第6話 行き場のない思い
「二人の意見を聞く。どうする?」
二人の顔はどんよりとしている。まだお別れができていないのか分からないが、ずっと下を向いている。
すると突然、山下がむくっと顔を上げた。
「佐倉はどう思う?」
「どうって」
「もちろん、私たちは神君が好き。復讐を成し遂げたい。でも、できるかなって不安が募るの。もし失敗したらって考えると、怖い」
山下が言っていることは痛いほどわかる。身の危険を感じることがあるかもしれない。途中の行動で何か怪しまれたら何をされるか分からない。それこそ、私たちがあいつらの性欲のはけ口にされるかもしれない。あんなやつらとセックスなんてしたくない。
でも私の意思は変わらない。そのことを二人に伝えた。「私はやる」と宣言した。
「じゃあ、私も頑張るよ。神君のために」
「ありがとう。樋口はどう?」
「うん、私もやる」
「了解。とはいえ、今は何もできないから、とりあえず都合のいい後輩を徐々に探せたらって感じね」
「そうね、あぁ、やっぱり寂しいわ」
珍しく山下が弱音を吐いた。皆、寂しい理由なんて一つしかない。いつも私の家に集まれば、狂ったようにセックスをしていた。だけどもう、する相手がいない。今まで日常と化していたセックスは、非日常的なものなのだと、大事な存在がいなくなってから気づいた。
「なんか、こんなに何もしない時間を過ごすのってすごい久しぶりよね」
「そうだね。神君が居ればこんな時間、あっという間なんだけど」
「あんなに普通にやってたセックスって貴重な体験だったんだね」
「それ、私もさっき思った」
ついこの前のことでも懐かしく感じる。神君は、私たちをたくさん気持ちよくしてくれた。いつも悩んでいるときも相談に乗ってくれる優しい人。唯一、セックスをしても抵抗がない、いやむしろ私から求めている。この穴を埋めるまでは相当の時間がかかりそうだ。
「じゃあ、私たちは帰るね」
「うん、じゃあまた明日」
こんなに早く解散することは初めてに等しい。行き場のない思いは各自持ち帰ることになった。一人になることはあっても、心が一人になることはいじめられていた時以来だ。
無意識に私の右手は股間をもぞもぞと触っている。その手はパンツの中に入れ、中指を中に入れる。あのときの快感を味わいたいが、やはり一人で気持ち良くなることはできなかった。
それでも無我夢中で気持ちいポイントを探し、ひたすら指を動かす。だんだん感度は上がり、声を殺しながら絶頂を迎えた。絶頂を迎えたはずだが、私の心は満たされなかった。
人は、心が空っぽになったり、何もやることがない時ほど、性欲で満たそうとすることを私は知った。
いじった指を舐めるという無意味な行動までするくらい、今の私は空っぽだ。