『2-3・依頼』
「何ですか……これ。なんというか、不思議な形ですけど」
雫が示したペンダントに未來は興味を示す。
装飾品の様な外観でありながら、内部に何らかの機構が仕込んでる。
どのような機能を持たせたのか、どのような仕組みをしているのか、そういった類の事を探求することに未來は関心があった。
機械仕掛けのペンダント。手渡されたそれを未來が手の平の上で転がしていると、雫が言う。
「直せるかな?」
「い、いえ、とりあえず、見てみないと……見てみます。そうじゃないと分かりませんので」
未來の言葉に雫は少し懐疑的な態度を見せた。
ただ未來としても、どんなペンダントなのかも分からないのだ。
直せるかどうかも何も、見てみるほかないだろうとは思った。
だが、怖いので口には出さなかった。
雫が念押しするように言葉を続ける。
「大切な物なの。どうしても直したくて」
「そ、んなに大切な物なら、その、プロの方に、頼んだほうが」
「訳アリなの」
そう言い切って有無を言わせない雰囲気を醸し出す雫の姿に、案外強引な人だという感想を未來は抱いた。
これは簡単に断らせてくれないな、という諦観と同時に。
自分に対して優しくしてくれた彼女の期待を裏切りたくないという気持ちも確かにあった。
未來は言う。
「一晩、あ、預かってもいいですか」
「直せるの?」
「やってはみます……」
「ホント!? 助かるー!」
まるでもう修理が終わったかのように喜ぶ姿に未來はまんざらでもなく、雫から受け取ったペンダントを鞄に仕舞ってその場を退散しようとする。
しかし、未來は腕を後ろから掴まれて動揺した。
「じゃあ家付いて行っていい!?」
「ぇ、ぁ、え、なんでです……か」
「直してるとこ見たいから!」
「見せるような、ものでは……その」
「ホントに大事な物だから、ね? いいよね?」
「いや、ええと、ですね」
「決まりね」
「えぇぇ……」
その勢いに圧倒された未來が強く断れずにいる内に話が進んでいく。
気が付けば未來よりも前に雫が立って牽引されているかのようだった。
未來にとってその姿は意外であった。
雫というクラスメイトについて何も知らないが、騒がしい印象はなかった。
だが、しかし。
それはあくまで、転校してきたばかりなのと整った容姿によって周囲から少し距離を置かれていたが故であって、この姿こそがむしろ自然体であるらしい。
なし崩し的に家まで付いてくることになって未來はひたすらに困惑するも、そんな様子を気にすることなく雫は機嫌良く喋り続ける。
「コンビニ寄ってこー? お菓子何買う!? 泊るなら歯ブラシも買わなくちゃダメかー」
「ぇ、と、泊り?」
「もしかして直ぐ修理終わる?」
「いぇ、たぶん時間かかっちゃいますけど……」
「じゃあ泊りだね」
「ぇ、ほんとですか?」
「ダメ?」
「ダメとか、そういうわけでは、その……」
「じゃあ決まりね!」
「ぁ、ぇっと……」
未來が上手く応答できないうちに、あれよあれよと話が勝手に進んでいく。
気が付けばコンビニ店内のお菓子売り場まで連れていかれていた。
先を行く雫と、その会話に置いて行かれそうに必死になっている未來を翻弄するかのように、雫は次々とその興味の矛先を変えていく。
彼女はコンビニの棚に並ぶ花火セットに惹かれて手にしていた。
「あ! 花火売ってる! 花火しようよ!」
「は、花火ですか」
「夏のお泊りって言ったら花火でしょ! あーでも。やる場所ないかー」
「場所はその、あると思いますけど……庭広いので」
「じゃ決まりね」
「ぇ、ぁ……はい」
「家どっちー?」
気が付けばコンビニの袋を提げた雫に逆に先導されながら未來は家に向かっていた。
通学路を外れて徒歩三十分の街外れ。
古い日本家屋と手入れの行き届いていない広すぎる庭。
それが未來の家だった。
デカくない? そんな雫の言葉に未來は曖昧に頷く。
共働きの両親は日中不在で、共に住む未來の祖父が庭の隅で家庭菜園をしていた。
未來はそそくさと雫の背を押す。
祖父と合わせたくない気恥ずかしさが故の行動だった。
遠くからこちらを見た祖父に向けて雫が手を振った。
「あれはおじいちゃん?」
「だ、大丈夫なので」
未來が雫を連れて行ったのは住居用の家屋から少し離れた位置にある物置小屋だった。
昔、未來の祖父が使っていた農機具小屋を譲り受けたものだ。
未來自身の手で外壁と屋根はペンキで塗り直して中はリノベーションしてある。
一人部屋を兼ねた作業場。広さは八帖ある、未來の根城であった。
所狭しと、しかし綺麗に収められた工具や無数のパーツ。
背の高い棚に並ぶ修理した古い玩具や雑貨の類い。
幼い頃から祖父の機械いじりやDIYの趣味を横で見ていた未來が同じような事を始めたのに気を良くした祖父から貰った小屋。
それを前に、雫は圧倒された様子だった。
小屋の中に足を踏みいれ雫は言う。
「すっご。これ鉄さんの部屋なの?」
「そ、そうです……」
「自分専用の家持ってるとかヤバいね」
「ヤバ……」
一般的な物置小屋と比較すれば十分な広さはあるが、それでも二人分は少し窮屈であった。
自分の聖域に誰かがいることに未來は緊張する。
そもそもクラスメイトを家に招いたことも初めてだった。
先週修理してニスを塗って磨いたばかりのスツールを渡すと、すぐ隣に雫が座ったので未來は更に緊張した。
気を取り直し、未來は作業台の前に座る。
工具箱を引き出してきて手袋をはめた。
興味深そうに周りへ視線を忙しなく動かす雫へ未來は言う。
「え、えと……か、貸してもらえますか。その、ペンダントを……」
雫が取り出したペンダントを受け取って作業台の上に乗せる。
手元を照らすライトを点ける。
改めて細部を観察する。
細長い台形のペンダントトップ部分の半透明のカバーが外れかけている。
曲がった留め具をペンチでつまむ。
反り返ったそれを正しい角度に器用に直してから丁寧に留め具からカバーを外す。
外れかけていたカバーは力をかけずとも分離出来た。
その下から覗かせた金属製の細工。
装飾ではなく、何か実用的な目的の為の物であると未來は感じた。
ペンダントの外観では時計などの機能があるようには見えなかった。
内部に何らかの機能を隠すかのような。
装飾品ではなく、何かの機能を有したものを装飾品として隠したような印象を受ける。
「これ、何なんですか……だいぶ、か、わったペンダントですけど」
「気になる?」
「……なります」
雫が少し思案した様子の後、未來の耳元で囁く。
「内緒」
突然のことに未來は驚き硬直してしまっていると雫が笑みを浮かべる。
「修理してるとこ見てていい?」




