『2-4・会敵』
気にかかることはあったが、未來はともかく修理を始めることにした。
雫が言うにはペンダントには何かしらの機能が内蔵してあり、それが動かないらしい。
それがどのような仕組みかは教えてもらえなかった。
が、中の機械仕掛けには意味があるのが分かったので、とにかく中を見てみることにする。
ピンセットを手に一番上の金属製のフタを外す。
外す前から歯車の一部が覗いていて、下に何らかの機構があるのが分かる。
その見た目は機械式の腕時計を分解した時の様子に似ていた。
ただ、フタを外してみるとその下には電子回路の基盤があった。
内部の外観こそ時計に似ているが電子回路と幾つもの歯車の組み合わせが、何を意図したものか分からず未來は手を止める。
スマートフォンを分解したときよりは簡単な回路なのは分かる。
精密機器ではない。
簡単な機能を有した玩具に近いが、金属製の細かな歯車とパーツの組み合わせからそんな「チャチ」な物ではないと察しが付く。
ペンダントの中身にしては機能的すぎる。
訝しみながらも作業を続ける。
小さなネジを外して慎重に分解を進めていく。
「なるほど……」
「どう? 直りそう?」
未來の呟きに反応して雫が身体を寄せて手元を覗き込んだ。
知らない人の匂いに距離の近さを未來は実感する。
他人が自分のパーソナルスペースに遠慮なく踏み込んでくることに、未來は身体を緊張で強張らせた。
「ぁ、た、ぶんですが……」
未來は頷く。
何を意図した物かは分からないが、故障している原因と部分は分かった。
外部からの衝撃を受けたせいか、中のパーツが一部破損している。
回路の方には問題は無さそうに見えたが、ひしゃげたパーツのせいで外れている部分が見える。
未來は修理に取り掛かる。
全ての細かいパーツを分解し丁寧に並べていく。まずは洗浄だ。
そして壊れているパーツを選り分ける。
壊れた金属製のパーツは直せないので、プラモデルなどで使われる樹脂を利用して、パーツと同じ型を作成することにする。
樹脂粘土でパーツの型を作り、レジン液を流し込む。
紫外線ライトを照射して固形化する。
強度が不安だが金属製のパーツは用意できないので仕方なくであった。
急場の修理としては十分であろうと未來は判断する。
作業に未來が熱中し始めると、その手の動きと反比例するように口数も減っていった。
黙々と作業をする姿に圧倒されて雫も押し黙る。
しかし。
始めこそ、お菓子を食べながら興味深そうに見ていたが雫は途中で離脱し、作業小屋の隅に置かれたクッションに頭を埋めて寝息を立て始めた。
そんなことに未來は気づく様子もなく、修理は進む。
気が付けば日が暮れていた。
外は暗くなっていたことに熱中していた未來は気が付かなかった。
「寝てる……」
雫が寝ていることに今更気が付いた未來は、そのまま手元のペンダントに目を遣る。
自作したパーツを組み込み、外れていた噛み合わせを直す。
ほぼ完成だった。
奇妙なのは電子回路はあるのにどこにも動力源が見当たらなかったことだ。
歯車も同じ、ボタン電池やバッテリーはなく、ネジを巻くのかと思ったがどこにもそんなものはない。
「ホントなら、これで何か動いてもいいんだけど。太陽光でもないし何なんでしょうか……」
未來はそう言いながらペンダントをライトに翳す。
絶妙な目に見えないところで手が込みすぎている。
釈然としないまま未來はその修理を終えた。
フレームにカバーをはめ込み、ペンダントを完全な状態に戻す。
「直せたと思いますけど……」
寝入った雫をどうしていいか分からず未來は消え入りそうな声量で声をかける。
反応はなかった。
未來は仕方なく手にしたペンダントを眺める。
壊れたので直したいという彼女の気持ちに未來は好感を覚えた。
大量消費社会の中でモノを大切にしようとするのは素敵である、と。
今日の授業でやっていた内容がふと思い浮かぶ。
「これもSDGsって事なんでしょうか」
その時。
まるで未來の言葉に反応したかのように。
ペンダントが突然光を放った。カバーの鈍い黄色を透過し湛えた眩い光が部屋を一杯にする。
強烈な光に照らされて未來はたまらず目を凝らす。
内部構造からして発光するような機構はなかった、この発光量を支える電源もない、それなのに何故と未來は訝しむ。
光を放ち続けるペンダントの表面に「12」という数字が別の色で発光する。
解読できない記号と文字列が何もない空間に投影されて、文字が浮かんでいるかのようだった。
何の操作をしたわけでもないのに、明らかに何かが起動した様子のペンダントを前に未來はたじろぐ。
「これは一体……」
眩い光で雫が目を覚ました。
慌てた様子で飛び起きると未來の手の中にあるペンダントを取り上げる。
その勢いに負けぬように未來は声を絞り出す。
「あ、あの……たぶん直りましたけど……」
未來の言葉は聞こえていないのか雫の注意はペンダントに向けられていた。
ペンダントが投影していた文字や記号が切り替わり、星座の様な点と線の画が描かれる。
明らかに何かの意味を持つように見える。
まるで、そうレーダーだ。と未來は気が付く。
何かの位置関係を示しているかのように、それらの点は表示されている。
「なに、か、しちゃいましたか……?」
雫が何を慌てているのか分からず不安に駆られて未來は聞いた。
壊してしまったかという最悪の予想が脳裏を過っていた。
しかし、雫が言ったのは真逆の言葉であった。
「起動してる」
雫は焦った様子で言葉を続ける。
「位置がバレたかも」
「だ、誰にですか」
「他のSDGsの所有者に」
「え、えす……SDGs?」
「出会ったら殺される」
「え? え?」
未來は雫の言葉の意味が分からず首を傾げた。
何故ここでそんな単語が出てくるのかも、その所有者という意味も分からなかった。
未來は突然、雫に手首を掴まれる。
「逃げるよ」
雫の真剣な声色に、未來は何も理解できないままだったが、そのまま手を引かれて小屋を飛び出す。
すっかり暗くなった外。家の庭を突っ切って、表へ出る。
そこで未來は足を止めた。
視界の効かない中でもその気配を感じたのだ。
誰かがいる。
その予感は雫が足を止めたことによって確信に変わった。
「こんばんは、SDGsの所有者さん」
その声質から成人女性だと未來は予想した。
僅かな街灯の光だけでは、その人物の顔は完全には視認できなかった。
それでも。
その首元に光るペンダントだけはしっかりと見えた。
雫の持っていたモノと同じ形をしたペンダント。
そして表面には「2」という数字。
それよりも更にくすんだ鈍い黄色、芥子色とでも言うべきだろうか。
光を湛えたそのペンダントは明らかにその意匠に雫のと共通性が見られた。
雫が声を漏らす。
「SDGs2……!」




