『2-7・工匠』
何が起きたのか理解できずにいる未來と動揺に床に崩れこんだ女も驚愕の表情を浮かべていた。
この場でただ一人、雫だけが状況を理解して愕然とする。
「SDGsが発動しちゃってる……」
未來の手の中には、決して玩具ではない何かを「撃った」という感触と実感があった。
握ったそれを改めて見つめ直す。
手の中にあった筈のちゃちな造りの銃は形を変え、雫が持っていた実銃と同じような外観に変化していた。
「何だその能力はよぉ!」
女が激情を露わにし腕を振るう。
のたうち回るかのように部屋の中を暴れながらその尖端が未來へと向いた。
咄嗟に未來は手にした銃を構える。
何かに導かれるように自然と手が動き、指先は引き金を絞る。
銃声が再度轟く。
偶然にしてはあまりにも正確に、弾丸は腕へと飛んだ。
飛んできた弾丸に反応して牙を剥いて腕は弾丸を呑み込む。
そのまま未來は引き金を引き続けた。
立て続けに放たれた弾丸を前に腕は器用に吞み込むも、女の方は圧倒された様子だった。
想定外だったのだろう。
まさか何の戦力でもないと思っていた方が突然、有効な射撃を行ったのだから。
部屋の入り口から踏み込んできた彼女は、徐々に後ずさる。
腕を盾にしながら様子見の為に距離を離したようだった。
その隙をついて雫が未來の傍へと滑り込む。
困惑した表情のまま銃を握る未來の肩に手をやる。
「それがSDGsの力だよ」
「な、なんで……」
「聞いて」
雫が語るのは、今まさに未來が起こした超常現象のからくりであった。
SDGsと呼ばれる能力の仕組み。
異形の腕と同じ様なその異能力には明確な法則があった。
それを聞いた未來は一つの結論に思い至り、床を指差す。
「な、なら……それに使ったらどうなるんですか」
突然の銃撃に気圧されていた女だったが、攻撃の手が止まったことに気が付いた。
声をひそめ顔を寄せ合う二人の様子から弾が切れたのだと。
女にとってそれは好機であった。
SDGsの能力がどんなものかまだ判明していないが、弾が切れるのであれば物質的な作用を起こすものの範疇は出ない。
ならば依然として有利な状況にあるのは間違いないと女は確信する。
彼女の持つ異形の腕。
SDGs2‐其れは全てを喰らうまで‐。
喰らった物質をそのまま腕の腹の内に収める能力である。
銃弾でさえ、その口で喰らうことすら出来れば受け止める。
どんな強固な壁であろうと物質である限り喰い破れる。
次にどんな一手を見せてこようとも、物質に依存する能力である以上は喰らうまでであった。
「玩具の銃を実銃に変える能力なのか、それとも見た目を玩具に変えてただけなのか分からねぇが」
部屋へと再度踏み込む。
異形の腕を構え、その牙の先に二人を捉える。
それを見て、未來が飛び出す。
手に持っていた白いビニール袋をぶつけるように投げた。
咄嗟にそれも喰らい、女の勢いは止まらない。
だが怯むことなく未來が次に構えたのは柄の長い多目的ライターだった。
その先端から出た僅かな炎を見て嫌な予感がしたのか女が腕を構えた。
その口から吹き出したのは強烈な炎。
本来のライターからは予想もできない程の、まるで火炎放射器であるかのような噴出した炎。
だが、それすらも口は喰らった。
一瞬噴き上がった炎を喰らい尽くし、能力の性質を女は見抜く。
「なるほど、手にした道具の質を上げるとかか? だが同じだ。物質であればこの能力の敵じゃねぇ。喰らいさえすれば……」
「喰らったあとは?」
「あ?」
奥に控えていた雫が突然問いかける。
「喰らって……そのままなんじゃない?」
「何を言って」
「その能力は物質を喰らう。でも、分解するわけでも消化するわけでもないって考えたんだけど違う?」
「だから何だってんだ」
「SDGs12‐工匠は雑兵に非ず‐。この能力は、対象のモノをより高度なモノへと変えるの」
未來が手にしたペンダントを突きだす。
その手のひらから光が溢れ出していた。
それを見た女が、何故か自信を滾らせる二人の様子から寸前の光景を思いだす。
強烈な炎の一撃で失念しそうになるが、その前に何かを投擲された。
それを咄嗟に防いだ。
あの時、何を喰らったのか。
いや、何を喰らわさせられたのか。
「より良い物へと変えることが出来るなら」
雫がその手に握っていた物を見せる。
手持ち花火。
市販されているような何の変哲もない遊び道具としての花火だった。
女はそこで理解する。
それが、より高度な何かに変わるのなら。
玩具の銃が実銃に変わったように。
紛い物が匠の手によって業物へと変わるのなら。
「爆ぜて」
異形の腕が内部からの衝撃で変形する。
内部の圧で膨らみが暴れる。
遅れて爆音が轟いた。
腕の腹を切り裂いて、強烈な閃光が周囲に漏れ出る。
爆発だった。
腕が喰らった手持ち花火が、SDGsの能力によってより良く高度なモノへと変換されたのだった。
SDGs12‐工匠は雑兵に非ず‐。
玩具の銃を実銃に変えたように、手持ち花火は打ち上げ花火へと変わったのだ。
火さえ呑み込んだその異形の腕の中で、文字通り火が付いた。
火薬による強烈な爆発はその腕を勢いよく爆破し破壊する。
女の腕から外れるようにして、異形の腕は千切れて吹き飛んだ。
床に落ちると大蛇の様であった。
腕を吹き飛ばされ、爆発の勢いに巻き込まれた女は壁に打ち付けられる。
爆発の衝撃が壁を揺らし、部屋中の物が飛び散る。
瓦礫と破片が舞い散る中、圧倒されて床にへたり込んだ未來の手を取り雫は言う。
「これで、共犯だよね」
「ぇ……え……?」




