第29話
「でも、だからって……不正入学なんて方法は……」
「ふん、どうせまた『間違ってる』とでも言いたいんでしょ? 昨日も言ったけど、あんたに言われなくてもそんなこと百も承知よ。じゃあ、どうすればいいのよ? 例えば不正なんてせずに、あんたの所に『助けて』って頼みに行ったら、あんたは私を助けてくれたわけ? そんなの無理でしょ?」
私は、答えられなかった。
エミリーナの問いに対する答えを持ち合わせていない……と言うわけではなく、彼女の言った『そんなの無理でしょ?』という言葉がすべてだったからだ。
エミリーナは勝ち誇ったように小さく微笑み、全身に魔力を滾らせた。会話をしている間に、消費した魔力の回復を図っていたらしい。大したスタミナである。
「いいのよ、別にあんたを責めてるわけじゃない。私の考えを分かって欲しいとも思わない。さあ、勝負を続けましょう。あんたと戦うの、思ったよりずっと楽しいわ。……でも、世間知らずの甘ったれた上級貴族の娘なんかに、私は絶対に負けない。未来を勝ち取るために、ここであんたを殺して証拠はすべて隠滅する」
やはり、戦い続けるしかないのか。
エミリーナの話を聞いて少々思うところもあるが、だからと言って殺されるわけにはいかない。随分と疲れたが、私だって魔力はまだある。こうなったら根競べだ。私は臨戦態勢を取り、再びエミリーナと向かい合った。
しかし、今まさに攻撃魔法と防御魔法が激突するといった場面で、突然気の抜けた声が響いてくる。
「おぉ~い。人の部屋の真下でドタンバタンと、何やってるんだい? うるさくて寝てられないよ~」
私とエミリーナは、同時に声の方を見る。
そこには寝ぐせだらけであくびをかく、パジャマ姿のチェスタスがいた。
……そうか。屋敷の間取り的に、地下室の上はチェスタスの私室だ。
攻撃魔法と防御魔法の激突音は、極端に大きな音というわけではないので、他の部屋にまでは響かないだろうが、真上だけは別だ。空気の振動が天井を揺らし、のんびりと眠っていたチェスタスを起こしてしまったに違いない。
エミリーナは興ざめしたという感じで舌打ちすると、私に言う。
「ふん。アンジェラ、あなたとの一騎打ち、なかなか楽しかったけど、いつまでも遊んでるわけにもいかないし、どうやらここまでね」
それから彼女は、チェスタスに向かって声を張り上げる。
「チェスタス! アンジェラに不正入学の証拠を掴まれたわ! 彼女をどうにかしなきゃいけない! 今すぐ上に行って、ガンアイン様を連れてきて!」




