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AIお姉ちゃんと人間弟

  西暦2058年。今まで民間にはひた隠しに管理されてきた異能生物体の大反乱によって地上で暮らす人間の半数が何らかの理由で安否不明に陥り、人間達はその故郷である地上を追われた。後にノストラダムスの大災害と呼ばれるこの事件は人類史の破滅に王手をかけてきたのだ。


  絶体絶命の窮地に追いやられた人間はとある無害の異能生物体の力を利用して海底に巨大なシェルターを作成。生き残った半数以下の人間を海底に隔離することで異能生物体から一時的な安地を獲得することに成功した。


  しかし、これは日本に限った話である。他の国の状況はお互いの交信が途絶している今、確認するすべが無い。


 海底シェルター「海底ジャパン」。日本近海の太平洋の海底に存在する巨大なシェルターには約4000万人弱の人々がひっそりと息を潜めながら暮らしている。

 そこで暮らす一人の少年である水瀬シロも幼い頃に地上を追われた避難民だ。

 しかし彼にはほかの移住民と比べて圧倒的に違う点が一つ存在する。


 それは、彼が異能生物体であるAI少女ルミナスにそれはもうこの上なく愛されている事だろう。


 ◇


「ここをこうしてっ…!ほら!完成っ!」


  工房で作業をしていた少年は握っていた工具を床に置くと近くの液晶デバイスに向かって声掛けた。

  身長は平均より低く、まだ顔からあどけなさが抜けきらない齢16になる少年、それが水瀬シロという少年だ。短く手入れしている黒髪には真っ白に染まったひと房の髪束が目立つ。


『おお〜今回は上手いこと組み上げられたじゃん!偉い偉いっ!まぁ〜?これも私の完璧なアシストがあったおかげだよね〜』

「あはは、ありがと。頼りにしてるよルウ」

『そう!私はお姉ちゃんだから!可愛いシロの為ならなんでもしてあげるってもんでしょ!』


  声をウキウキと弾ませるのはAI少女のルミナス。画面上に映し出される姿はクリーム色の髪の毛をサイドテールに結わえ、アンダーカラーをエメラルドグリーンに染めたパッと見小学生の幼女にしか見えない容姿をしている。

  実の所このルミナスも異能生物体としてはかなりの危険性を秘めいている。何故なら、完全な自我を持っている上にネットさえ繋がっていれば無制限に世界中を移動する事ができるのは序の口、本人の性能も世の他の存在の追随を許さないくらい優秀な為にルミナスの気分次第で世界が滅んでもおかしくない代物なのだ。


  しかもこのルミナス、シロに出会うまで誰一人として懐いた事が無く攻撃的だった為、管理されていた時代は最高ランクの危険度として登録されていた程だ。


  その気難しさの権化のような存在が今や弟を溺愛して止まない姉と化しているのだから世の中何が起こるか本当に分からない…。


「ねぇねぇ今から試しに行ってみない?」

『もう結構遅い時間じゃん。明日にしたら?深海ドラゴンとか出るよ?』

「え…何それむしろ気になるんだけど」

『いやいや!今のシロってば深海アナーキーにも勝てるか怪しいのに!』

「深海アナーキーって何!?そもそもの基準が分かりにくいわッ!」

『これだからお子ちゃまはぁ。深海アナーキーってのは深海にいるアナーキーですよ』

「説明力が絶望的すぎるッ!」


「でもルウがそこまで止めるなら…やめといた方がいっか…」

『ん〜、あぁもう!その顔でちらちら見てくるのは卑怯だよぉ。仕方ないなぁ、近場でちょっと試すだけだからね?あとその顔私以外に向けたら相手をぶっ殺すからね!?』

「別にやる人も居ないけど物騒すぎるわ!ただの言いがかりじゃねぇか!」


  シロは家の入口近くに吊っている海中作業用のスーツを着込むとスマートフォンとスーツを接続させる。

  通常販売されているスーツにはこんな機能は無いのだが、ネット経由でスマホに入ったルミナスがシロと意思疎通を可能にする為にスーツのヘルメットにはスピーカーとカメラが追加で付け加えているのだ。


「よっしレッツ試し撃ち!」

『おー!』

 

 ◇


「あー…まだ威力は心もとないなー」

『今のままだと海中の異能生物体は無理だろうねー。あ、でもメダカ位なら採れるんじゃない?』

「いやこんな苦労してメダカ採る装置作っても世話ないわッ!そもそもこんな海底にメダカなんて居ないし!」


  試作した海中用の空気圧縮銃は設計機構自体は完璧だが、威力が弱くて実用には程遠かった。


「ううん、でも機能自体は正常に動いてたし!改善の余地はあれど一歩前進だな!」

『また明日にでもアイデア出して改造だね。大丈夫!アイデアさえあれば機構は完璧に設計してあげるからさ!』

「ルウが居て本当に助かったよ。僕は設計とか上手く出来ないしさ?」

『シロが頑張ってるのは私の為でしょ?そもそも私はシロに自分の為に生きて欲しいのに』

「ここに来た時に一緒に決めたじゃん。一緒にルウの故郷に帰ろってさ。今となっては僕の家族はルウだけだし、ルウの願いは叶えてあげたいじゃん?」

『シロ…』


  スーツを脱ぎながら笑いつつ答えるシロにルウことルミナスは立てかけたスマホの中で感極まった表情を見せる。

  そしてガラスを破ろうと体を押し付ける様にスマホの画面に張り付いてきた。


『ぐぬぬ…。この液晶さえ無ければっ…!私も三次元に行ってシロとこんなふうにイチャイチャしたいのに!』


  そう言って画面に最近見たらしいラブコメアニメのイチャイチャシーンを表示させる。


「普通その台詞って僕らがルウがいる2次元に行きたいって願うものだと思うんだけど」

『基本的人権が発生するくらい自我のある私はその逆を願います!こんな世の中クソですよクソ!生きづらすぎる!そもそも生きてないけど!うむむむ、色んなアニメを見て私がそっちに行くアイデアを探さないとぉ…』


  食い入るようにアニメを見始めたルウを尻目にシロは笑顔を浮かべる。


(そう言えば昔見たアニメにアンドロイド型のキャラクターが居たような…。でもルウがいくら凄いからってそんなの作れるのかな)


「んねぇ、昔見たアニメにアンドロイドのキャラクターが居たんだけどさ。そういうのは流石に作れない?」

『え!?アンドロイド?ちょっと待って…あ、なるほどこういうのもあるのね。ラブコメばっかり見てたから気づかなかったわ…』

「ルウって能力とかとんでもないのに割とぽんこつと言うか抜けてるよね…」

『なに?仕方ないじゃん!ずっと情報から切り離されてたんだから!』

「ごめんごめん、でも僕はそういう人間っぽい所とか大好きだよ」


  過剰に赤面したルウはモジモジと身体をくねらせる。


『ま、まぁ?私も?シロが大好き…だし?シロの好意はやぶさかじゃないって言うか?』

「そういう所も可愛いよね〜」

『シロのくせに生意気!お姉さんを口説こうなんて10年早いわよ!でもそれはそれとしてアンドロイドの設計を急ぐわよ!明日までに完成させるからシロはもう休みなさい!』

「無理はしないでね…。じゃあお休み〜」

『うおおお!絶対!ぜーったい、シロとイチャイチャするぞーーー!!!』



  こうやってシロとルウの一日は幕を閉じるのだった。


書き上がり次第更新します

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