第31話
驚き、固まったままの私に、ガンアイン氏は「ほほほ」と笑いかける。
「どうだい? なかなか面白い魔法だろう? こんなことができる魔法使いは、国中探してもそうはいないんだよ。ワシ、こう見えても、王立高等貴族院をトップクラスの成績で卒業した、魔法の天才だからね。若い頃は、王宮で王族に直接仕える宮廷魔導師をやってたこともある。ほほほ、ちょいとトラブルを起こしてクビにされちゃったけどね」
この人の言動を見ていれば、どんなトラブルを起こしたのかは、だいたい予想がつく。
しかしまさか、ガンアイン氏が元宮廷魔導師だったとは。
……これは本格的に大ピンチだわ。宮廷魔導師といえば、エリート中のエリートであり、この国の魔法使いたちの中でも最強の部類に属する存在だ。とてもではないが、今の私が太刀打ちできる相手ではない。
これからどう行動するべきか考えあぐねていると、バッサバッサと羽ばたき続けていた書類たちが、突然燃え上がり、たったの十秒で炭化してしまった。恐らくガンアイン氏が発火の魔法を使ったのだろう。
ああぁ……大事な証拠が……
私は両手を伸ばし、目の前を舞い散る『証拠だったもの』の欠片を集めようとする。もう真っ黒に炭化しているので、集めたところで意味はないが、そうせずにはいられなかった。
しかし、宙をもがくようだった私の両腕が突然静止する。
自分の意思で止まったのではない。動けないのだ。
腕だけではなく、足も動かない。
唇を、かすかにふるわせることすらかなわない。
なんとか自由に動くのは首回りだけだ。
狼狽する私に、ガンアイン氏は楽しそうに言う。
「ほほほ、金縛りの魔法だよ。これ、ワシの一番好きな魔法。体の自由を奪ってしまえば、生意気な小娘も、皆怯えて大人しくなるからね、ほほ、ほほほ。さぁて、これからどうしようかね。色々と知られてしまった以上、もうおうちに帰してあげることはできないが、殺してしまうのもちょっとねぇ。惜しいよねぇ。ほほほほ」
ガンアイン氏は舌なめずりをしながら、私の頭の頂点からつま先までを、じっくり、ねっとりと、舐めるように見る。卑猥で陰湿な視線に耐えられなくなった私は、思わず目を背けた。
「ほほほほ、よぉし、決めたぞ。この地下室にちょいと手を加えて、監禁部屋にしよう。そしてアンジェラ、きみがディアルデン家がおこなってきた不正のことを完全に忘れ、余計なことを喋ったりする気力がなくなるまで、心も体も徹底的に調教してあげようかね。ほほっ」




