第20話
今までの甲高い声とは毛色が違う、迫力のある低い声にやや圧倒されながらも、私は平静を装って答える。
「言った通りの意味です。……あまり、露骨な表現は使わない方がいいでしょう? どこで誰が聞き耳を立てているか分かりませんから」
ガンアイン氏は、笑った。
「ほほ、確かにその通りだ。なるほど、口利き……んん~……口利きかぁ……奥ゆかしくて、良い表現だねぇ。ほほほ、気に入ったよ、ほほほほほ」
……『不正入学』を『口利き』と言い換えるのがよほど気に入ったのか、その後も十秒ほど、ガンアイン氏は『ほほほほほ』と笑い続けた。そしてピシャリと笑うのをやめると、先程以上に真剣な目で私を見つめ、言う。
「そうだねぇ、確かにワシは、王立高等貴族院の理事長と仲が良い。だから、多少は『口利き』らしきことをしてあげることもできるかもしれない」
「ほ、本当ですか?」
「だが、それには二つ条件がある」
「……なんでしょう?」
「きみの言う、『王立高等貴族院に転入したがってる私の友達』とやらが、きみにとって非常に近しい人間である必要がある。付き合いの浅い人間は信用ならない。後になって、あれこれ吹聴して回られては困ってしまうからねぇ」
「そう……ですね。では、もう一つの条件は?」
「うん。持って回った言い方をしてもしょうがないから、ハッキリ言おう。……金だよ。本来の制度を曲げて口利きをするということは、このワシも、王立高等貴族院の理事長も、かなりのリスクを背負うことになる。だから、それ相応の見返りを期待するのは当然だと思わんかね?」
私は、頷いた。
頷きながら、歯がゆさに唇を噛む。
ああ、これまでの会話を全部記録できていたら、動かぬ証拠になったのに。
しかし、『音を記録する』などという奇跡みたいなことができるのは、王宮に仕える優秀な宮廷魔導師たちの中でも一握りの天才だけなのだから、まだ勉強中の学生である私にそんなことができるはずがない。
だから今、できもしないことを悔やんでも仕方ない。とにかくこの男――ガンアイン氏が大金を受け取って不正入学をおこなっていたことはハッキリした。後は証拠。決定的な証拠を、絶対に掴んでやるわ。
悔しそうに顔を伏せ、黙っている私を見て、ガンアイン氏は何かを勘違いしたのか、慰めるように優しく、そしていやらしく、言う。
「おやおやおやおやおやおや、お金を用意できるか、不安なんだね? わかるよ、わかるわかる。大っぴらにはできないことだから、おうちの人には内緒で、自分のお財布から出さなきゃいけないもんねぇ」
「え、ええ、まあ、そうですね……」




