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SDGsバトラーズ17  作者: 茶竹抹茶竹
【2章・工匠は雑兵に非ず/SIDE未來】
6/17

『2-5・飢餓』


 SDGs2という言葉を雫が口にする。

 未來達の前に立ちはだかった女の首元のネックレスが更に光を強めると、彼女の姿がよく見えた。

 三十歳前後。黒を中心に固めたファッション。

 派手な銀の装飾が付いたベルトが複数、細身のシャツとパンツ。足元のレザーブーツにも銀の装飾が付き、刺々しい印象を受ける。

 いわばパンキッシュなスタイルだ。

 距離にして数メートルの間合い。

 警戒を崩さない雫に向けて彼女は口を開いた。

「手荒な真似をしたいわけじゃないの。貴女のSDGs、譲って貰える?」

 派手な外見に反して穏やかな声色。

 それに対し雫が一笑に付す。

「まさか」

「そう」

 女の左腕に変化があった。

 白銀のチェーンがどこからか現れ、その腕に蛇の様に巻き付いていく。

 まるで生きているかのようにそれは勝手に動く。

 女の声色が変わる。

 その眼に光を宿し、それは何か異質な事態の幕開けを予感させた。

「なら、オレの渇きを癒してくれ」

 ドスの効いた声と共に、その左腕が一瞬のうちに変容する。

 人ならざる姿。

 黒く変色した異形の外観。腕の先が大蛇の如く黒光りする鱗を纏い、丸太の様に太く、そして鞭に似たしなりを得る。

 その先端は大きく口開き、その内部には牙の形状を備えていた。

 まさに大蛇。

 女の左腕が怪物と化す。

 その異様な光景に臆することなく、雫が制服のスカートの内側へ手を伸ばす。

 スカートの端を翻して見えたのは、太ももにベルトで巻きつけたホルスターだった。

 そこに装填されたハンドガンを引き抜く。

 躊躇いなくその引き金を引くと、けたたましい音が鳴り響いた。

 銃声だった。

 雫が手にしていた実銃を見て未來は腰を抜かす。

「銃!?」

 動揺する未來の反応を置き去りに雫は銃撃を淡々と遂行する。

 続けて銃声が鳴り響く。

 連続して放たれた弾丸は女の左腕に阻まれた。

 防いだのではなかった。

 その腕の先で牙を剥くその口が、銃弾を「喰らった」のだ。

 牙の奥には虚空とでも言うべきか暗闇が見えた。

 その一瞬の攻防はあまりにも現実離れしたもので未來はただ呆然とすることしか出来なかった。

 人の腕が異質な物へと変容し、同級生が実銃をぶっ放す。

 未來の理解を超えた光景だった。

「そんなんじゃ、オレの渇きは癒えねぇ!」

 女が怒声を上げる。呼応するかのようにその腕が更に隆起した。

 鞭打つようにしなりながら、牙を剥いた腕が振り下ろされる。

 雫は向かってくる黒い腕に向けて発砲を続ける。

 その全ての銃弾を、その腕は喰らった。

 銃弾を喰らいながら腕は雫へと振り下ろされて、咄嗟に彼女は跳び退く。

 雫を狙っていた腕による一撃は、地面へと打ち下ろされる。

 重たく空を裂く音は人の腕によるものでは不可能なそれであり、異形化したのは決して見た目だけのハリボテではないと証明しているかのようで。

 足元のアスファルトが消失していた。抉れ穿たれた様子はまるで喰いちぎられたかのようで。

 その光景が、先程雫の放った「殺される」という言葉をにわかに思い起こさせる。

「な、何が……」

 困惑する未來の手を雫が取った。

「鉄さん、巻き込んでごめん」

 雫の言葉に未來が答える前に。

 後頭部に手を置かれ、未來は雫の胸元へ頭を引き寄せられた。

 突然、抱きしめられて驚く未來を余所に雫はポケットから黒い物体を投擲した。

 足元に転がったそれに対して女は異形化した腕で身を庇う。

 だが、その動作よりも強烈な光と破裂音が周囲を満たすのが先だった。

 炸裂したのは雫が投擲したスタングレネードだった。

 女が視覚と聴覚に強烈な一撃を貰い、その場で動けなくなる。

 変異した腕がまるで蛇が鎌首をもたげるかのように、女が動けなくなった隙を守ろうとしていた。

 目と耳を覆うため、雫に抱きしめられた未來であったが、それでもスタングレネードの威力に上手く音が聞こえなくなっていた。

 耳から入った衝撃波の様な音。

 その残響によって頭痛が引き起こされ、未來は足元がおぼつかない。

 何が起きているのか分からず、映画の夢でも見ているのかと錯覚しそうになる。

 雫に肩を抱かれ未來はそのまま作業小屋まで連れていかれる。

 たどり着いて直ぐ未來が小屋の床に崩れ落ちると、雫はそのままハンドガンを構えなおす。

 当たり前のように銃を手に持ち、マガジンを手慣れた様子で交換する雫を見て未來は恐れを感じた。

 何か危険なことに巻き込まれているということだけは分かった。

「な、なんなんですか……」

 未來の言葉に雫は一瞬ためらいの表情を見せたが、その首元に手をやった。

 その手で示されたのは、見たことのあるデザインのペンダント。

 未來が修理したものと、そして女が持っていたものと同じであり、その色だけが違った。

 指先で引っかけ、ペンダントをよく見えるよう未來に示す。

「SDGsと呼ばれてる、このペンダントをアイツは狙ってる」

「SDGs……」

「持っている人に力をもたらすペンダントなの」

「力?」

「世界を変革する力」

 抽象的な表現の後、雫は言葉を選びなおす。

「アイツの腕もそう、SDGsの力なわけ。今の科学では説明が出来ない、人智を超えた力がペンダントには宿ってる」

 雫はそう言葉にしながら、銃のグリップを握る手に力を入れた。

 未來はその銃口が向く先から目を離せずいた。

 雫は人に向けて発砲した。

 あの光景が未來を不安にさせる。

 雫が見せた明るい表情や声色が嘘であったかのように思えてしまう。

 躊躇わず人に銃をぶっ放した姿が、雫のイメージとはあまりにも相反したもので。

「た、戦うんですか」

 未來の怯えが、自身にも向いているのだと気付いた様子で、雫は銃口を床に下げて強張った表情を柔らかいものに変える。

「SDGsは誰にでも渡していいものなんかじゃないの。だから、なんていうかな、その義務感? みたいな」

「義務?」

 鍵を掛けた小屋のドア。

 その向こうにいる敵の姿を睨み付けるようにして雫は言う。

「あたしには、あれを集める理由があるの」

 未來の手の中には、咄嗟に掴んだままだった修理したペンダントがあった。

 雫は何を思って自分に修理を依頼したのだろうと未來は思う。

 それだけ危険な物だからこそ、誰にも頼めなかったのだろうか。

 話したこともないクラスメイトに頼るほど、他に頼るものがなかったのだろうか。

 華やかで近寄りがたいとしか思っていなかった彼女の、知らなかった、思いもよらなかった、裏の顔に未來は問いかける。

「な、んで、私に頼んだんですか」

「自分なりの信念? みたいなのがありそうだったから」

 小屋の壁に何かがぶつかった。

 簡易な造りが故に、その衝撃が揺れを起こす。

「好きだよ、そういうのさ」

 盛大な音と共に小屋のドアと壁が引き裂かれた。

 斜めに、傷跡のように。

 奇妙なことに外部の衝撃で破損したにしては、なんの破片や残骸もなかった。

 まるで最初から何もなかったかのように。

 壁に切り裂いた跡だけが残る。

 その隙間から姿を見せたのは、あの女だった。

 異形化した腕を振るう。

 腕の先の牙を剥き出しにした口が壁へと食らい付くと、何も残さず壁が抉られる。

 喰らう、と雫が呟いた。

「SDGs2……物質を喰らう能力ってこと?」

「オレの渇きを癒やしてくれ」

 壁を喰らい踏み込んできた女と雫を隔てる物は何もなく。

 それは双方同じだった。

 女が腕を振るうと同時に雫が射撃体勢を取って引き金を引く。

 放たれた弾丸は真っ直ぐ女へと飛んだが、それはやはり異形の腕に防がれる。

 その口へと到達した弾丸は貫通することなく、喰われて消えていった。

 雫が足元のスツールを掴んで放る。

 勢いよく宙を舞うそれを、素早く腕は喰らった。

 生きた蛇のように身を揺らし、獲物を捉えるが如く俊敏に。

 スツールを跡形もなく呑み込む。

 再び発泡された弾丸を喰らい続けながら女が血気をたぎらせ叫ぶ。

「そんなんじゃまだ足りねぇ!」

 雫が再び取り出したのは先程のスタングレネードだった。  この狭い室内で炸裂すれば先程よりも強烈だと怖れ、未來は咄嗟に耳を塞ぐ。

 しかし、投擲されたそれが地面に落ちる前に、腕は器用に拾い上げるように呑み込んで見せた。

 遅れてくぐもった破裂音が腕の中から響く。

 喰らうことでスタングレネードを無効化され、雫が動揺した様子を見せる。

 女が表情を変えた。

 何かに気が付いた、歓喜の様な表情へ。

「ここまできて何の能力も見せてこねぇってことは」

 女の言葉に、雫が反応したように未來には見えた。

「お前のSDGs、戦える能力じゃないな?」


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