第49話
チェスタスは、あんぐりと口を開け、ナディアス王子の話を聞いている。時折、受け止めきれない事実の確認をするかのように「え?」「は?」「うそっ?」と呟き、最後に「それ、本当の話ですか?」と問いかけた。
ナディアス王子は、厳しい目つきで肯定する。
「すべて、本当の話です。チェスタスくん、きみはこれから、何者でもなくなるのです。だから、自分で住むところを見つけ、自分でお金を稼ぎ、自分で食事を作らなければならない。これまで、選ばれた上級貴族の令息として、身の回りのことはすべて他人にしてもらい、徹底的に甘やかされてきたきみにとって、想像以上に苦しい日々となることでしょう」
チェスタスは、いきなり「ほおぉっ!?」と奇声を上げた。
ガンアイン氏のものに、よく似ている、さすがは親族である。
「ほっ、ほぉっ!? ナ、ナディアス王子っ! そ、そんなの困ります! 僕は、自分一人では、風呂で頭を洗うこともできないんですっ! どうにかなりませんか!?」
「どうにもなりません。これが、きみのやったことの結果です。もしもきみが、ガンアイン氏の不正を告発していれば……いえ、告発とまではいかなくても、せめて、積極的に手伝わず、見て見ぬふりをする程度だったなら、ディアルデン家は格式を下げられはしたでしょうが、お取り潰しにはならなかったかもしれない。でも、もう遅い」
「そんな! 困る、困ります! 今言ったでしょう!? 僕は一人では、風呂で頭を……」
「そんな心配は、しなくても大丈夫でしょう。上級貴族のきみは知らないでしょうが、お風呂のある家に住むというのは、大変なことです。何の後ろ盾も、働くすべも持たないきみが、そう簡単に住めるものではないんですよ」
「じゃ、じゃあ僕は、これからどこで、体と頭を洗えばいいんです?」
ナディアス王子は、少しだけ考えて、ぽつりと言う。
「川とか……」
チェスタスは、叫んだ。
「川!? 冗談じゃない! 僕が! 高貴なる上級貴族の僕が! 川で身体を洗う!? こきたない浮浪者みたいに!? じょ、じょ、じょ、冗談にもほどがあるっ! ほおおおぉぉぉっ!!」
チェスタスは、喚いた。
とにかく、滅茶苦茶に喚き、床を転げまわった。
そして喚き疲れたのか、転がるのをやめると、しばらく黙った。
二十秒ほど経って、ゆっくりと起き上がった彼の顔は、意外にも笑顔だった。
なんだか、良いことを思いついたような顔だ。
チェスタスはじぃっと私の方を見て、ニヤニヤ笑うと、今度はナディアス王子に向き直り、にちゃりとした粘着質の笑顔を作った。




