第38話
なるほど。一応は納得したが、それでも王子様みずからが潜入調査とは、実に大胆な行動である。私は今思った通りのことを、ほとんどそのまま口に出した。
「あの、王子様が潜入調査なんて大胆な行動をして、大丈夫なんですか?」
「本来なら、あまり良いことではないでしょうが、部下である宮廷魔導師たちにも、王立高等貴族院理事長の息がかかった者がいる可能性が否定できなかったので、私自身でやるしかなかったのです」
あっ、そうか。
理事長に助けてもらって、不正な方法で宮廷魔導師になった人もいるわけだから、誰も信用できないんだ。
「幸い、第一王子である兄上とは違い、私はあまり表で活動することはありませんから、一般の国民にはほとんど顔を知られていません。見た目の印象を変える魔法で、少しだけ目鼻立ちも調整したので、誰も私の正体に気がつく者はいませんでした。しかし……」
ナディアス王子は小さくため息を漏らし、息を吐ききると同時に、話を継続する。
「理事長は思った以上に用心深く、半年たっても決定的な証拠をつかむことはできませんでした。悩んだ私はアプローチの方法を変え、今度はディアルデン家への潜入を試みましたが、ガンアイン氏は、身内と、ごく近しい知人、友人、そして古くからの使用人以外は一切信用しないので、それは不可能でした」
「王室の権威を使って、無理やり強制調査とかをするわけには、いかなかったんですか?」
「ディアルデン家は、名家中の名家ですからね。クーデターでも起こそうとしているならともかく、『王立高等貴族院の不正にかかわっている疑いがある』というだけでは、強引な真似はできません。ハッキリ言って、私は完全に手詰まりとなり、ほとほと困ってしまいました。……そんな時、あなたが悩みを打ち明けてくれたのです」
二日前、夕暮れ時の教室で、メイナード先生に悩みを相談したことを私は思い出した。なんだか、もうずいぶん昔のことに思える。……あれからいろんなことが起こったけど、まだたった二日しかたっていないのね。
「アンジェラさん、あの時の私も、あなたと同じく悩んでいました。いつまでたっても、不正の証拠を握ることのできない自分の情けなさに歯がゆい思いをし、そのせいもあってか、つい、あなたに口を滑らせてしまったのです。王立高等貴族院の調査をしていることを……」
「…………」
「その結果、あなたはエミリーナさんに目をつけられ、危うく殺されてしまうところだった。……私は自分のうかつさを後悔しましたが、ディアルデン家の御曹司――チェスタスくんの婚約者であるあなたなら、ディアルデン家に直接入り込み、不正の証拠をつかむことができるのでは、とも思いました」




