第33話
そしてエミリーナは私の元にやってくると、身体検査をしながら、私だけに聞こえるよう小さな声で囁く。
「今までの話、聞いていたわよね? これからあなたは、あのゲスに体を弄ばれることになる。……最低よ。間違った国の、間違った大人たち。吐き気がするわ。あなた、私の不正入学を『間違ってる』って言ってたけど、これでわかったでしょう? 間違ってるのは、私だけじゃない。間違ってるのは、この国のすべてよ」
エミリーナは、自らの唇を噛んだ。
血がにじむほどに、噛んだ。
本当に、悔しそうな眼をしていた。
「チェスタスも、最低のクズよ。婚約者のあなたを、実の叔父が調教すると言い出したのに、止めるそぶりすらない。見てよ、あの顔。この状況で、あくびをかいてるわ。『まだ寝足りないから、もう一度ベッドに戻って寝たい』それしか考えてないのよ、あの馬鹿は。……上級貴族なんて名ばかりの、最低の奴ばかり、ほんと、うんざりだわ」
「…………」
「そして、そんな最低の連中に取り入り、不正な方法で王立高等貴族院に入った私も、最低よ。……でもね、私はあいつらよりは腐ってないわ。アンジェラ、あなたが望むなら、このまま私が、あなたを殺してあげる」
エミリーナはそこで一度言葉を切り、私に言い聞かせるように話を続ける。
「苦痛は感じさせないわ。心臓に魔力を直接流し込み、一瞬で命を絶つ。そうすれば、綺麗な体のまま、少なくとも誇りだけは守って死ぬことができるわ。ガンアインみたいな、畜生以下の下劣な男に調教されるよりは、ずっといいでしょ?」
そこで私は、唇が自由に動くことに気がついた。
金縛りの魔法とやらも絶対ではなく、時間と共に効果は弱まるらしい。
だが、やはり足は動かない。
腕の動きも、先程よりはマシになっているが、まだまだ鈍い。
私は、やっと動くようになった唇で、エミリーナに言う。
「でも、エミリーナ。そんなことしたら、あなた、ガンアインさんに怒られるんじゃない? ううん、それどころか、私の代わりに酷いことをされるかも……」
「それくらい、どうってことないわよ。……どうせ私は、もう汚れてるし。アンジェラ、あなたは汚されずに、綺麗なまま死んでほしいのよ。これはあなたのためって言うより、私の願望ね」
「どうして、そんなことを願うの?」
「さあ、どうしてかしら。自分でもよくわからないけど、たぶん私、あなたのこと、好きなのよ。間違ったことを許さない気高い姿に苛立ちもしたけど、それと同じくらい、敬意も感じたわ。この国の連中は、私も含めて薄汚れた奴ばかりだから、なおさらね。……だから高潔なあなたが、ゲスな男に嬲られると思うと、たまらなく不愉快な気持ちになるの」




