第40話
ナディアス王子は小さく呪文を唱え、水晶に魔力を込める。
すると水晶から、聞き覚えのある声が流れ出した。
『うん。持って回った言い方をしてもしょうがないから、ハッキリ言おう。……金だよ。本来の制度を曲げて口利きをするということは、このワシも、王立高等貴族院の理事長も、かなりのリスクを背負うことになる。だから、それ相応の見返りを期待するのは当然だと思わんかね?』
それは先程、ディアルデン家の当主室で、ガンアイン氏が語った言葉だった。青ざめるガンアイン氏に、ナディアス王子は淡々と語り続ける。
「アンジェラさんが持っていた魔導具を通して、すべての会話は私の持つこの魔導具に転送され、録音されているんです。ガンアイン殿、あなたは自分の口で、金銭と引き換えに、本来の制度を曲げて入学の口利きをするとハッキリ言ってます。これは決定的な証拠です。だから言ったでしょう? もう言い逃れのしようがないって」
ガンアイン氏は、奇声を上げた。
「ほおぉぉぉーっ!? 馬鹿な! 音声を録音するだけでも大変なのに、魔導具を使って音を転送し、それを記録するなんて、できるはずがないっ! 天才のワシでも無理なのにっ! できるはずがなぁいっ! インチキだ!! こんなもの、インチキに決まってるっ!!!」
そのあまりにも見苦しい姿に、ナディアス王子はかすかな哀れみの瞳を向け、言う。
「ガンアイン殿。魔法の技術研究は、日々進んでいるのです。あなたが王宮を去り、研鑽を怠っている間も、ひたすらね。録音した音声は正式な証拠として扱われると、司法省にも承認してもらっています。……あと一度だけ言いますね。もう言い逃れはできないんですよ」
「ほぉっ! ほおぉっー! だ、だが、その音声で立証できるのは、ワシが『金と引き換えに不正をしようとした』という、未遂の段階の話ではないのかね!? これまで起こった不正のすべてを立証するなんて、不可能のはずだ!」
むむむ。
しぶといわねこの男。
でも、言われてみればそうかもしれない。
ああ、返す返すも、書類改ざんの履歴が燃えてしまわなければ……
だが、悔やむ私とは違い、ナディアス王子は少しも動揺していない。
王子は「失礼」と言い、私の肩に手をやると、服についていた黒い小さな粒を指に取った。……それはガンアイン氏に燃やされ、炭化した書類の欠片だった。そして、ナディアス王子は何かの呪文を唱える。
次の瞬間だった。
書類の欠片が、青白い光と共に見る見るうちに再生し、もとの書類へと復元されたのだ。




