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SDGsバトラーズ17  作者: 茶竹抹茶竹
【3章・地に足つける者達へ/SIDE未來】
14/17

『3-5・反撃』


 雫がもう戦えない。

 そう言って未來の手を引き草陰に身を隠す。

 しゃがみ込むと背丈の高い草が視界を阻んだ。敵も同じだろう。

 イネ科の細い草の先端が肌をくすぐって未來は声を抑える。

 次の攻撃の気配はなく、クマのぬいぐるみが逃走したことで敵が位置を把握できてないのではと考えられる。

 だが、いつまたクマが追ってくるかは分からない。

 早く対策を打たないと、そう考える未來だったが雫の方は何も言ってはくれなかった。

 もう戦えないという言葉の真意をはかりかねて、未來はおずおずと聞く。

「そ、そのどういう意味ですか」

「騙しててごめん」

「え、な、なにが……です?」

 雫はハンドガンのグリップを握りしめたまま、思い詰めた様子だった。

 返事を待ったまま時が止まる。

 昨晩の雫の言葉を思い出す。

 それに奮起させられて未來は口を開く。

 踏み出す勇気を。苦手で避けてきた誰かに歩み寄ることへの勇気を。

 そうしなければ、きっと雫のことを知ることなんて出来ない。

 今逃げ出したら、何も分からないまま。後悔をする気がした。

「お、教えてください。ちゃんと……だ、って共犯者なんですよね、私達」

 未來の言葉に雫は観念したように手のハンドガンからマガジンを抜いてみせた。

 黒の長方形のそれには、頂点の部分に弾丸が収まっている。

「実は……弾はあと一発だけ」

「だ、だから撃たなかったんですか」

「当てれたとは思うケド……」

「あ、の……弾のこともそうですけど……能力もずっと内緒にしてますよね」

 未來の言葉に雫は観念したようにそのペンダントを見せる。

「あたしが持っているのはSDGs17‐共に歩むは扶けとなる-」

「そ、その能力は……?」

「他の人に助けてもらうこと。触れた相手から技能とか能力とかを借りれるの」

 そう言って雫が銃を撃つモーションを取る。

 彼女の銃の腕前はそれに起因するものだと言う。

「あたしの銃の腕前はプロの軍人から借りたもの。それがなくちゃまともに撃つことだって出来ない」

「す、すごい能力だと思いますけど……」

「でも弾はもうない、それに技能を借りた時点で前に借りた技能は消えちゃう。持てるのは一個だけ」

「な、なら私の能力で弾を作れば……」

「この場には弾に出来そうなものはないじゃん!」

「それはそうかもですけど……」

 その剣幕に怯える未來の姿を見て正気を取り戻したように雫はごめんと言った。

 今までのような前向きで頼りがいのある姿はどこかに消えて、少しか弱い印象がある。

「怖かったんだ……」

「え?」

「弾も銃の腕前も無いんだってバレたら、あたしには価値がないんじゃないかなって。鉄さんが一緒に戦ってくれなくなるんじゃないかなって」

 共犯者だと語っていた雫の言葉を思い出す。

 あんなにも頼もしく見えた彼女の姿が揺らぐ。

 それでも。

 未來は構わなかった。

 むしろその姿に未來は奮起させられるようでもあった。

 絶大な力が手に入るという謎のペンダント、それを奪い合う危険な戦い。

 謎を残して失踪し、まるで戦うことを強要するかのような父の存在。

 そんな過酷な状況で気丈に振る舞う姿が雫の本質だと思っていた。

 だが、それは違うのだと分かって。あの時惹かれた彼女に何とか応えたく思って。

 未來は手を差し伸べる。

「わ、私は……一緒に戦ってほしいって言葉を、ま、守ります……!」

「あたしはもう戦えないのに、鉄さんが戦う義理なんて」

「え、えっと、その、さ、作戦があります」

 雫がハンドガンから手を離し、未來の手を強く握った。

「……聞かせて」


ー同時刻ー


 水田が装着したヘッドセットから飛び出した女の悲鳴が水田の耳を突き刺す。

「ゃぁぁぁっ! ポールが撃たれたぁぁっ!」

 暴力的なまでの大声に水田は顔をしかめる。

 思わずヘッドセットを投げ捨てるところであった。

「ポール?」

「ポール……ぅぅ……」

 通信の向こうで泣きじゃくる彼女に言葉は届かず水田は思わず出かけた舌打ちをこらえた。

 それから情報屋が叫んだ言葉の意味を紐解く。

 ポールというのはおそらくあのクマのぬいぐるみだろう。

 そして追跡していた二人から銃による反撃を受けたようだ。

 そこまで理解して水田は冷静に呟く。

「まずはこちらの目を潰してきましたか」

 だが、問題はないと判断していた。

 もとより一人でやるつもりであったのだ。

 情報屋の手を借りる、ましてや得体のしれないクマのぬいぐるみにさほど期待はしていなかった。

 クマから送られてくる座標情報を元に遠隔攻撃、射程範囲約百メートルを活かした一方的な蹂躙。

 確かに強力であろう。

 冷静に、そしてリスクなくSDGsの持ち主を倒せるのだから。

 だが、水田には物足りなさがあった。

 獲物は自らの手で仕留めるという執着心とプライドがあった。

 相手は女子高生二人だ。

 それを搦め手でいたぶるのも面白くはない。

 圧倒的な実力差で、自らの手で、「狩って」こそ意味があると思った。

 そして彼女らに興味もあった。

 どのような人間なのか。

 どんな正義を掲げてSDGsを手にしているのか。

 水田にとってSDGsを手にすることは彼の正義を体現するのに必要不可欠なものだ。

 それを拒もうとする者にどんな信念があるのだろうかと。

 水田はヘッドセットを外す。

 クマのぬいぐるみが撃たれて動けなくなった座標へと向かう。

 追っ手を倒して油断しているであろう彼女達に、水田は簡単に追いつける自信があった。

 職業柄、追跡は得意だった。

 自身を狩人であると自負するだけのことはある。

 故に、水田は一人で決着をつけることを選んだ。

 追っ手はもういない、そう油断しているであろう二人を絶望させてやる。

 そう決めた水田を待ち構えていたのは意外な状況だった。

 クマのぬいぐるみが撃ち抜かれた座標へ到着した先に、標的の女子高生の姿があった。

 周囲を背の高い草に囲まれ、少し視界が開けた場所。

 河原から少し外れ、足元は砂利から湿った土に変わっている。

 そこに彼女は立っていた。

 距離にして約十メートル。

 銃を扱っていたほうではない。

 SDGsを扱っていた地味な見た目の少女だ。

 能力はおそらく素材から何かを作り上げるというもの。

 現にその手には武器があった。

 槍だ。

 木の枝に尖った石を結び付けた原始的な武器。

 石槍とでも言うべき程度の低い武器だが、即席で用意したにしては遠目で見ても完成度が高い。

 刃となっている石の削り具合や、植物のツルで頑強に巻いた様子や、柄が綺麗すぎる点だ。

 あの武器がSDGsの能力による物なのだろう。

 水田はそう判断した。

 だが、いくら武器が作れようとも水田には距離の優位性があった。

 この距離であれば能力の射程圏内だ。

 クマのぬいぐるみに頼らずとも目視で標的を確認できている。

 問題は、もう一人の存在だ。

 銃を持っていた。

 動くクマのぬいぐるみなんて物を撃ち抜くにはある程度の技能が必要だ。

 油断は出来ない。

 待ち伏せしているならば居場所を炙り出すだけだ。

 水田は口を開く。

「SDGsを全て渡すなら手荒な真似はしません。見逃しても構いませんが?」


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