第4話 報告と別れ
「あ、ここだよ。遠かったねぇ。樋口、持ってきたあれ、置いてー」
「わかったー。よいしょ。神君、じゃがりこ好きだもんね~。あ、山下。お花ちゃんと持ってる?」
「失礼ね、持ってるわよ。えっと…。ここに置けばいいのよね。じゃあ、代表して佐倉。神君に報告して」
「…了解。えっっと、…へへ、…なんか照れるな。んっと、神君。一年ぶりだね。毎年命日は三人の予定を合わせてお墓参り、これも五年目になるよ。もう私たちも二十歳だよ。神君、元気?」
元気だよ。僕は三人に会えるこの日を心から待っていた。もちろん僕の姿は見えないだろうけど、三人の元気な姿が見える。毎年三人の顔を見ることだけでも嬉しいが、今日は特別な日だ。
「あのことについて報告するね。復讐は完了したよ。あいつらも私たちだっていうことに気づいてないし、社会的ダメージを負わせてやったわ」
その言葉を聞いて、右手を強く握りしめた。爪の跡が残るくらい。
「神君の作戦、上手くいったよ。あいつらは高校卒業しても人に迷惑しかかけないから、言う通り実行したよ。私たち最後の共同作業」
嬉しかった。ずっと根に持っていた思いは三人に悪影響じゃないか、と死んだ後考えていた。三人に僕の身勝手な復讐案を勝手に三人に渡して、これを見てどう思っただろう。無理だよこんなの…、なんて思われたんじゃないか。正直、裏切っても僕は仕方ないことだと思っていた。だが、実行してくれた三人には頭が上がらない。
「でも正直、復讐実行時まであいつらが更生していたら何もしないであげてって神君優しいね。やっぱり私たちの神君は、本当にいい人」
少し涙目になっている佐倉さんはいつもの笑顔を保っている。悲しませないようにそんな表情をしているのかもしれないが、逆に心配しそうになる。
「あの手紙読んだ時は、さすがにできるかな…って思った。神君の作戦は完璧だけど、私たちがそれを上手く動かすことができるかなって。本当に…本当に大変だった。でも神君との思い出を振り返ると、一生大切にしたい人。三人の想いは同じ。私たちの彼氏だもん。だから読んでから三十分後にはもう決心した。っと、これは一回目のお墓参りでも言ったっけ」
改めてその言葉を聞くと胸が痛い。やっぱり荷が重かったのだと再確認した。今すぐに頭を撫でてあげたい。よくやったねって。
「とりあえず、私たちのドラマは神君にも知ってほしい。過程を全部知ってほしい。…まぁ、答えは返ってこないけど、勝手に言うね」
一応、わかったと答えた。この声はどこにも誰にも響かない。この悲しさにも慣れてきたことが強くなれた証だ。
「神君の作戦通り、十九歳になってから徐々に計画を動かしたよ。偶然、私たちの後輩で便利な女が仲間になった。セックスすることになんの抵抗もない女。私たちはついてるってその時思った。作戦も順序立てて全部クリアしたよ。
作戦1.あいつらのマッチングアプリの情報を盗む。
作戦2.偶然をよそって後輩とあいつらをマッチングさせる。
作戦3.あいつらと未成年の後輩とセックス(5P)をさせて、後輩と警察に行く。
マッチングアプリの情報を盗むのはちょっと苦戦したわ。四人中三人入れてないんだもん。そこで私たちが『それ入れればいろんな女とセックスできるよ』って言ったら秒で入れたわ。あいつらの性欲怖いわ。その流れで私たちが襲われそうになった時が修羅場だった。でもそこはセックスなんてしないでなんとか逃げた。でも本当に怖かった」
三人は少しだが、震え始めた。おそらくあの時のあいつらの女に餓えた目が怖かったのではないか。その状況を想像してみると、醜悪なあいつらに憎悪の念を抱く。
佐倉さんは、一瞬深呼吸をし、その場で大きくジャンプをした。主張しすぎない彼女の胸は大きく揺れた。
「正直、作戦が上手くいきすぎて怖かった。マッチングもちゃんと成功して逆にはめられてるんじゃないかってくらい。でもちゃんと成功してた。でもやっぱり難しかったのは、5Pだった。やっぱり一対一になることが自然なのに、どうやってまとめてやるか。でも後輩も馬鹿だから、友達紹介してもらう感じであいつら全員と一人一人ヤッたんだって。ホント頭おかしいなって思った。まぁ、だから仲間にしたんだけどさ。それで最後に五人でセックスしようってなって最後のセックスをさせた。もちろん、未成年なんて知らずにあいつらはお酒も飲ませたらしい。その中に媚薬混ぜられて記憶ないって言ってた。もしかしたらゴムなしでやってる可能性が高いかもね。まぁ逆にそれを利用して、後輩の親も巻き込んで、代表して私と後輩とその親で警察に行って、誰にやられたのか、あいつらの情報全部教えてやった。すぐにあいつらは警察行きよ。あいつらが警察に捕まったところで私たちはSNSに拡散した。身元がばれないように本名を公開していないアカウントで。拡散力が足りないと思ったから、友達のインフルエンサーに協力してもらったわ。反響もすごいよ。本当に私たちはついている。私たちはあいつらに勝てたよ。やり方は汚いかもしれないけど、これが女にできる正義ね。神君、ありがとう」
お疲れさま。レポートを聞いて大変だったことがよくわかる。身の危険もあっただろうに。三人の持ち前の運の良さも生かして、楽しい復讐劇を聞いたよ。何度も言うけど、僕のわがままにつきあってくれて本当にありがとう。
「いやぁ、でも私たちもあれ以来セックスしてないから、セックスの話聞いてるとなんか変な気持ちになっちゃう。神君がいればなぁ」
「いや、佐倉だけじゃない。私だって神君に会いたい。恋しい。神君の温もりが懐かしい」
「佐倉と山下だけじゃないよ。私も会いたい。恋しいから。忘れないでよね」
「そうだよね~。なんたって私たちの永遠の恋人だもんね」
その愛情は歪んでるよ、と突っ込んであげたい。もう僕のことは忘れて、三人のための新しい恋を始めてほしい。僕との思い出を忘れなければ、誰とでもセックスをしてくれてもかまわない。
ただ、三人に悲しい顔をさせないで楽しく生きてくれる人が見つかれば僕はそれでいい。
三人の笑顔は最後に僕が見た笑顔と全く変わらない。その笑顔を見ると、僕は三人と親友に、いや恋人か。恋人になれて本当に良かった。
僕の想いが伝わってほしい。もう”僕”という存在に縛られないでって。
「おぉ、強い風」
「スカートめっちゃめくれちゃった」
「周りに変態そうな男居なくてよかったわね。丸見えじゃん」
「ね、下手したら襲われてるかもね」
「ふふっ、なに言ってんの」
三人は最後、墓石にキスをしてその場を去った。
墓石にかけられた水。三人がいなくなってから墓石が渇くことはなく、一晩ずっと濡れていた。まるで、一生の別れを決めた恋人の涙のように。