第50話
その不気味な笑顔に困惑し、ナディアス王子は問いかけた。
「……チェスタスくん、どうしました?」
「んふ、んふふ、ナディアス王子も人が悪いなぁ、起こるはずもない酷い未来の話をして、僕を怖がらせるなんて。ああ、きっと、こうやって僕を脅かして、罰を与えようとしたんですね。いや、参った参った。確かにこれは、とんでもない罰でしたよ。寿命が縮まりました」
ナディアス王子は、首をかしげる。
「いや、私は、すべての事実を、ありのまま伝えただけですが……」
「んほほほほ、もういいですって。僕は大丈夫なんですよ。たとえディアルデン家がお取り潰しになり、王立高等貴族院を除名されても、僕だけは、今まで通りの上等な暮らしを続けることができるんです」
そこでチェスタスは私の肩を、腕に抱いた。
「だって僕は、アンジェラの婚約者なんですから! アンジェラと結婚すれば、婿養子みたいな形になっちゃうのはちょっと不満だけど、一応上級貴族の家に入れることになる。そうすれば、何もかも今まで通りだ。まあ、王立高等貴族院には戻れないけど、勉強なんてもともと好きじゃないから、それは別にいいや! あははっ!」
……
…………
………………はぁ?
こいつは、こいつは、いや、ほんとにこいつは、何を言っているのだろう。
まさか、いまだに、私の婚約者であるつもりなのか?
まさか、いまだに、私が自分のことを好いていてくれると思っているのか?
まさか、いまだに、贅沢な暮らしが永遠に続くと思っているのか?
もう、付き合ってられない。
私は、馴れ馴れしく肩に回されたチェスタスの手を振り払い、その勢いのまま、彼の顔を平手打ちした。すぱぁんっと、小気味よい音がして、胸の中に溜まっていた苛立ちの泡が、はじけ飛ぶような気分だった。
叩かれたショックで尻もちをついたチェスタスが、頬を押さえながら、私を見上げ、言う。
「な、なにをするんだ、アンジェラ……? 酷い……父上にも、叔父上にもぶたれたことなんてないのに……!」
あああああ。
なんて情けない。
それでも男なの?
この卑屈な瞳、見てるとイライラする。
大変な不正に加担しながら、ほんの少しの罪悪感も、欠片ほどの覚悟すらもなかった、どうしようもない男。一時とはいえ、こんなやつを好きになってただなんて、過去の自分に腹が立つ。
エミリーナの方が、あんたよりずっと凛々しくて、覚悟が決まってたわ。
こんな男、叩く価値もなかった。私は憤然とし、言い放つ。
「チェスタス、あなたとは今日限りの付き合いよ。さよなら、二度と私の前に姿を現さないで」




