『3-3・協力』
未來と雫は近くの河川敷へと来ていた。
平日の朝ということもあり人気がなく、河原に生い茂った背の高い雑草が程よい目隠しになっている。
能力を試してみるのに都合が良かった。
今後戦うにしても自分の手持ちの駒を把握する必要がある。
試してみるのは能力の種類だ。
今までの結果を整理してみる。
SDGs12‐工匠は雑兵に非ず‐によって。
玩具の銃は実銃に手持ち花火は打ち上げ花火に。
壊れた壁材は元通りどころか綺麗な壁に戻った。
プラスチックの玩具は、鉄素材の本物のフライパンに変わった。
質量保存の法則を超え材質からして全くの別物に変わっていた。
本物を模した物や偽物を本物に変え、そしてその質をより高くする。
だから、と未來は言いながら足元の石を拾い上げる。
河原の石へと思いっきり叩きつけて割ってみる。
そして能力を発動する。
しかし何も起こらなかった。
意図を汲んで雫は言う。
「割れた石を元通りにしたり、これが岩に変わったりっていうのは無さそうだね」
「は、はい。自然物だと駄目なのかもしれません。削ってみたら……石包丁になる……かもですけど」
多少研げさえすれば、質の悪い石包丁として判定され扱われ、匠が作り上げたような本物の石包丁になるのかもしれない。
雫は言う。
「これは鉄さんの自意識の問題かもしれないけど」
そう言いながら割れた石を爪先で蹴る。
「あくまで手を加えられたもので、鉄さんが今よりも高度なモノって認識したものに変化するんだと思う」
「そ、そういうものですかね……」
「鉄さんの機転次第ってコト」
贋作を真作に。
雫がそう喩える。
感覚的には納得できる部分はある。
未來はそう自分に言い聞かせる。
原理も理屈も分からない未知の力だ。
上手く使いこなせるだけでも奇跡といっていいのではないか。
そして重要なのは、何が出来ないか。だ。
未來と雫はそう投合して様々な条件を試してみる。
そんな中、未來はずっと気になっていたことを遂に雫に問いかける。
「あ、あの……気になってたんですけど……その、聞いていいのか……どうか」
「なに? なに?」
「銃はその……どうやって」
「細かいコト気にするんだね」
「こ、こまかくないと思いますけど……法律的にも……た、大変なことですし」
「これもペンダントと一緒に遺されてたものだから」
それを聞いて未來は思う。
雫の父とやらはやはり普通ではない。
何も伝えず謎のペンダントと銃を置いて行方をくらます。
この奪い合いのゲームにあえて巻き込もうとするかのように。
顔も知らない雫の父が、未來にとってはどうも信用できない存在になっていた。
「そ、それでも。そんな簡単に扱えるものなんです……か?」
未來の問いに対して雫は首元のペンダントを指にかけた。
「これがカラクリ」
異形の腕の能力を持っていた女の言葉が未來の脳裏を過る。
雫の手持ちのペンダントは一つ。
その能力は未だ明かされていない。
使っている様子もなかった。
あれほど追い込まれても使わず、一人では戦えないのでは? という指摘に対して否定しなかった。
どういう能力なのか、そう問い掛けようとした未來に先回りして雫はペンダントにかけていた指をその口元へ持っていく。
指を立てて唇に当てる茶目っけのある仕草と共に彼女は言った。
「まだナイショ」
ー同時刻 同場所ー
二人の様子を遠くから伺う影があった。
距離にして約百メートル。
革靴が汚れるのも気にせず、河原の茂みに身を隠している。
水田の姿だ。
昨晩、制服警官を言いくるめてから水田は二人を監視していた。
目的は無論SDGsの奪取である。
水田には目論見がある。
公安という肩書きを利用して、SDGsの情報を集め独占する。
彼にはそれを行うだけの情報ネットワークや非合法的な手段を持ち合わせていたし、優秀な協力者もいる。
水田はスーツと革靴姿に似合わぬクマのぬいぐるみを手にしていた。
首元にリボンを巻いたデフォルメのつよいファンシーな見た目をしている。
高さは約40cmほどの大きめのサイズだ。
水田はクマのぬいぐるみを地面に立たせる。
そして耳元のヘッドセットに指を当てる。
「これでいいんですか」
水田はヘッドセット越しに話しかけると遅れて気の抜けた声がした。
「大丈夫っす~、賢い子なんで」
水田の通信に返ってきた声は、昨晩情報屋と呼ばれていた女、「灰尾」の声だった。
水田が用意した協力者である。
灰尾の言葉は続く。
「ちゃんと『見えてる』っすよ」
クマのぬいぐるみは水田の手から離れているが川原の石に上手く自立している。
言葉に合わせてクマのぬいぐるみはその手足を動かして、まるで生きているかのように振る舞う。
機械を仕込まれたような動きではない、あまりにもスムーズであった。
ひとりでに生き物のように動くぬいぐるみを託された水田は溜め息を吐く。
「これが協力とは」
「あ!? 疑ってるっすね? 大事なときにしか貸さないんですから、その子は!」
灰尾の言葉に合わせてクマが憤慨した様子で手を振り回す。
水田は頼りなさを感じたものの、内心水田の能力を測る好機だと思っていた。
情報屋である彼女について情報はあまりない。
本人の情報に関しては上手く包み隠されている。
だが、何かしらのSDGsの能力を持っているのは確かであった。
このクマによってその一端が垣間見えるのであれば大きな利点だ。
水田はそう考える。
そもそも他のSDGs所有者の襲撃は水田一人でやるつもりであったし、その自信もあった。
思わぬ助っ人が頼りなくとも構わない。
水田は手首に巻いたペンダントに指先を当てる。
灰尾が言う。
「その子を斥候としてサポートするっす、汚さないで返してほしいっす」
クマが喋っているかのジェスチャーで水田にアピールをすると、そのままクマは走り出していく。
ぬいぐるみらしい短い手足を必死に動かして川原の上をかけていく。
そんな後ろ姿を見送りながら水田は能力を発動させる。
「まぁ土が付いても知りませんが……」
水田の足元で地面が動いた。
川原の石が音を立てて振動し、砂利が跳ね上がる。
地下に何か、巨大な何かがうごめいているかのように。
大きく隆起した。
「SDGs15‐地に足つける者達へ‐」




