第8話 禁欲のススメ
作戦1.まで進めることができた。マッチングアプリの情報は、カラオケの中で設定を手伝うとともに、あいつらが騒いでいるうちに写真を撮っておいた。タイミングがシビアではあったが、上手くいった。
その時に太ももをいやらしく触られたことが無性に腹が立った。代償と考えれば安いと捉えよう。
次はあいつらと後輩をマッチングさせることだ。その計画に使う女を用意する。その女とは後輩のことだが。
今日の昼休み、その後輩と話し合うことになっている。先に三人で屋上に待っていると、慌ただしい足音で後輩がやってきた。
「お疲れ様です!ちょっと授業が長引いて遅れました」
「うん、全然大丈夫。そんな待ってないから。じゃあこっち来て」
後輩が私たちの前にちょこんと体育座りをする。私たちを見上げる顔は食べちゃいたいくらいかわいい。私たちもあわせてその場に座った。
「男食い活動は順調?」
「はい!おかげさまで三十人達成しました。ありがとうございます」
「ちゃんとゴム付けてる?」
「はい。でもたまに生でしちゃうんですよね~。あの快感が忘れられなくて」
「気いつけなぁね」
「大丈夫ですよ。中には出されていないので。それで今日はどうしたんですか?」
私はスマホをいじり、とある画像を見せた。
「この人知ってる?」
「分からないですけど…、先輩の不良仲間ですか?」
見せた画像はこの前、マッチングアプリを入れさせた際に盗撮したあいつらのプロフィール画像だ。その写真は私たちがとったものだということは絶対に教えてはいけない。
「まぁ、そう、正解。この人たちどう?」
「どう…、あ、セックスですか?」
「そうだよ」
「やりたいです!」
三人は顔を見合わせ、溢れんばかりの笑みをこぼした。樋口が私に耳打ちで「とりあえず昨日言った感じで」と言った。手でOKサインをし、後輩に目を向ける。
「あのね、彼らとセックスするのはまだだね」
「え、何でですか?」
「こいつらは雑にセックスするのが主流だから。あんたみたいな女が来てもすぐにやってハイ終わり、って感じになるかもね」
「え、じゃあ尚更やりたいですよ」
「だめ。だからあんたは本気であいつらのこと好きになって」
「……どうして?」
純粋に聞く顔や反応を見る限り、私たちにとって後輩は絶好のカモだった。
「大好きな人とセックスするのって今まで以上の満足感を得られるわよ。ついでにあいつらに求愛すれば愛のあるセックスができるかもね」
「…そうなんですか…。じゃあやってみましょう」
「了解。じゃあ連絡先は渡すから、彼らと会うまでセックス禁止ね」
「え!それは嫌ですぅ」
「禁欲しなさい。その方が倫理的にも正しい思考ができるわよ」
「嫌ですぅ。じゃあ今いる四人のセフレはどうすればいいんですか」
「私たちがもらうわ。それで解決」
「んん、嫌だけど、先輩の言うことなら信じます」
ちょろかった。こんなに頭の悪いバカ女だとは思わなかった。便利な女を仲間にした。今回で進んだことを樋口が手帳に進捗度をメモする。
「じゃあ、少なくとも二年後かな。また会おうね」
「え、長くないですか?それまでセックス禁止なんですよね…。やっぱ嫌です」
「オナニーだけは許してあげるから、ね」
「先輩、騙してませんよね?」
「もちろん。ただあんたに本当に好きな人とのセックスを知ってほしいの。じゃないとあんた、キャバクラとか風俗店で働きそうだから」
「……分かりました」
元気が取り柄ともいえる後輩の顔は悲しみを占めている。ギラギラと眩しい太陽に雨雲がかかっているように。
「佐倉。作戦上手くいきそうだね」
「ね。これであいつの感覚を戻して、いい感じに事件に発展、だけどシナリオ通り行くかな」
「まぁ、やってみないとわからないよね。山下どう?」
「そうだね。とりあえず信じよう。それで私たちの復讐はハッピーエンドにする」
「とりあえずまた私の家に集まろう」
計画を地道に進めながら、私たちの高校生活は幕を閉じた。