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SDGsバトラーズ17  作者: 茶竹抹茶竹
【2章・工匠は雑兵に非ず/SIDE未來】
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『2-6・矜持』


 女からの指摘の言葉は、ある種の勝利宣言のようであった。

 雫の反応を見て未來は、それが事実であるように感じた。

 超常的な力を奮う女と対峙するにあたって、雫は確かに今まで何らかの特異な力を見せたわけではない。

 使ったのはハンドガンとスタングレネード。

 女が奮う異形の腕と違って現実の域を出ていない。

 雫はペンダントを持っては、いた。

 だが、雫がその片鱗を見せる気配はない。

 手にすれば世界を変革する力を得ると仰々しく語られたそれの正体を、雫は見せていない。

 そう推測して未來の緊張は一層増す。

 庇うように前に立つ雫の背が急に小さく感じる。

 今も銃口を逸らさず構える姿が女の言葉への肯定の態度に見えた。

「奥の手があるのか?」

 異形の腕を女が振るう。

 触れる物全てを喰らいながら勢いよく振り下ろされた腕。

 天井も壁も机も工具も玩具も棚も。全てを喰らいながら。

 目の前で自身の聖域が破壊される様子に未來はやりきれなさを感じた。

 それでも、守るために何が出来るわけでもなく。

 ただ恐れ慄きながら見つめていることしか出来なかった。

「何もねぇみたいだなぁ!?」

 再度振り下ろされた腕が床を穿つ。

 咄嗟に身を躱した雫がその勢いに負けて体勢を崩した。

 床に倒れた雫の姿に女が言う。

「だが分からねぇ。戦える能力じゃねぇのに、どうしてペンダントを起動させた。位置がバレるのは分かっている筈だろ。殺されないとでも思ってたのか?」

 女の言葉にたまらず未來は雫の方を見た。

 未來には覚えがあった。

 修理を終えた後にペンダントが何らかの機能を作動したように見えた。

 あの瞬間、雫の発した言葉を思い出す。

 女の言うようにペンダントの起動がこの事態を招いているのなら。

 未來の脳裏を過るのは最悪の想定だった。

 何も知らなかった、分からなかった。

 それでも、この結果を招いているのは自分なのだと。

「戦闘用じゃねぇのに、なぜこの戦いに挑んだのかも分からねぇ。見たところ、もう一人の方が戦える感じでもねぇし」

 女に一瞥されて未來は身をすくめる。

 ただ圧倒されていたばかりだったが、自分も今危険な立場にあるのだと遅れて理解した。

 戻す機会を逃して握りしめたままのペンダントが手の中でまるで棘のように刺さる。

「あたしの持ってるSDGsは一人じゃ戦えないのはホントだよ」

 雫の観念したような言葉に女は笑う。

「じゃあオレとオマエが組むか?」

「それでもいいよ、でも。あなたにはどんな信念があるの?」

「信念?」

「SDGsには力があるでしょ。世界だって変えられる力が。だから、あなたは何をするの」

「そんなもんねぇよ、オレは力を手に入れて好き勝手やらせてもらうだけだ」

「あたしは!」

 雫が首から下げているペンダントを握りしめて叫ぶ。

「あたしはこの力を世界のために使う。だから、あなたには渡せないし組むことも出来ない」

「はっ、世界をなんてなぁ、お前がそんなことをする理由がどこにあんだよ」

「こっちにも事情があるけど……、でもそうじゃなかったとしても。あたしはこの力を世界をより良くする為に使うべきだって思う」

 強い言葉。

 雫の叫ぶ力のこもった言葉。

 それは今、この瞬間のやり取りの為のものでなく。

 決意表明のように未來には聞こえた。

 異形の力を前にしても、その存在を知っていても、それでもこの状況を選択した雫の根底にある何か。

 立ち向かうことを、死の恐怖すら正面から当たっていくことを、選ばせた何か。

 雫という人間をよく知らない。

 それでもこうして、何か壮大なモノと戦おうとする彼女の背を押す何か。

「知らなくても、関係なくても、あたし達には責任がある。この世界で生きてるなら、この世界のことを無視なんて出来ないから。」

 それは雫の矜持なのだと未來は思った。

「くだらねぇ、何が世界だ」

 女がそう吐き捨て腕を振るう。

 喰らうのではなく、腕の胴体とでも言うべき部分で雫を横殴りにした。

 簡単に雫の身体は吹き飛び部屋の壁に叩きつけられる。

 衝撃で棚から修理した玩具達が雫と共に床に落ちた。

 派手な音の中に呻き声が混じる。

 その光景に咄嗟に未來は手を伸ばす。

 未來は近くに落ちてきたエアソフトガンを掴んだ。

 そして必死の形相でそれを女の方へと向ける。

 雫の持っていたような実銃なわけもなく。

 派手な塗装と表面のプラスチックの感触で一瞥すれば実銃でないことは明白な、ただの玩具の銃だった。

 それでも未來にとっては、その銃を向けることは危険で恐ろしい行為であった。

 押し殺しきれない恐怖が震える手に表れている。

 雫から預かったままのペンダントを硬く握りしめて、もう片方の手で玩具のグリップを掴んでいる。

 その姿に女が怪訝そうな表情を作る。

「何のつもりだぁ? 戦おうってのか? そんな玩具で?」

 未來にはSDGsなるものが何であるのか、彼女達がペンダントを狙う理由が何であるとか、戦う理由がどうだとか、異形の腕がどうなっているとか、実銃を持っている理由だとか。

 今のこの状況全てが理解できないものであった。

 それでも分かる。

 明らかに危険で異質な力を振るう相手に、分かりやすく敵対の意志を向ければどうなるか。

 ここで出会ったばかりのクラスメイトの為に、勝てるわけもないのに反抗の態度を見せるのがどれだけ危険か。

 如何に、自分が彼女に立ち向かうための力を持っていないか。

 そんなのは分かっている。

 それでも未來は選択した。

 それは未來にとっての矜持だった。

「い、今、ここで。逃げたら……」

 掴んだ玩具がまるで本物であるかのように。

 重たい引き金だと錯覚してしまう。

 未來の中の躊躇いや恐怖が指先を強張らせる。

 それでも。

 たとえ玩具だとしても。

 ゴミだったものだとしても。

 銃口を前に向けるのは敵対と決意の宣言であった。

「わ、ほ、ホントに……っ……クズになっちゃう気がするんですっ!」

「そーかよ」

 女が腕を構えた瞬間、未來は咄嗟に引き金を引く。

 玩具の銃から、玩具の弾丸が。

 子供向けの安全な弾が。

 飛び出す。

 筈だった。

「!?」

 轟いたのは先程聞いたのと同じようなけたたましい銃声。

 手の中には強烈な衝撃と痛み。

 そして。

 その場に崩れこんだ女の姿。

 肩から血が流れだし、周囲には火薬と血の臭いが混ざる。

「何が……」

 誰もが同じ言葉を吐いた。

 未來は気が付く。

 手にあったペンダントが光を放っていた。

 床に臥していた雫が顔を上げ、驚愕の表情を作る。

「SDGs12……!」


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