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第9話

 エミリーナが、まったく同じ問いを、もう一度繰り返す。


「そんなところで、何してるの?」


 さすがに、二度も聞かれて何も言葉を返さないのは怪しすぎる。私は「えっと……」と前置きをして、乾いた喉から声を絞り出すようにして、答えた。


「あの、今日は日差しが強いから、ちょっとだけ気分が悪くなって、少し、休憩してたの」


 咄嗟に思いついた割には、良い言い訳だと思う。

 実際にこの時期は、強い日差しに当てられて体調を崩す女生徒が多いからだ。


 エミリーナの鋭い瞳が、心配そうに細められ、彼女は私の手を取りながら、言う。


「そうなんだ。無理もないわ。確かに最近、急に日差しが強くなったものね」


「え、ええ。本当に……」


「ところでアンジェラさん。私とチェスタスの話、どこから聞いてた?」


 突然そう問われ、私はゴクリと唾を飲み込んだ。やはり、『音声盗聴魔術』を使っていたことは、完全にバレてしまっているようだ。


 ……いいわ、こうなったらもう、こっちも覚悟を決めて相手をするしかない。盗み聞きしていた私にまったく非がないとは言わないけど、それでも、不正を働いているエミリーナとチェスタスの方に、もっと大きな問題があるのは明白だ。私は堂々と胸を張り、言う。


「……最初からよ。チェスタスとあなたが、私を笑ってたのも、そして、あなたの裏口入学の件も、全部、聞いてたわ」


 エミリーナは、一度深く息を吸い、それから同じリズムで、吐く。

 そして、低いが、良く通る声で、ポツリ、ポツリと呟いた。


「そうなんだ。困ったなあ」


 私たちはしばし、無言のまま見つめ合った。

 そこでやっと、チェスタスがこちらに向かって歩いて来た。


「おぉい、エミリーナ、いきなり走り出して、どうしたんだい? って、あれ、アンジェラ? なんでそんなとこに?」


 なんておめでたい男だろう。

 今現在の緊迫した状況が、チェスタスにはまったくわかっていないようだ。


 エミリーナはちらりとチェスタスの方を見て、「ふん」と鼻を鳴らし、それから私に向き直ると、耳元で静かに囁く。


「アンジェラさん、チェスタスがまざると話がこじれそうだから、二人で話さない?」


 私は一瞬だけ考えて、「そうね」と頷いた。


 チェスタスは、明らかにエミリーナの味方なわけだし、二対一より、エミリーナと一対一で話す方が組みしやすいと判断したのだ。


 エミリーナはニッコリ微笑んで、人差し指を空に向けながら、言う。


「じゃあ場所を変えて、授業が始まる前に話をつけましょう。……そうね、学校の屋上がいいわ。あそこなら、この時間、誰もいないから」

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