第3話 作戦会議、そしてさよなら
次の日。再び佐倉さんの家に僕たちは集まった。昨日の夜から症状が悪化し、歩くことすら辛くなった。
今朝、調子の悪い僕を見た母親は「激しい運動は控えなさいって医者に言われてるでしょ?」と注意喚起をした。学校では、体育があるときは保健室に行っている。授業を休んでいるため思い当たるものは一つしかない。
もっと言うと、たまに彼女たちも体育を休む時がある。保健室に先生や他の生徒がいなければ学校でもしている。
本能の赴くままにやってきた人生に、いまさら後悔なんてない。
「神君、大丈夫?ずっとつらそうだけど」
「…うん、元気だよ」
「ちょっと、私のベッドで横になってて」
「ありがと」
重い足を引きずりながら佐倉さんのベッドで横になる。いい匂いがする。優しさに包まれたベッドだ。
「じゃあ樋口ー。司会やって」
「そんな本格的なミーティングなの!?」
「いいじゃん、一番私たちの中だったらマジメな樋口に委ねる」
「わかったよぅ…」
樋口さんはその場で立ち、授業でもするかのような雰囲気を醸し出す。ずっといるとわかる。明らかに緊張している。
「樋口さん。そんなに緊張しなくていいから」
「緊張してないし!」
少し恥ずかしそうに答えた。少し遠くから彼女たちを見て、改めて美人な三人だと実感する。
「とりあえず、どうやってあいつらを陥れるかだね。何かある?」
スッと細い腕が上がった。どうやら山下さんが挙手をしている。
「実は今日ね。あいつらの学生証の写真撮ってきた!これをSNSにばら撒くっていうのはどうかな?」
司会の樋口さんがその意見を聞き、少し考えた。
「仕事できるねぇ。でもばら撒くのはいいけど、足がつかない方法でやらないと、まいつらからの復讐が怖いわね」
「確かに、ごもっとも…」
やるなら完全犯罪ならぬ完全復讐をしたい。それは皆、同じ意見だ。僕も天井を見ながら何かいい案はないか考える。そもそも彼女たちにあいつらのセックスの相手をさせることすら間違いなのではないか、と思ってきた。
改めて、僕は彼女たちの気持ちを確かめてみる。
「やっぱりさ、セックスさせようとして陥れるのって難しいよね。三人も嫌だと思うから別の案考えよう」
佐倉さんが僕の顔を心配そうに見つめながら言葉を発する。
「他にいい案があれば、もちろんそっちがいいけど…。でも私たちは大丈夫だよ」
「でもさ、安直な考えだと、セックスでいい雰囲気になった時に行動を起こすでしょ?そしたら少なくともその瞬間、騙されたっていうことがバレるよね?僕が関わっていることは分からないかもしれないけど、三人はバレるよね」
「ん…。確かに。じゃあどうしようか…」
沈黙の時間がこの部屋に流れる。僕が知る限り、今までこの部屋では他愛もない会話やボードゲームで盛り上がる声、彼女たちの喘ぎ声がこの空間を支配していた。
少し責任を感じた僕はベッドから起き上がり、樋口さんの肩を借りて立ち、進行を始める。
「冷静に考えると、中学生の時に復讐は難しいかもしれない。中学生なら社会的制裁は少ない。罪だってない。未成年同士のセックスって言ったって警察は動かないだろう。だから、僕が死んでから復讐を頼みたい」
三人はそろって「何いってんの!?」と声を上げた。その反応をしてくれただけで嬉しい自分がいた。隣にいた樋口さんが僕を抱きしめ、嗚咽交じりの声で訴えた。
「どうして…。一緒に復讐して、あいつらの散々になった姿を見るまで死なないって言っていたのに…。どうしてそういうことを言うの?私たちは、神君がいなかったら引き籠って、ろくでもない人生を送ってたかもしれないの。だから神君が生きている間に…やらなきゃ何の意味もないでしょ!?」
響いた。心の奥を通り越す勢いで響いた。「ありがとう」という言葉が自然と漏れるくらい、その言葉は嬉しかった。
「でも僕の考えは変わらない。計画も八割くらいは出来ている。だから、僕のことを信じてほしい。お願いします」
僕はその場で跪き、ゆっくりと額を床につけ、土下座をした。それだけ本気なんだということを皆に知ってほしかった。
三人の泣き声が近づいてくると、うなじの辺りに涙がポタポタと落ちてくる。それを感じて、思わず涙が出てしまう。泣いている姿を見てもいないのにもらい泣きをしてしまった。
すると僕の両肩に手を置き、女性の力とは思えない力で僕の体は起き上がった。目の前には山下さんが顔を見せないで泣いている。その顔が見えないまま、僕に抱き着いてきた。
「わかった…。それが神君の最後のお願いっていうなら、私たちはやるよ。絶対成し遂げる。だから土下座なんてしないで…」
僕は「ありがとう」と言い、強く抱きしめた。
「私たちからも最後のお願い聞いて」
「いいよ。僕ができることなら何でも聞く」
「私たちの初めての彼氏になってほしい。皆で決めたことだから…お願い」
「恋人になっても恋人っぽいこと何もできないし、僕は一人しかいないけど、三人はそれでいいの?」
三人とも満面の笑みを浮かべ、僕の体のあらゆる個所にキスをした。その勢い増すばかり。
友達三人としていたセックスと恋人三人としたセックスは、月とすっぽんだ。何度も何度も絶頂を迎えるが、最後の力を振り絞るつもりで僕は彼女たちの相手をした。彼女たちの表情もいつもと違う。本当に悲しそうで、楽しそうで、心の底から気持ちよさそうな顔をしている。
女性にとって、セックスの相手が”恋人”になるだけで気持ちが変わるのかもしれない。
その場の空気は、いつもの楽しい空気ではなく、しんみりとした空気が漂う。
力のない体でも、三人均等に相手をした。今までできなかった正常位もした。死ぬ前の馬鹿力を与えてくれた神様に感謝をする。
違う人生を歩むことがあっても、泣きながらセックスをすることなんて二度とないだろう。
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二日後。僕は天国への階段を上っている。置手紙、気づいてくれるかな。