第26話
エミリーナは小さく息を吐き、言葉を続ける。
「あなたは『チェスタスの婚約者』という、私にとって難しい立場の人だったから、良い関係は築けなかったけど、私、個人的にはあなたのこと、好きだったのよ。間抜けなボンボンのチェスタスなんかより、よっぽどね。……できることなら、あなたと友達になって、魔法の研究についても色々話し合ってみたかったわ」
「そうね。そうなれたら、楽しかったかもしれないわね」
嫌味ではなく、そう思った。
昨日は殺されかけたわけだが、エミリーナの使った、高等な『重力操作魔法』には素直に感心したし、私としても、向上心があり、無意味な遊びで時間を浪費せず、ひたすらに魔法の研鑽を重ねるようなタイプの人は好きだ。……エミリーナとも出会う形が違っていたら、案外本当に良い友達になれたかもしれない。
エミリーナは微笑を浮かべ、私の抱える書類を指さし、言う。
「あなたが抱えてるの、入学に関する書類を改ざんした証拠でしょ? ……聞くまでもないことだけど、一応聞いておくわね、それ、どうする気?」
私は、証拠を守るように強く抱きしめ、少しだけ声のトーンを上げる。
「エミリーナ、あなたの予想通りよ。この証拠は信頼できる人に渡すわ。そして、すべてを白日のもとにさらしてもらう」
「そんなことをすれば、ディアルデン家はもちろん、あなたの家も、何かとばっちりを受けるかもしれないわよ。だって、あなたの家とディアルデン家って、子供同士を婚約させるくらい関係が深いんでしょ? やめておいた方が賢明じゃない?」
「もしかしたら、そうかもしれない。でもやっぱり私は、間違っていることを、そのままにしておくことはできない。たとえそれで自分が不利益を被るとしても、私は自分が正しいと思う道を行くわ」
「そう。ご立派ね」
小さく呟くと同時に、エミリーナは呪文を唱えた。
私もすぐに、呪文を唱える。
空中で、空気が弾ける激しい音がした。
エミリーナの発動した攻撃呪文と、私の発動した防御呪文が衝突したのだ。
……エミリーナがここに現れた瞬間から、私はずっと彼女の口元を見て、いつ魔法を使ってくるかと警戒していた。昨日、私を殺そうとしたエミリーナなら、私が確固たる証拠を握った今、再び命を狙うことを躊躇などしないと思ったからだ。
「ちっ」
エミリーナは忌々しげに眉を顰め、舌打ちをした。
私は「ふん」と笑い、言う。
「それ、学校では禁止されている攻撃魔法でしょ。あなた、凄いわね。独学で覚えたの? でも、そう簡単に私を殺すことはできないわよ。私、盗聴魔法も解錠魔法も得意だけど、一番自信があるのは防御の魔法だから」




