第56話
ポロリと、涙が出た。
喜びと悲しみ。
その二つが混ざった涙だった。
こんな、最高の状況で、何を悲しむの?
……なんだか、申し訳なかったのだ。
エミリーナが、狂おしいまでに憧れた、天窓の見える王宮の一室。
エミリーナが、道を間違えてまで憧れた、この世で最も美しい場所。
しかし、そこで幸せをつかんだのは私であり、エミリーナは失望の果てに、これから長い贖罪の時を過ごすことになる。……エミリーナは、かつて、このようなことを言っていた。
『上級貴族のあなたは、生まれた時から輝かしい未来が約束されている』
少し言い回しは違うが、だいたい、こんな感じのことだ。
……本当に、彼女の言う通りなのかもしれない。
私はただ、生まれながらに、幸運の女神の寵愛を受けているだけ。
そんな私が、すべてを手に入れて、いいのだろうか?
そんなこと、許されるのだろうか?
私の苦悩が伝わったのか、ナディアス王子は唇を離し、心配そうに問う。
「アンジェラさん、どうしました……?」
私は自分の心情を、全て、正直に吐露した。
「ナディアス王子……私、エミリーナのことがかわいそうで、仕方ないんです。あの子はあんなにも王宮に入ることに憧れていたのに、この部屋に入って、結局は深い失望を感じ、これから、長い刑期を務めなきゃいけない。それが、かわいそうで、かわいそうで……」
ナディアス王子は、私をそっと抱きしめ、背中を撫でてくれた。
そして、諭すように、静かに口を開く。
「……そうですね。しかし、彼女が罪を犯したのは、まぎれもない事実。それに対する罰は、受けなければなりません。法律で決まっているから、というわけではなく、それが、人の世の道理だからです。……ですが、エミリーナさんがこの部屋で感じたのは、必ずしも失望だけではないと思いますよ」
「えっ?」
「彼女は、あなたという友を得たのです。これまで、虎狼のごとき野心を胸に秘め、孤独な努力を続けてきた彼女にとって、それはとても新鮮で、やっと心が落ち着いたような気分だったことでしょう」
「…………」
「エミリーナさんは、アンジェラさんに向かって、こう言っていましたね。『あなたみたいな人が王宮で働けば、きっと、この国は良くなるでしょうね』と。彼女は期待しているのです。アンジェラさんなら、優秀な宮廷魔導師になって、この間違いばかりの世の中を正していけると。……私も協力します。頑張りましょう、二人で」




