







「レオン・ウィルベルト国王陛下です!!!」



そして扉の横にいた騎士の声でホールへと足を踏み入れた――




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