第32話
調教!?
おぞましい言葉を聞き、すぐにでもここから逃げ出したくなったが、駄目だ。どうやっても体が動かない。……いや、そうでもない。上半身に限っては、思いっきり力を込めれば、少しずつだが動かすことができる。しかし下半身――特に足は、駄目だ。まるで地面に根が生えたかのように、微動だにしない。
必死になって動こうとしている私を見て、ガンアイン氏はほくそ笑む。
「ほほほっ、そんなに心配しなくても、朝、昼、晩、ちゃんと餌は食べさせてあげるし、三時にはおやつだって出してあげよう。時々は太陽の下に出して、庭を散歩させてあげるからね。ほほ、ほほほ、どうだい? これで安心だろう?」
ふざけないで!
誰もそんな心配してないわよ!
『このまま口封じのために殺されるよりはずっとマシだろう?』とでも言いたげなガンアイン氏の脂ぎった顔を、渾身の力を込めて蹴飛ばしてやりたい気分だったが、やはりどんなに頑張っても、私の意思に反して、足はピクリとも動かない。悔しくて悔しくて、目の端には涙がにじんだ。
こんな卑劣な男に好き放題にされるくらいなら、このまま殺された方がマシだわ――
そんなことを考え始めていると、それまで黙っていたエミリーナが、ガンアイン氏の前に出て、真剣な調子で言う。
「ガンアイン様。アンジェラは油断ならない子です。意志も強く、誇り高い。……調教なんて、できるとは思えません。余計なことは考えずに、このまま始末するべきだと私は思います」
……気のせいだろうか? 『調教』という言葉を口に出す際、エミリーナの目元が忌々しげに歪んだ気がする。彼女もまた、ガンアイン氏の物言いに不快感を覚えているのかもしれない。
しかし、ガンアイン氏はエミリーナの気持ちなどどうでもいいらしく、子供のように口をとがらせて不満を垂れる。
「えぇ~、でもワシ、アンジェラのこと、調教したい~」
「ですが、アンジェラは……っ」
「大丈夫大丈夫、やるだけやって駄目だったら、ちゃんと始末するから心配ないって。ほほほっ」
「……そうですか、わかりました。では、アンジェラが何か危険な武器を所持していないか、私が確認します。ガンアイン様に、もしものことがあってはいけませんので」
「うんうん、そうか。確かにそうだね。エミリーナは細かいところまで気がついて、偉いねぇ」
嬉しそうにそう言って、ガンアイン氏はエミリーナの頭を撫でた。エミリーナは従順に頭を下げ、それを受け入れていたが、私は見た。彼女の瞳に、どす黒いほどの怒りと嫌悪感が浮かんでいることに。




