第39話
そこでナディアス王子は、私の前に膝をつき、深々と頭を下げた。
いきなりのことに恐縮し、私も慌てて王子の前に膝をついて、言う。
「ちょっ、王子様、どうしたんですか? 頭を上げてください……っ」
しかし、ナディアス王子は下げた頭を決してあげようとはしない。
顔を伏せたまま、王子は言葉を紡いでいく。
「いえ、このまま正式に謝罪をさせてください。結果的に、ディアルデン家の調査をするために、私はあなたを利用したのですから。本当に申し訳ありませんでした」
王子様が私に頭を下げ続けるという奇特な状況に耐えられず、不敬かとも思ったが、私はナディアス王子の両肩を掴み、ほとんど無理やりに体を起こさせた。そして、首を左右に振る。
「ナディアス王子、私、利用されただなんて思ってません。だって、全部自分の意思で決めたことですから。それに、あんな凄い魔導具で私を助けてくれて、とても感謝しています。あれがなかったら、今頃どうなってたことか……」
ナディアス王子も私と同じように、静かに首を左右に振り、言う。
「あんな魔導具など、大したものではありませんよ。本当に凄いのは、間違いを許さない、あなたの気高さと勇気の方です。……アンジェラさん、よく勇気を出して、ディアルデン家の調査をしてくれましたね。あなたのおかげで、言い逃れしようのない証拠をつかむことができました。これで、王立高等貴族院に関する不正の根を、一掃することができそうです」
王子様に褒められて、誇らしい気分になったのもつかの間、その『言い逃れしようのない証拠』が燃えてしまったことを思い出し、私はしょぼくれてしまう。
「ごめんなさい、ナディアス王子……証拠の書類は、一度はこの腕に握ったんですけど、もう……」
そこで、今まで黙っていたガンアイン氏の、勝ち誇ったような声が響いてくる。
「ほほ、ほほほほ! そう、全部燃えてしまったんですよねぇ! いやいや、残念残念、残念至極。ナディアス王子殿下、先ほどから色々と、わたくしめや王立高等貴族院理事長のことを悪く言っておられましたが、すべては『疑い』の段階に過ぎず、結局、決定的な証拠はない。これでは、我々を罪に問うことなど……」
その甲高い声を、ナディアス王子は断ち切るように遮った。
「何を言っているんです? 証拠ならありますよ、ここにね」
そして、ナディアス王子は厳しい顔でガンアイン氏に向き直ると、自らの懐から、卵サイズの何かを取りだした。……それは、私に手渡された魔導具にそっくりの、小さな水晶だった。




