『2-8・共犯』
‐同時刻 早田市内‐
パトカーのサイレンが鳴っている。
警告灯の赤い光が闇夜の中で忙しなく揺らいでいる。
近隣住民からの爆発音の通報によって、近くの交番から駆け付けた二人組の警察官を一人の男が足止めしていた。
夜闇の中でも分かる仕立ての良い紺のスーツの内ポケットから取り出した手帳を、男は見せた。
「公安の水田です」
この場に公安が何故、という表情をする制服警官に対して水田は言う。
「この件はこちらの管轄です、お引き取り願いたい」
「しかし……」
「対応は『うち』でします」
静かな声色ながらも有無を言わせぬ語調であった。
彼らに越権行為だとか横暴だとかそういった言葉を口にさせない凄みがある。
警官を帰らせた水田は誰かに電話をかけた。
「情報屋、大した物ですね」
電話口の向こうで楽し気な声が響く。
「でしょ~? SDGsの持ち主見つけたっすか?」
「既に戦闘が行われていたようですね」
「戦闘?」
「君も知らないSDGsの持ち主がいたようですね」
「知らないんじゃなくて、教えてないだけっすよ。別料金っすからね」
水田は爆発音がしたと通報のあった家の周囲を歩いていた。
庭先の陰に身を隠し中の様子を伺う。
水田の視線の先には壊れた家屋と、その隙間から二人の少女の姿があった。
「上に知られる前に早く始末しなくてはなりません」
‐同時刻 未來の部屋‐
気絶した女を縛り上げて、その首元からペンダントを奪った雫を見て未來はただうろたえるばかりだった。
雫の発した共犯という言葉に怯えもしていた。
「あ、あの……! 一体何なんですか……?」
壊れた部屋の真ん中で未來は問いかける。
「何が」
「ぜ、全部です……」
あの場では上手く丸め込まれた感じであったが、そもそもSDGsやら何やらの意味も分からず未來は必死に訴える。
雫が壊れ転がった棚を椅子代わりにして未來の方を向いた。
「SDGsって呼ばれてる能力がこのペンダントには込められてるんだけど、そもそもこれがいつ誰が作ったものかは分かってないの。オーパーツだとか言われてるけど、とにかく世界中に17個のSDGsが存在していたのは確かなわけ。それを持っていた名家、ていうか持っていたから名家? みたいな感じで保管されてたんだけど」
「はぁ……」
「ある時、それが日本に集まる瞬間があったんだけど。各国のSDGsが集まった瞬間、奪われたんだよ。そして行方知れずになった」
雫が持っていたペンダントと今まさに奪ったそれを渡される。
未來の手には三つの、色だけが違うペンダントがあった。
奪われ行方知れずとなった内の三つがここにある。
「SDGsの力を知っている人達がみんなこれを狙ってる」
「あ、あんなに危険なことに巻き込まれるのに……そ、その、なんで……ど、こで……」
何故と何処が混じった疑問の言葉を未來が言い淀むのを汲んで雫は応える。
「これは失踪したパパが遺したものだから」
「え?」
「世界各国のSDGsが集まった瞬間、それを強奪したのはパパなんだって。なんでそんなことしたのかとか、残りのペンダントはどこにあるのかとかは分かんない。ただあたしにパパが二つのペンダントを遺したのはホント」
「ぇ……ぁ……?」
雫の父が失踪したのは約十年前のことだという。
彼がどのような人物で、何故SDGsというモノに関わっているのかは要領を得なかったが、雫がこのペンダントで父を探そうとしていることと、父が遺した物であるがゆえにたとえ危険なモノであっても手放せないのだということは分かった。
雫の父はペンダントについては、SDGsという世界を変えうる力が秘められていると伝えていたという。
そして。
「あたし達は世界をより良くする為に生きているんだってのが口癖だったんだ」
雫の見せた矜持が何に依るものであるのか未來はそこで理解した。
ここに至るまでの大まかな過去を把握させ、次にこれからの事を雫は語りだす。
「問題はSDGsを狙っている人がたくさんいるってこと。この人みたいに」
縛り上げた女を指差し言う。
「あたしは、このペンダントを簡単に誰かに渡したくない。奪われたくない。パパのこともあるし、変な使い方をしちゃダメなモノだとも思うし。これを持ってる責任みたいに感じるの」
「……もしかしたら、し、死ぬかもしれないくらい危ないじゃないですか」
「一人ならね」
「……ぇ、ぇぇと」
「でも今は二人だから。共犯でしょ?」
雫の言う共犯という言葉。
それは今まさにSDGsを持っている他の人間、雫からすれば敵とでも言うべき相手を打ち倒した結果についてだけでなく。
雫の語った、ペンダントを誰にも渡さないという考え。
そしてそれに伴うであろう、また再び起こるであろう戦いに関しても、その共犯という言葉が含んでいるのだと未來は理解した。
「む、無理です……」
「無理じゃない。鉄さんは現に出来たじゃん」
未來の肩を強く掴んで雫は言い聞かせる。
「ペンダントは鉄さんに反応してた。何かがあるんだよ。それは多分SDGsって力に必要な素質? みたいな何かが」
未來の目には壊れた部屋の惨状と共に、倒れた女の姿があった。
SDGs12、雫が呼んでいた‐工匠は雑兵に非ず‐という能力。
それがどんなものか聞いた時、花火を用いるアイディアが未來は直ぐに思いついた。
一種の才とでも言うべきだろうかと少しばかりの自信と自負のようなものが未來にあるのも確かだった。
「SDGsを手に入れて、他のSDGsを持っている人を倒した。鉄さんがどう思ってたって、もう巻き込まれてるんだよ」
他のSDGsを持っている人間、そしてSDGsを奪おうと画策している彼らにとって、未來という存在は既に脅威なのだと雫は力説する。
偶然だとしても、何の思惑がなかったとしても、SDGsを用いて他の人間からSDGsを奪ったことは揺るがない結果として存在しているのだと。
未來はおずおずとペンダントを雫の方へ突き返して聞く。
「こ、これを……お、お返しするっていうのは……?」
「ダメ」
「だ、っ……だめ……?」
「あたしは鉄さんに持ってて欲しいの」
あまりにも真っすぐに見据えられて、未來は思わず息を呑む。
逃げるだとか拒否することを忘れてしまうような透き通った目に吸い込まれそうで未來は呼吸すらままならず。
「一緒に戦ってほしい」




