私の好きな騎士団長様には、隠し子がいた
【毎週水曜の新作短編投稿】の第四弾です!
「……嘘、でしょ……」
その日、私は仕事を失った。
私の名前は、イリナ・カディナ22歳。
昨日まで貴族家の使用人として働いていたのだが、今日朝出勤したらその屋敷はもぬけの殻だった。
簡単に言えば、夜逃げしたのだ。
確かに無名な貴族屋敷だと思っていたし、異様な程お金も使いまくってたから怪しいとは思っていたけど、やばい相手だったか……
私は大きくため息をついた後、離してしまったカバンを握り直し屋敷の前からとぼとぼと歩き始める。
特に行先はなく、今日から無職次の仕事の当てもない、使用人としてもまだ駆け出しでやっと拾ってもらった屋敷だった。
だがそれももうなくなり、つてもない。
「あ~私の思い描いてたメイド像からどんどんかけ離れて行く~!」
そう私は道の真ん中で大声を上げてしまうが、周囲の人から変な人だと言う目で見られている事に気付き、すぐさま走って逃げた。
うわぁ~最悪……つい人生詰みかけて叫んじゃったよ……
そして少し人通りが少ない所に来て足を止め、息を整え始めた。
「はぁ~……これからどうしよ。勢いよく実家を飛び出て来た手前帰りずらいし、父さん辺りに口うるさく言われそうだしな」
愚痴を漏らした直後、お腹はそんな事関係なく鳴りだした。
私はとりあえず朝食を食べようと店を探し始め、通りを歩いている時だったある張り紙が目に止まる。
そこに書かれていた内容に、私は二度見してしまい食い入るように見つめた。
「嘘、本当に!? 本当!? これは朝食なんて食べてる場合じゃない。今すぐに行かなくちゃ!」
私はすぐさまに張り紙に書かれていた店へと向かった。
その張り紙に書かれていたのは「派遣使用人大募集!! 未経験者も大歓迎!」と言う求人の張り紙であったのだ。
「ここだ。派遣使用人屋って看板にも書いてあるし、思っていたより綺麗なお店だ」
私が店の前で突っ立ていると、店の扉が開き出て来たのは銜えたばこをし少しツリ目で怖い雰囲気をした年上の女性であった。
「ん? 何だお前。うちに何か用か?」
「え、あ、はい! その、私をここで雇ってくれませんか!」
「あ?」
やば~い! テンパり過ぎて色々すっ飛ばして雇って下さいって言っちゃったー!
私は名も知らないちょっと怖い人に頭を下げていると、その人が声を掛けて来た。
「あ~あのボケが適当に張りまくった張り紙でも見て来た奴か。とりあえず中で話を訊くから」
そう言ってその女性は店の扉を開け、中へと入って行ったので私もその後を焦りながら付いて行った。
それから店の中で面接的な事をし終えると、突然先程の女性が私の肩を笑いながら叩いて来た。
「あははは! アンタ大変だったね。いいよ、採用してやるよ。あ~遅れたが私がここの店長のシーラだ。よろしくな、イリナ」
「て、店長さんだったんですね。すいません、全然分からなくて」
「いいて、いいて。こんな格好の奴が店長と思う方が変だよ。それじゃ、早速だけどうちの説明をするよ」
「はい! お願いします!」
派遣使用人――それは名前の通り、執事やメイドを雇いたいと言う人にシーラが経営する店に所属している者を、期間を決めて派遣するものである。
近年一部の一般家庭でもお手伝いさんが欲しいと言う需要があると聞いたシーラが、面白半分で始めたものであった。
が、思った以上に反響もあり今ではシーラ以外にも派遣使用人をやりだす店も増えているらしい。
その為、シーラの店は最初の頃より人気は下がり、所属する使用人も減ったのだ。
原因は他店の待遇差や対応顧客に、賃金などと色々とあるらしい。
現在は、一部常連さんや新規に依頼してくる貴族などを相手に使用人を派遣している。
「つうわけで、うち以外にも派遣使用人をやってる店があるがどうする? イリナなら別の所でも雇ってもらえると思うがいいのか?」
「はい! 私が派遣使用人を知れたのはあの張り紙のお陰ですし! 運命だと思うんで」
「あははは、あんた面白いね。うちは曲者が多いけど、皆いい奴だけど賃金は他に比べて低いぞ? それでもいいのか?」
「賃金は高い事に越したことはないですが、この王都でメイドとして食っていけるなら問題ないです!」
「それを言うならうちの店じゃ……って、それを言ったら堂々巡りか。まぁ、とりあえずは試験採用って事で気が変わったら言ってくれ」
するとシーラは立ち上がり、近くの掲示板を見て一枚紙を剥がして私に渡して来た。
私はそれを受け取り、書かれていた内容を読み始めた。
「さっそくだが、仕事だ。昨日突然依頼されて、今日だけの派遣なんだが予定していた奴が、別の仕事で延長したらしくてな。どうすっかと困ってたんだ」
「それを私にですか? 確かに内容的にも給仕とか掃除などなので、昨日までやっていた仕事と変わりないので問題ないと思います。でも、まだまだ半人前の私で大丈夫なんですか?」
「大丈夫大丈夫。人が居ないから私が行こうかと思ってたくらいだし、それに半人前ならとにかく実戦あるのみだ。仕事して経験積むのが一番だ」
シーラはそう言って口に銜えていたたばこを取り、灰皿に潰した。
「とは言ったが、本当は最初くらい他の奴と組ませて行かせてやりたいんだ。が、何故か今日に限って誰もいねぇんだ。悪いな」
「いえ! いきなり仕事を任せて貰えるだけで嬉しいです! 半人前ですが、全力でやらせていただきます店長!」
「いい意気込みだ。じゃ、準備してからいっておいで」
「準備ですか?」
私がシーラの言葉に首を傾げていると、手をこまねて来たので後を付いて行くと、とある一室に案内された。
そこには綺麗な執事服やメイド服から様々な道具などがずらっと並んでいた。
「うわぁ~何ですかここ!? 凄いじゃないですか」
「そうなのかい? 私にはイマイチ分からんが、うちの奴でいように細かい奴がいてな、その辺の店より道具とかは諸々揃ってるんだよ。うちの店員なら、使うのは自由さ」
「え、いいんですか! ここにある物使って!?」
「お前はもううちの店員なんだ、使っても問題ないよ。ほら、さっさと準備してお客さん所に行ってきな」
「はい! ありがとうございます店長!」
私は目を輝かせながら準備を行い、その後シーラに見送ってもらい私は初仕事へと向かった。
そして私と入れ違いの様に使用人の格好をした男子二人女子一人の三人組が店にやって来た。
「ただいま戻りました、シーラさん」
「全くあんたのせいで仕事が長引いちまったろ」
「俺のせいかよ!? 俺じゃねぇって」
「あれ? お前ら帰って来たのか? 何だよ、早く終わるんだったら通信用の魔道具で連絡しろって毎回言ってるだろ」
シーラがそう言うと、三人組は目を背けた。
「デラン、あんたが一番しっかりしてるのにどうしてだ?」
「すいません、シーラさん。通信用の魔道具が壊れてしまって」
「それを壊したのが、ウルなんですよシーラさん」
「全く、またお前かウル。一番若いからって、何でもかんでも許す訳じゃねぇって言ったよな?」
「オリック、何言ってるんだよ!? 俺じゃないっすよ店長!」
シーラがウルに視線を向けると、反論をし始めるが適当にシーラは聞き流しデランに仕事内容についての報告を受ける為に、二人は別室へと向かう。
一方で残ったオリックは、ウルの方を見てうっすら笑う。
「ドンマイ、ウル」
「あんたのせいでもあるろうが、あんたの!」
「あ~何の事だか聞こえな~い~」
オリックはとぼけながら荷物を持って奥の部屋へと向かって行く。
「くっそ~オリックめ……はぁ~誰か新人入らねぇかな。俺が一番下っ端だからこんな感じだけど、新人入ればこの立ち位置も終わりなのにな~」
そう口にして店の外に視線を向けた時に、使用人服を着て走って行く後ろ姿の女性が目に入ったがシーラに呼ばれてしまい、店の奥へと入って行くのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「あ、あの~これ、何ですか?」
「いいから、お前は派遣使用人なんだから、こっちの言う通りさっさ運べ!」
「は、はい……」
私の初仕事先は豪勢な屋敷であったが、出て来たのは少し怖い感じのお兄さんたちであった。
そのまま私は言われるがまま、屋敷に入れられ地下から袋に入った何かを外に待機させている馬車へと運ぶように指示されたのだ。
持った感じ結構な重量で、感覚的には本? 紙? の様な物が沢山入っている感じがした。
「あっ」
その時私は足がもたついてしまい、持っていた袋から手を離して膝を付いて倒れてしまう。
「ごめんなさい! 直ぐに拾いま――えっ」
私は直ぐに顔を上げて地面に落としてしまった袋を拾おうとしたが、視界に入って来たのは大量の通貨や宝石であった。
何これ……どうしてこんな物を袋に詰めていたの?
そこで私の動きは止まってしまうと、後ろから男たちが急いでやって来て、袋から出た物をしまい始めた。
「てめぇ! 何してんだ!」
「いや、あの、あれはどう言う事なんですか?」
「そんなのてめぇに関係ねぇだろうが! いいから、さっさと運べ!」
「これって、何か危ない事になってませんか? 私変な事に巻き込まれていませんか?」
「あ~うだうだうるせぇし、使えねぇ派遣使用人だな!」
「どうなんですか! 答えてくだ」
と、私が言いかけた直後問いかけていた男に頬を叩かれてしまう。
突然の事に私は何が起きたのか理解出来ずにいると、叩いた男が私に近付いて来て胸ぐらを掴んで来た。
「いいから、俺たちの言う事聞いてればいいんだよ。こっちは金も払ってるんだから、お前は俺たちの言う事聞く奴隷みたいなもんだろうが」
「……違います……私は、私は使用人です」
「あ?」
「奴隷なんかではありません」
「へぇ~口答えするのかよ」
そこで叩いて来た男は私から手を離した。
私は使用人を奴隷と言われた事に耐えられずに、つい勢いで反論してしまっていたが、私の体の震えは増すばかりであった。
すると男は近くにいた別の男の懐から剣を取り出して私に突きつけて来た。
「中身も見られたし、反抗されそうだしここで始末しとくか」
「え」
男が手に持った剣を振り上げて、私目掛けて振り下ろし始めた。
その瞬間、勝手に私の頭の中では今までの出来事が目まぐるしく思い出され始めた。
私はその時にこれが走馬灯か……と、感じていた。
これで死んじゃうのか。
何もない人生だったんだ。
夢も叶えられないし、嫌事続きで終わるとか最悪だ……いや、最後にシーラさんに会えて拾ってもらえたのは幸運だったかな。
剣が振り下ろされることから目を背け、ギュッと目を閉じた直後。
金属音が何かにぶつかった音が間近で聞こえ、私が咄嗟に目を開けると、そこには見知らぬフードを被った人物が私を庇う様に剣で相手の剣を防いでいた。
直後、私を庇った人物は剣を持った男を押しのけると声を上げた。
「今だ! 全員捕縛しろ!」
その声と共に突然周囲から兵士たちが現れ、男たちを捕らえ始めるが一部抵抗する者たちもいた。
だが、兵士たちはひるむことなく立ち向かい制圧していくが、一人の男が包囲から抜け出し私目掛けて突っ込んで来る。
「てめぇ! 王国軍騎士団員だったのか! 俺たちをだましてやがったな!」
「!?」
私は男が何を言っているのか分からず混乱したまま動けずにいると、私を庇ってくれた人物が再び私を守る様に立ち塞がると優しく声を掛けてくれた。
「巻き込んでしまってすまない。だが、君には傷一つ負わせはしない」
そう言うと被っていたフードを脱ぐと、銀髪が一番最初に目に入ったが、その人が羽織っていたマントの王家を護る剣と盾の紋章で誰だが理解した。
「死ねぇー!」
男は突撃しながら両手に炎を纏わせ放って来た。
しかし、私を守ってくれる人物は剣で切り裂くと、男に向かい捕縛する魔法を放ち完全に動きを止めたのだった。
その後私を雇った男たちは全員が兵士たちに捕縛され、連行されて行った。
私は別の兵士に保護され、事情を教えてもらった。
どうやら私は犯罪者たちの屋敷に来ていたらしく、その犯罪者たちは一般人に紛れ込み悪事を働き金などの金品を隠し持っていたらしい。
そいつらはよくアジトの場所を変えるらしく、その時には必ず派遣使用人を雇っているという情報があったと兵士は語った。
あははは……私って相当仕事運悪いんじゃ……
そんな風に思い込んでしまい落ち込んでいると、私を助けてくれた銀髪の人がやって来た。
「お怪我はありませんか?」
「え、あ、はい。大丈夫です。助けて頂きありがとうございます、王国軍騎士団長様」
そう、私を命の危機から救ってくれた人物は、この国王都を守護する騎士団長の一人である。
ここ王都には七つの騎士団が存在し、それぞれ大きな役割がある。
王国の防衛や外交に治安維持など各騎士団ごとに大きな役割があり、私を助けてくれたのは王国軍第三騎士団の団長様だ。
そして第三騎士団の役割は街の治安維持の役割があり、街での犯罪や事件などを大きく担当している所である。
うわ~本物の騎士団長様だ~噂通りイケメンだな~
私が騎士団長に見惚れていると、騎士団長はほっと胸をなでおろした。
「それは良かった。貴方を事件に巻き込む予定ではありませんでしたが、このような事になってしまい申し訳ありませんでした」
「いや、謝らないで下さい。助けてもらいましたし、私の仕事運が悪いだけです」
「仕事運ですか……そう言えば、貴方は派遣使用人でしたよね?」
「そうですけど、え~と今日からシーラさんの所で……あ、店の名前は『ジェムストーン』です」
「なるほど『ジェムストーン』と言う店ですか。今回の一件に関しては、彼らが勝手に選び店側に依頼している内容でしたので、貴方の勤め先の関与はないので安心してください」
「そうなんですね。よかった……シーラさんに騙された訳じゃないんですね」
「はい。ですが、最近派遣使用人に対して依頼内容と異なった事をさせる事件も増えているので注意して下さい」
するとそこへ別の兵士がやって来て騎士団長に耳打ちをする。
「すいません、急用で私はここで失礼させていただきます。他の兵士に店まで送らせますので安心してください」
そう言って離れて行く騎士団長に私は改めてお礼を伝えた。
「騎士団長様、助けていただき本当にありがとうございました。私イリナ・カディナは、一生この恩を忘れません! ……あっ」
私はつい勢いで自分の名まで名乗ってしまった事に気付き、恥ずかしくなってしまい俯いた。
何してるのよ私! 別に名前を言う必要なかったじゃん! あ~恥ずかしい……
すると騎士団長は足を止めて、振り返ったのだった。
「いえ、市民の皆様をお守りするのが我が騎士団の使命。名乗り遅れましたが、私は王国軍第三騎士団長のアーク・クォークと申します。騎士団はイリナさん方、市民の味方ですので困った事があればいつでも頼って下さい」
「はい。……第三騎士団長アーク様か、名前もカッコいいわ~」
私がアークの後ろ姿に見惚れているとアークが何か言い忘れたのか、再び振り返って来て口を開いた。
「ではイリナさん、これからもお仕事頑張ってください」
「え」
と、アークは優しい笑顔を突然向けて来て私は顔から煙が出るくらい熱くなり、咄嗟に両手で顔を隠した。
そんな不意打ちずるいし! ずるすぎるよー!
私がその場でジタバタしているのを、近くにいた兵士はいつもの事の様に軽く肩をすくめるのだった。
その後、私は兵士の方に店まで送ってもらい、シーラの店『ジェムストーン』に辿り着く。
突然兵士と一緒に帰った来た私に、シーラは驚くが兵士が事情を全て説明してくれた。
その間私は上の空でぼーっと店内で直立しており、シーラと兵士の話は聞こえなかったが、話が終わると兵士も帰って行きシーラが声を掛けて来る。
「まさか初仕事で、悪い仕事に当たるとは不運だったなイリナ」
「……」
「ん? 聞いてるのかイリナっ!」
そう言ってシーラは私のおでこ目掛けて強烈なデコピンを叩き込んで来た。
私は強烈な痛みに目が覚め、額を抑えながらシーラに視線を向ける。
「いっったぁ~~何するんですか、シーラさん」
「あんたがぼーっとしてるからだ。で、本当に怪我はないんだな?」
「え、はい。大丈夫です。一瞬本当に命の危機でしたけど、アーク様に救ってもらいました! あ~カッコよかったなあの時のアーク様」
「アーク様? あ~さっきの兵士よく思い出したら第三騎士団の奴か。イリナ『悪魔の騎士』に惚れたのか?」
シーラがうっすら笑いながら言った聞きなれない言葉に、私は聞き直した。
「『悪魔の騎士』って何ですか?」
「知らないのか? 王国軍第三騎士団長のアーク・クォークは一部では『悪魔の騎士』って呼ばれてるんだよ。仕事は完璧、王都の平和を護るためなら、冷徹な指示もするって噂さ」
「それ本当ですか? そんな風には見えませんでしたよ。噂通りカッコよかったくらいですけど」
「本当かどうかなんて知らないよ。後聞いた噂では、女性を滅茶苦茶泣かせたとか、隠し子がいるとか、使用人は全員美女とか、名前が悪魔っぽいから悪魔って呼ばれてるってのも聞いたな。ほら、アークって短くすると悪って言えるしな」
「え~何かいっぱい噂あり過ぎじゃないですか? 最後のは何かこじつけ過ぎな気もしますけど……」
「私に言うな。あくまで噂だよ、噂」
そう言ってシーラは私にとりあえず道具や服を元に戻して、最初に面接した部屋に来る様に告げて店の奥へと入って行く。
私は言われた通りに借りた服と道具を元の部屋に戻してから、更衣室で私服に着替えシーラに呼ばれた部屋の前に着き扉をノックする。
すると部屋の中らかシーラが返事をして来たので、私が扉を開けると部屋にはシーラ以外に知らない三人がいた。
「シーラさん、この子が新人のイリナさんですか?」
「へぇ~結構可愛いじゃん」
「おっしゃー! 遂に俺より下の新人来たー!」
「お前ら、勝手にしゃべりだすな。イリナが混乱してるだろ。特にウル、うるさいぞ」
そして皆が黙るとシーラが改めて話し出す。
「今日からうちに入ったから、他の奴らも紹介しようと思ってな。これで全員ではないが、これからは一緒に仕事してもらう事もあるから仲良くな」
「は、はい! え~と、初めまして今日からシーラさんに雇って頂いたイリナ・カディナです。歳は22で、まだメイドとしては半人前なので足らない所はご指導お願いします!」
簡単に自己紹介を済ませ頭を下げると、灰色の髪色をし右もみ上げを三つ編みしている男性が最初に口を開いた。
「僕はデラン・カリバン、デランと呼んでくれ。歳はイリナさんより上の27歳。シーラさんの店は三年目で、長い方だから困った事があったら何でも聞いて。これからよろしくね、イリナさん」
「よろしくお願いします、デランさん」
デランの次に話し出したのは、紺色の綺麗なサラサラ長髪で片耳に羽の形をしたイヤリングをしていた女性だった。
「私はオリック・パリッツ。歳は23だから、ため口でいいよ~。少ない女子同士仲良くやろうね~イリナ」
「よろしく、オリック……さん。ごめんなさい、呼び捨てって慣れてなくて」
「いいって、いいって。慣れてってくれたらそれでいいよ~」
そう優しく言ってくれたオリックの後に、最後に口を開いたのはデランより身長は少し低く、オリックや私と同じくらいの背で右目尻にほくろがある金髪の男子だった。
「俺はウル・オリオン、歳はこの店で一番下だがあんたより先輩だかな。そこだけはしっかり覚えてくれよ」
「な~に16歳のくせに生意気な事言ってるのよウル。執事としても全然見習いだし、イリナより技術的にも下でしょ」
「口を途中で挟まないでよ、オリック! これで俺も晴れて下っ端卒業、あ~何てすがすがしいんだ~」
そこにシーラは座り片足を組み、銜えたばこをした状態で割り込んで来た。
「いや、イリナが入ってもまだお前下っ端だから」
「えっ!? ど、どう言う事ですかシーラさん!」
「そりゃそうだろ、イリナは今日一人で仕事して来たんだからな。まぁ、結果はさっき話した通りだが十分にうちの店ではお前より戦力だ」
「シーラさん、俺だってもうここに来て半年。もう一人で仕事できますって言ってるのにシーラさんが任せてくれないからじゃないですか!」
「いや、失敗ばかりしているお前にはまだ無理だって毎回言ってるだろ」
するとウルとシーラの話し合いがヒートアップしていき、私はどうしていいのか分からずにいるとオリックに私の方に近付いて来た。
「気になくしていいよ~あれ、いつもの事だし」
「ウルも頑張っているのは分かるんだが、変な所で失敗して怒られる事が多くてね」
「そうなんですか」
「そんなドジウルの事よりも、イリナも上の寮に住むんでしょ?」
「寮?」
と、私が首を傾げているとデランは何かを察しシーラの方を向くが、未だにウルの相手をしているのを目にし私の方へと視線を戻して来て代わりに説明をし始めた。
シーラが経営する店の上は、雇われた者であれば希望者は空き部屋を使える事が出来る事になっているらしい。
そのため基本的に雇われた皆は店の上にある寮に住み込みで働いているそうだ。
だが、その分家賃として給金から少し引かれるがそれでも他の派遣使用人を雇っている店ではあり得ない事だとデオンは説明してくれた。
現状の私は、物凄く安く住める場所を借りていたがそこよりも、ここで住み込みで働いた方がいいと思い直ぐに住み込みの希望を伝えた。
そこでシーラのチョップがウルに入った事で、言い合いが終わりデオンが直ぐに住み込みの希望を伝えてくれた。
「そうか。部屋はまだ空いているし、問題ないぞ。細かいルールとかはデオンやオリックに訊いとけ」
「はい、ありがとうございます! これからよろしくお願いします!」
「そうだ、もし今住んでる所から荷物取って来るならこのウルでも使え。これでも男手だし、役に立つだろ」
「ちょっと待って下さいよ! 何で俺が新人の荷物運びの手伝いしなきゃいけないんですか?」
「あれれ~ウルは今日からイリナの先輩なんだよね? だったら、先輩は後輩の面倒を見ないとね~」
「そう言うなら、オリックも手伝ってよ。俺の時は手伝ってくれませんでしたよね?」
「そんな昔の事覚えてませ~ん」
「それじゃ、今日はイリナの歓迎会ってことで外食でも行くか」
「いいですね歓迎会! どこにしますかシーラさん?」
「私、最近人気のあの店がいい! ほら、あの並んでる店!」
「おい、まだ俺の話終わってないんだけど!?」
と、皆は賑やかなに騒ぎ続けた。
その光景を見て、私にはただの雇う人と雇われる側の関係ではなく、友達とかの家族の感覚に近い様に感じた。
今日は失業から始まって命の危機もあったりと最悪だと思ってたけど、シーラさんたちに会えたしアーク様にも会えてし全然嫌な日じゃなくなった。
これから大変かもしれないけど、とても賑やかで楽しい職場だし、頑張っていけそうな気がする。
よ~しここから私の第二のメイド人生スタートだ! エイ・エイ・オー!
「何してるのイリナ? 置いてっちゃうよ~」
「あ、今行きますから、置いてかないでください!」
そうして次の日から、私の派遣使用人としての仕事の日々が始まった。
店の『ジェムストーン』には物凄く仕事が入って来る訳ではないが、毎日2件程の依頼が入るのでその日勤務の者からシーラが選び仕事へと行かせる。
基本的に仕事はソロもしくはペアで行う事があるが、ソロはシーラが認めた者しか行かせないと決まっているらしい。
初日に私がソロで行かされたのは、これまでの経験から仕事内容的に問題と判断した為であった。
あれ以来まだソロ仕事はなく、基本的にはデオンかオリックどちらかとペアを組んで仕事をしている。
たまに、ウルと同じペアになり二人のどちらかに付いて行き仕事をする事もあった。
現在の『ジェムストーン』には私を含め四人しかいないが、本当は後三人いると教えてもらった。
その三人は道具収集マニア、服作製マニア、そして金眼鏡と呼ばれる人たちであった。
シーラ曰く、道具収集マニアと服作製マニアはペアで別国に仕事に行っている為不在で、金眼鏡は休暇申請を残して何処かに行っているらしい。
三人とも長期不在で直ぐに会える事はないが、仕事に対しては凄く優秀らしいが、変な趣味や思考などあるのでそれだけで判断しない様にとシーラには言われた。
そうして日々仕事をしながら皆と過ごして、一か月が経過した。
仕事を共にしながら、皆の性格が分かる様になっていた。
デランは今『ジェムストーン』の中で一番の年長であるが、面倒見もよく他の二人からはお兄さん的に頼られシーラからの信頼も厚い人物だ。
執事としてもお客様を思っての細かい仕事などでリピーターも多く、現在の稼ぎ頭である。
オリックは、私以外のメイドであり仕事は少しムラがあったりするが、すぐ人の懐に入る会話術が凄く新規のお客さんからの満足度が高い。
特に男性客からの指名依頼が多く、固定客を作りつつある。
最後にウルは、まだ見習いであるが16歳にしてはもう働いているという点では16歳の時に働いていなかった私からしたら凄い点である。
仕事に関しては、以前デランたちが言っていたが頑張ってはいるが、それが空回りしたりちょっと不器用な所が悪く出てしまう事があり失敗している。
だが、お客様の中にはそれを寛大に許して応援してくれる人もおりウルもそれに応えようと頑張っており、私もそんな頑張っている姿を応援している一人である。
「今日の依頼は一件だけだが、気難しい相手だからデランだけで行ってくれ。それとオリック、悪いが今日は店番してくれるか。行く所があるからな。で、残りは待機で」
シーラが本日の指示を出し終えるとバックを机に乗せ外出の準備を始め、デランは依頼書を受けより準備室へと向かった。
オリックはシーラに声を掛け、店番の話をしていた。
残った私とウルは、ひとまず上の寮に戻ろうかと私が声を掛けて二人で二階へと上がった。
「待機って言われたけど、どうすればいいんだろう? ウル知ってる?」
「そうか、イリナは待機初めてか。言葉の通り、待ってるだけだよ。今日の依頼が入れば行く事になるけど、急にそんな仕事は入る事ないし休み見たいなもん」
「へぇ~そうなんだ」
「しかもシーラさんが外出して、オリックが店番だし、シーラさんも仕事は来ないと思っているんだと思うよ」
「そう言えば、シーラさんどこ行くんだろうね? 何も言わなかったよね」
「そう言う時は大抵、新規のお客様との交渉とか派遣使用人協会からの呼び出しのどっちかだよ」
派遣使用人協会と言うのは、簡単に言うと派遣使用人を商売としている人たちを守る規律を作ったり、規律違反者を取り締まったりする組織だ。
シーラ曰く面倒な奴ららしい。
そんな会話をして、二階のリビングに置いてある机の周囲に私たちは座った。
するとそこへオリックが駆け上がった来た。
「ねぇ、特に予定もないらな二人で買い物行って来てよ」
「買い物?」
「うん。ほら、食料が少なくなって来てるしその分買いたして欲しんだよね~。一応デランにも聞いてリストは作ったから、行って来てくれる?」
「分かったわ。ウルも行くでしょ」
「暇だし行くよ」
私はオリックから買い物リストを受け取ると、オリックは「よろしくね~」と言って一階へと降りて行った。
それから私とウルは仕度を整えてから、買い物へと出かけた。
買い物リストはまぁまぁの量であったが、二人で来ていたのでそこまで大変ではなかった。
お店自体も込み合う前の時間に到着し、スムーズに買い物も出来たので思っていたよりすんなりと買い物は完了し、互いに荷物を持って大通りを歩いていた。
「大丈夫か、イリナ? もう一袋俺が持つぞ」
「いや、大丈夫。今筋肉トレーニングしてるし、それの一環にもなると思うし」
「もう腕がプルプルしてるじゃねぇかよ。ほら、俺の方が先輩なんだら貸せって」
そう言ってウルは私の持っていた一袋を奪い取り、前を歩いて行く。
「ちょっとウル、勝手に奪わないでよ。持てるって言ってるじゃん! それに先輩って言うなら、私の方が人生の先輩なんだよ」
「歳でいえばだろ? 何て言うか、イリナは年上って感じがしないんだよね。同い年みないな?」
「ねぇ、それって馬鹿にしてるって事? 私ウルより6つは上なんですけど? 大人の女性なんですけど?」
「そう言う所だよ。俺に張り合う時点で、同レベルって事」
「それどう言う事よ、ウル」
私はウルと変な言い合いをしながら、歩き続けたが途中で互いに疲れてしまい休憩する事にした。
木陰のベンチに私たちは座り、荷物もベンチの空いているスペースに置き一息ついた。
それから私は近くの飲み物屋が目に止まり、ウルに「ちょっと待ってて」と言って一度ベンチを離れると、ウルは軽く首を傾げていた。
そして店で飲み物を二つ買って、休んでいるウルに一つ渡した。
「ウルも喉渇いてるでしょ?」
「そうだけど、イリナが買って来たんだから自分で飲めばいいだろ」
「いいから、ほら受け取る。私二つも飲めないし、ウルの為に買って来たんだからほら」
私が強引にウルに渡すと、渋々ウルは受取り「ありがとう」と呟き飲み物を口にした。
そうして冷たい飲み物を飲みながら休憩していると、一枚の新聞が風に乗って私の足に引っかかった。
私はそれを取り中身を読むと、そこには第三騎士団の活躍について特集された内容であり、騎士団長のアークもそこに写っていたのだ。
目を輝かせながらその新聞を読んでいると、ウルは何を読んでいるのかと思い覗き込んで来た。
「ねぇ、ウルは第三騎士団長の事知ってる?」
「……あぁ、知ってるよ」
そこで突然声のトーンが下がったウルが少し気になったが、私は続けて問いかけた。
「凄いよね~アーク様に私も命の危機を救ってもらったんだ。それと仕事頑張ってくださいってまで言われちゃってさ~もう、最高なんだよね」
「ふ~ん、そいつが好きなんだイリナは。俺は好きくないけど、そいつ」
「ま、まぁ好きっちゃ好きだけど……ていうか、ウルはどうして嫌いなの? 凄い人なのに」
「何か気取ってるし、かっこつけすぎだし、個人的に気に入らないだけ」
「それって、嫉妬的な?」
「んなわけねぇだろ。ちげぇわ、あいつに嫉妬なんかするかよ。嫌いなだけだよ」
「え~いい人なのに。ほら、よく見たらいい人だよ、ほらほら」
「やめろって」
私はウルにアークに対する気持ちを変えようと、そこでアークの凄さを語ったがただ嫌がられて終わるのだった。
その後、私たちは店へと帰り買った物を倉庫などに入れ終わり、その日は仕事も入る事無く待機しながらオリックと話したり、店番をしてみたりして一日が終わるのだった。
そして次の日、この日は仕事が三件あった。
一件はオリック指名で、二件目はデオンとウルペアでの仕事となり、三件目は私ソロでの仕事と言う割り振りになった。
シーラからは新規のお客様と聞き、仕事内容も屋敷の掃除や食事の仕事などお客様のサポートがメインであった。
「イリナ、今回のお客様はあんたの仕事ぶりで継続するかどうか決めるらしいから、頑張って来な」
「え、それって凄く重要じゃないですか。私よりもデランとかオリックの方がいいんじゃ」
「デランの方は執事を指定しているし、オリックも指名だから、お前なんだよ。それに仕方なくじゃなくて、お前なら出来ると安心して指名してるんだ」
「シーラさん」
「分かったら、さっさと準備して行って来い」
私はシーラに背中を押してもらい、直ぐに準備を整えて依頼してくれたお客様の屋敷へと向かった。
指定された屋敷前に到着すると、そこは物凄い大豪邸ではなく、こじんまりしていて落ち着ける屋敷であった。
場所も住宅街の奥にあり新築というより、少し古びていい味を出している屋敷と言う感じであった。
「二階建てか、感じて気は家族で住みそうだけどどうなんだろ? 依頼者の情報あまり書いてないんだよね」
私は門が閉まっている屋敷の前に立ち、中を覗くが明りもついておらず雰囲気的に誰もいない感じであった。
呼びベルもなく、少し声を張って呼び掛けたが返事はなかった。
んん~? あれ? 場所間違えた? いや、でも地図はここで合ってるはずなんだけど……
私は依頼書に書かれた地図をにらめっこしていると、そこへ誰かやって来て声を掛けて来た。
「もしかして、今日依頼を出した派遣使用人かい?」
「っ! はい。『ジェムストーン』からやって来ました、イリナ・カディナと申します」
咄嗟に私は声を掛けて来た依頼人と思われるお客様に挨拶をした。
「イリナ・カディナ……もしかして、貴方あの時の派遣使用人ですか?」
「え?」
そこで私が顔を上げて、目の前にいた人物に私は目を疑った。
声を掛けて来ていたのは、王国軍第三騎士団長のアーク・クォークであったのだ。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
「先程は大変失礼いたしました、アーク様」
「気にしなくていいよ。にしても、まさか君が派遣使用人として来るとはね。こんな偶然あるんだね」
アークは私がいれた紅茶を飲みながら優しく笑う。
あの後、私はアークにひとまず屋敷の中で話そうと言われ中へと招かれた。
屋敷内には、運び込まれた荷物がまだ片付いておらず、ひとまず梱包されたままあちこちに置かれていた。
そこでアークが事情を話し始めた。
どうやら、元々別の屋敷に住んでいたのだが、色々と面倒事があるらしく新しく屋敷を購入したらしい。
さすがは騎士団長様、さらっと屋敷を購入するあたりが凄すぎる。
しかも元の屋敷はそのままで、そちらは元々雇っていた使用人たちに任せて出て来ているらしい。
え、どう言う事って思うよね。私も同じ感覚。
さすがにその辺の個人的な事情に踏み込むような奴ではないので、そこは流し仕事についての話を私は進めた。
「ひとまず今日は、家具などの包装を解いてくれるかい? 運ぶのは私の方でやるので、イリナさんは食器などキッチン周りを担当してくれるかい?」
「分かりました、ご主人様」
「あーそれと、呼び方はご主人様でなくていいよ。アークと気軽に呼んでくれ」
「い、いい、いえ、そんな事出来ませんよ! 騎士団長様を呼び捨てなんて」
「では、イリナさんが呼びやすいように言ってくれ。ご主人様はむず痒くてね」
「……分かりました、お客様がそうおっしゃるのであれば。アーク様と呼ばせて頂きます」
「まぁ、まだそっちの方がいいね。それじゃ、今日は頼むよイリナさん」
「はい、お任せください」
それから、私はアークに言われた通りの仕事をこなしキッチンを完璧に整え、屋敷の掃除もテキパキと行った。
すると時間もあっという間に過ぎ、夕刻となっていた。
この日で全ての荷物を片付けられた訳ではなかったが、アークは私の働きに少し驚いていた。
「まさか、ここまで綺麗になると思ってなかったよ。イリナさんは凄いね」
「いえいえ、まだまだです」
「そんなに謙遜しなくてもいいのに。今日のイリナさんの仕事ぶりを見て決めたよ。明日からも継続的にお願いしてもいいかな?」
「あ、はい! 継続と言う事でいいんですか?」
「うん。出来ればイリナさんに毎日来て欲しいんだけど、どうかな?」
「わ、私ですか!?」
まさかの指名に私は驚き、きょろきょろとしてしまう。
仕事中は出来るだけアークの事を意識せずにやれていたが、好意を寄せている人から感謝されるだけでなく、急にそんな事を言われて完全に動揺してしまう。
「ひひひ、ひと、ひとまず、この継続書類にサインしていただいていいですか」
アークは私が震えながら出した書類を受け取ると、中身を読み始めた。
やばいやばいやばい! 心臓が飛び出そう! 継続出来たのは嬉しいし、シーラさんも喜ぶけど、それよりも私を指名ってどう言う事!? 嬉しいけど、これから毎日アーク様と会ってサポートをするって事でしょ。
それを想像するだけでやばいんだけどー!
するとアークは書類にサインし終えて私に渡して来た。
「おあ、お預かりします。明日の件に関しましては、店長に報告した後また連絡があると思いますので、それをお待ちください」
「分かりました、連絡を待っています。イリナさん、今日のお仕事お疲れ様でした。また、来る祭はよろしくお願いしますね」
「はい! これからも『ジェムストーン』をよろしくお願い致します。では、今日はこれにて失礼いたします。お疲れ様でした」
私は焦りながらもアークに挨拶した後、早歩きで屋敷から出て行きアークから見えなくなった所で店へと急いで戻った。
「イリナさんか……派遣使用人も悪くないね。うちの使用人と同レベルの仕事が出来るのは凄いな。にしても、まさかあの時助けた子だったとはね……」
その後私はシーラに継続の書類を出すとシーラは直ぐにアークに連絡し、要望などを訊き定期契約を結ぶ。
そして私はアークから指名を受け、明日から毎日屋敷に行き掃除や荷物整理に食事などを行う事が正式に決定したのだった。
次の日から、私は朝から夕方までアークの屋敷へと行き、ドキドキしながらも仕事を毎日こなした。
そんな日々が一か月続いた頃には、そこまで緊張する事無く日々アークと接していた。
「それでは、後の事は頼むよイリナさん」
「はい、お任せくださいアーク様」
アークはそう告げると、いつもより遅く屋敷を出て行った。
基本的にアークは朝早く屋敷を出て行く為、私が屋敷に来るときにたまにすれ違うくらいだが、たまに遅番なのか私が屋敷に来てから仕事へ向かう事がある。
そして日中は屋敷には私だけであり、掃除や家事などを基本的にこなし夕方に帰宅と言う流れだ。
夕飯を作る時もあれば、作らずにいいと言う日もあるのでその日のアークからの指示に合わせている。
週五日で屋敷に通い、たまにアークが休みの日には共に屋敷で食事をしたりと、アークとのコミュニケーションを取りつつ信頼もされた日々を過ごした。
そうして今日もいつも通りに、屋敷の掃除をし洗濯物を干したり、散らばった本などを整理しているとあっという間に時間が過ぎて行った。
「さてと、今日は後夕飯だけ作っておしまいっと。にしても、アーク様って意外と片付け苦手なんだな。特に書斎がいつも酷い」
初めて見せられた時は驚いたが、それからアークから書斎も掃除する様に言われなるべく分かりやすいように日々片付けている。
そんな事を思いながら、私は二階から一階のキッチンへと向かった。
既に食材は昼のうちに買いに行き、準備は出来ているので早速調理を始めていると、屋敷のベルが鳴る。
私は急いで火を止め、玄関へと向かい扉を開けるとそこに居たのはアークであった。
「アーク様?」
「良かった、まだいるね。今日は仕事が早く終わってね、急いで帰って来たんだ」
「そうだったんですね。でも、それならゆっくりと帰宅されても良かったのでは?」
「それでとイリナさんが帰ってしまうだろ。今日は久々に一緒に夕飯でもどうかと思ってね」
「えっ」
「ダメ、かな?」
少し困り顔で私の方を覗き込んで来たアークに、私は耳が赤くなってしまい咄嗟に両手を顔の前に持ってきた。
「ででで、ですが、アーク様もお疲れだと思いますし私と一緒に食事するより一人の方がよろしいんじゃないですか?」
「一人で食事は寂しくてね、強制はしないけどイリナさんが嫌では、また一緒に食事をしてくれないかい?」
「っっ! ……わ、分かりました。まだ勤務時間内ですし……わ、私も嫌ではないので」
私は少し顔を俯けながら、最後の方はぼそぼそとアークに聞こえない様に話した。
「ありがとう、イリナさん。それじゃ私も、夕飯作り手伝うよ。って言っても私の屋敷だから、私がやるのが普通なんだけどね」
「いいえ、使用人を雇っているならばこういうのも使用人の役目です。アーク様は座ってくつろいで待っていてください」
「いやいや、そう言う訳に行かないよ」
「いいえ! ダメです。アーク様は椅子に座ってどすっと待っていて下さい。それが屋敷の主人と言うものです」
「それはイメージが偏り過ぎてないかい、イリナさん?」
そんな会話をしながら、何とかアークには座ってもらい私だけで夕飯を完成させ、机の上に並べた。
シチューをメインとした料理をアークも美味しそうに食べてくれ、私もアークに食べる様に進められ椅子に座り自分の料理を食べ始めた。
その後料理も食べ終わり、食器を片付け食後の紅茶を出す。
「イリナさんは料理も上手いね。私にはない才能だよ」
「何を言ってるんですかアーク様。アーク様は王国を護っていて、私なんかより何倍も凄いですよ」
「私はそんなに凄くないよ。どちらかと言えば、嫌われている存在さ。部下からも、あまりよく思われてないし酷い事をした事もあるんだよ」
突然アークがそのような事を言い出し、私は驚いてしまうが、誰にだって見られたくない一面や弱気になる事もあると理解していたので、否定する様な言葉ではなく共感する言葉を掛けた。
「……そうなんですね。アーク様も完璧超人ではないという事ですね。でも、それで私はいいと思います」
「え?」
「あ、嫌われたままがとかじゃないですよ。自分の事を理解しつつ、アーク様は王国を護るために動き、結果王国は平和なのですから! それに私はアーク様の事嫌いではありませんので、少なくとも一人は好きな人がいると分かっていいではありませんか」
「あははは。そんな風に言われたのは初めてだよ。そもそも弱音をつい吐いてしまうとは、私もまだまだだね。でも、イリナさんといると何でか気持ちが緩んでしまうんだよね」
「そ、それって私がアーク様をダメにしてるって事ですか!?」
「ぷっ、あははは! そうかもしれないね」
「それは一大事ですよ! どどど、どうしましょう」
「冗談だよ。私はイリナさんが居てくれて助かってるよ。いなくなると、屋敷が汚くなってしまうから困るよ」
「もう、からかわないでくださいよアーク様」
そして楽しく会話をしていたが、勤務時間が終了に迫っていたので私は帰宅の準備をし、アークに挨拶をし屋敷を後にするがアークに呼び止められる。
「この辺は街灯も少ないし、途中まで私が送って行こうか?」
「いえ、そこまで気にしていただかなくても大丈夫ですよ。こう見えても、私強いですから」
そう答えるとアークは優しく笑い「そうか」と言って、見送ってくれた。
私は改めてアークに一礼してからゆっくりと歩いて店へと向かった。
次の日、私が店を出ようとした時にシーラに呼び止められる。
「何ですか、シーラさん?」
「悪いねイリナ。ちょっと話があるんだ、いいかい?」
そう言われて私は一度店の奥へと入って行き、部屋へと入るとそこにはウルが待っていた。
「ウル?」
「おうイリナ」
「何してるの? 今日オリックとペアの仕事じゃなかった?」
私がウルに訊ねると、シーラが椅子に座り足を組み話し出した。
「その話なんだが、元々二人でも問題ないと言われていたんだが、さっき連絡があってな。今日は一人だけでいいって言われてな、オリックだけ向かわせたんだ」
「そうなんですか。それじゃ、ウルは待機?」
「それも考えたんだが、イリナあんたあの客の所もう一か月は行って仕事も慣れて来ただろ」
あの客って、アーク様だよね。
私はそう思い頷くと、シーラはビシッと指をして来た。
「と言う訳で、あんたの所に今日だけウルを付ける」
「えっ!?」
「はぁ!?」
何故か私だけでなくウルも驚きの声を上げていた。
「ちょちょっと、待って下さいよシーラさん。俺がイリナのお付きですか?」
「仕方ないだろ。待機してるより、仕事に行った方がお前もいいだろ。つうわけで、よろしくなイリナ」
「よろしくと言われましても、どうすれば」
「とりあえずウルにいつもやってる仕事の半分でも割り振ってやればいいよ。こいつも、最近は失敗も少ないし大丈夫だろ」
「お客様にはどう伝えれば? あ~私の方から連絡しておくから気にするな。あの客なら大丈夫だろ」
確かにアーク様なら、断る事はないと思うけど。
基本的にお客様の情報は店内でも口に出す事はない。
いつ誰に聞かれているか分からない為である。
それからウルは渋々私のペアとして納得し、一緒に屋敷へと向かった。
「ここがいつも来てるお客様の所か?」
「うん、お客様には私から紹介するから」
「あぁ……はぁ~俺の方が先輩なのに、何かむなしい」
「そう落ち込まないでよ。ウルだって、最近調子いいしソロの仕事も認めてもらえるって」
「そうだと願ってるよ。おっし! 切り替えて仕事に集中だ! イリナ、今日だけはお前が先輩だ。俺に何でも指示出してくれよ」
仕事モードに入ったウルに私は頷き、屋敷の門を預かっている鍵で開けようとすると、屋敷からタイミングよくアークが現れた。
私がアークに気付くと、相手も私たちの存在に気付き向かって来て門を開けてくれた。
「おはよう、イリナさん。話は聞いているよ、そっちがペアの人だね」
「はい、アーク様。紹介します、こちらはウル・オリオンです」
そう私が紹介すると、アーク様の表情が急に曇りウルの方へと視線を向けた。
一方でウルは、何故かアークの事を睨んでいた。
「ちょっとウル! 何してるの!?」
「イリナ、今まで行っていた客ってこいつか?」
「口! 口悪いよウル! ごめんなさいアーク様! ウルはこんな子じゃないんですよ」
するとアークはウルから私の方へと視線を向けてくれいつもの様に優しい顔で返事をしてきた。
「えぇ、知ってますよ」
「……え? どう言う事ですか?」
「おい、うちのイリナにいい顔すんなよ!」
「いい顔? これはいつも通りの対応ですけど?」
「嘘付くなよ! 本当に笑った事なんてねぇくせに!」
「……はぁ~お前は本当に昔から変わってないな、ウル」
私は目の前で急にアークに噛みつくウルに動揺し、どうしていいか分からずにいると、アークがとりあえず屋敷の中に話すように提案して来た。
だが、ウルはその案には乗らずにこの場で話し続けようとするが、私は周囲からの目もあると思い強引にウルの腕を引っ張り屋敷の中へと連れて行った。
そして屋敷の中へと入ると、ウルは小さく舌打ちをした。
「どうしたのよウル? 急にお客様にあんな口をきくなんて」
ウルは私の問いに直ぐに答えず、アークの方を見てから口を開いた。
「……前に一度話しただろ、俺あいつが嫌いなんだよ。これは仕事でも無理だ」
「そう言えばそんな事言ってた……でも、嫌いってだけで別に嫌がらせされた訳でもないのに、あの態度はどうなのよ?」
「っ……」
そこでウルは黙ってしまい何も言わなくなり、私はひとまずアークに謝らなくてはと思い、直ぐに頭を下げるがアークは何故か怒っておらず顔を上げるように言ってくれた。
「こうなってしまった以上話すしかないな。ウル、いいな?」
訊ねられたウルは何も返事をせずにそっぽを向き、アークは小さくため息をつく。
「アーク様はウルと知り合いなのですか?」
「イリナさん、それを話す前に一つ約束してくれますか? これから話す事は絶対に誰にも言わないという事を」
「誰にもですか?」
「えぇ、店長のシーラさんにもです。約束できますか?」
そこで私は考えてから返事をした。
「申し訳ありません。それは約束できないと思いますので、話さないでもらえますか?」
私の返事にウルもアークも驚いていると、アークはその理由を訊ねて来たので答えた。
「そう言う話は聞いた時点で、約束を守っていても無意識に出てしまったりすると思うのです。持論ですが。なので、話したくない事や知られたくない事は言わなくて結構です」
「イリナは、気にならないのかよ?」
「気にならない訳じゃないけど、知られたくないと思う話を口約束して聞くのは、使用人としてダメだと思うの。ただ、それだけ」
「なんだよそれ……」
「なるほど。イリナさんの気持ちは分かりました」
するとアークはそのままキッチンの方へと向かう。
「イリナさん、とりあえず紅茶を三つ用意してくれますか?」
「あ、はい。でも、アーク様仕事は良いのですか?」
「はい、今日も遅番なので問題ありません。それとウルも、派遣使用人ならイリナさんを手伝いなさい」
「……言われなくてもやりますよ」
その後異様な雰囲気の中、私はウルにカップを出してもらい紅茶を注いだ。
そして私がアーク様の前に配膳し、残り二つを机に置き私とウルは立っていると、アークに座る様に言われ椅子に座った。
「あの……アーク様、これはどう言った状況ですか?」
「朝からごちゃごちゃとしてしまったから、一度落ち着いてもらおうと思ってね」
「は、はぁ……」
アークはそのまま紅茶を優雅に飲み続けたが、私とウルは一切紅茶には手を付けずに黙って待ち続けた。
「飲まないのかい?」
「飲むわけないだろ。こっちはあんたの使用人として来てるんだ」
「それもそうだね。それじゃ少し昔話でもしようか、ウル」
そう言われたウルは、嫌な顔をしたがアークの方へと視線を向けた。
するとアークは私に急に話し掛けて来た。
「イリナさん。君の意思に反してしまう事を、先に謝らせて欲しい。だけど、貴方なら信頼できるから聞いて欲しい」
「何をですか?」
「ウル・オリオンが、私の隠し子であるという事を」
「えっ」
私は自分の耳を疑ったと同時に、完全に言葉を失った。
私が好きなアーク様に、隠し子? しかも、それがウル? 何? 何が起きているの? 夢?
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
――遡る事4年前。
アークが23歳でまだ騎士団長ではない頃に、以前勝手に婚約されかけた相手が家を訊ねて来た。
その相手はアークの子を身ごもっていると訴えて来たが、アークはその女性とは一度顔を合わせただけで、それ以来会ってはいなかった。
アークの両親も最初は戸惑ったが、直ぐにアークが正しいと分かりその女性は追い返された。
その女性は以前両親が別国の貴族だと騙されて、洗脳され婚約しかけた相手であった。
使用人たちや騎士団がそれを防ぎ、犯人たちは捕縛され今でも牢屋の中であるが、婚約相手役の女性も騙されていた身だと分かり釈放されていた。
しかし、今回嘘をついてまで屋敷にやって来た事で、再び騎士団が逮捕に向けて動き出した。
それから数日後、再びその女性がやって来たが、この時女性だけでなく何故か一人のボロボロの子供を引き連れていたのだった。
すると女性は錯乱した様に、その子供がアークとの子供だと主張し始め、自分たちを養って欲しいや見捨てるのかと言った主張を屋敷前で始めたのだ。
その後、駆けつけて来た騎士団に気付き女性は子供を引き連れ逃走し、後に捕縛されるがその時にはもう子供は一緒ではなかった。
「何と言うか……アーク様も大変な人生を送られているのですね」
私はアークの過去を聞き、現在の自分と同い年くらいにそんな経験をしたのかと思うと、少しゾッとした。
生まれる家によって、環境も違うし裕福な家庭だからと言って必ずしも幸せな日々ではないのだと実感した。
「別にそいつにとっては、大変な人生でもないよイリナ」
「いやいや、そんな事ないでしょウル」
「そいつはただの偽善者だよ。俺を拾うくらいだしな」
「拾うって、え? 隠し子なんじゃないの?」
「イリナ、こいつはどんな好条件の見合いも断るんだぞ。女性に興味がないんだよ。現に、今まで浮いた話だってスクープされやしない。優しい顔で接して、いいイメージを持たれているが内心じゃなんとも思ってないんだよ」
ウルの言葉にアークは何も反論せずに聞いていた。
「表と裏がある人間なんだよ、そいつは。騎士の時は表の顔なんてほとんどしないから、変な噂が広まるんだよ。『悪魔の騎士』、女泣かせ、隠し子までいるってな!」
ウルがアークと初めて出会ったのは、何も分からず母親と思われる女性に手を引かれてアークの屋敷に連れて行かれた時だ。
この時母親が何かを主張しているのは分かったが、何を言っているのかはよく分からずウルはただただその場に立ち尽くしていたのだった。
その後、騎士団ややって来た事に気付いた母親はウルの手を引っ張って逃げ出した。
そのまま隠れる様に裏路地などを通り、やり過ごしていたが母親は狂った様に爪を噛みながら「どうして」と呟き、髪もかきむしっていた。
ウルはただただ母親に従う事しかしなかった。
それは生きる為である。
子供の自分が母親の元を離れたとしても、生きていける環境ではないと理解していたからだ。
だから、母親にどれだけ罵倒されようとも、暴力を振るわれようとも、道具にされようとも反論せずに従い続けた。
全ては自分が生きる為に。
その頃はそうしているれば何とか生きていられたので、そうするのが一番だと思い込んでいたともいえる。
だが、結果的には騎士団から母親が逃げるのに邪魔だと言われ、捨てられて行かれたのだ。
その後どしゃ降りの雨の中、誰もいない道を歩いている時に傘をさして現れたのが、アークであった。
アークはウルの目を見て「生きたいのなら手を取れと」告げた。
そしてウルは、生きる為にアークの手を取るのだった。
「それで、ウルはアーク様の家で暮らすようになったのね」
「あの時の俺は、生きる為に手をとった。あの頃はあんたなりに何か考えて俺を拾ってくれたのかと思ったよ。だけど、結局は何とも思ってなかった。ちょっとした暇つぶし程度だったんだろ? 自分から、うんざりしていた親や使用人の目を俺に向けさせて、少しでも自由になろうと思ったんじゃないのか」
「……お前にそう見えていたら、そうなんだろうな」
「何だよその言い方! 俺が間違ってるって言うのかよ!」
「ちょっとウル、それにアーク様も」
再び口喧嘩になりそうな所を、私は仲裁しようと間に入ろうとした時だった、玄関の扉がノックされた。
直ぐに私は立ち上がり、玄関へと向かい扉を開けるとそこには第三騎士団の兵士が二人立っていた。
「アーク団長はいらっしゃいますか?」
「アーク様ですか?」
そう言われて私がキッチンの方を見ると、声で気付いたのかアークも立ち上がりこちらに向かって来た。
「すまない、もう時間だったか?」
「はい。では、門の前で待っていますので」
一人の兵士がそう答えると、そのまま兵士たちは一礼し門の方へと向かって行く。
「申し訳ないがイリナさん、迎えが来てしまったので私はこのまま出てしまうので、屋敷の事お任せてしてもいいですか?」
「は、はい。それはいつもの事なので問題ありません」
「結果的にごたごたに巻き込んでしまい、本当に申し訳ありません。今日の件はまた別途必ずお詫びはしますので。それと今日は遅くなりますので、夕飯は作らなくて結構です」
「分かりました」
「では、よろしくお願いします」
アークはそのまま屋敷から出て行った。
私はしっかりとアークを一礼しながら見送った後、キッチンへと向かった。
そこではウルが、申し訳なさそうな顔をして立っていた。
「イリナ……その……」
「はぁ~とりあえず仕事を始めようか。話は全部終わってからでいいから。ほら、やる事意外とあるから、テキパキ行くよ」
「……はい」
それからは私の指示の下、ウルはミスする事無く仕事をこなし時刻は十六時前を指し示していた。
仕事もウルのお陰でいつもより早く進んでいたので、少し長めの休みを取る事にした。
「お疲れ、ウル。今日もミスなく出来てるじゃん」
「あぁ、ありがとう。……その朝は悪かったよ、イリナ。感情的になったこと」
「そうね、あれは驚いたよ。でもまさかの展開だったよ。未だに信じられないもんね」
「戸籍上はって話だ。結局はほとんどあいつの屋敷の使用人たちに面倒を見てもらってた」
ウルは15歳で独り立ちする為に屋敷を出て、仕事を探し始め色々と試した結果今のシーラの店に辿り着いたのだと話してくれた。
アークには拾ってもらったことは感謝しているが、それ以外に関しては感謝は特にしていないらしい。
私は両者の気持ちを知っている訳でも、事情を全てしている訳でもないので「そっか」としか言う事しか出来なかった。
「俺はあいつの事好きじゃないけど、あいつに救われたって人もいるのも知ってる。でも、表ではあんなにいいようにふるまっているのに、裏では何とも思ってないって言うのが俺の中で許せないんだよ。勝手なことかもしれないけど、その表面だけよくしてればいいって感じ思えてさ」
「……確かにそうかもしれないね」
「そうだろ! イリナもそう思うだろ?」
そこで私はふとアークが弱音を吐いていた時を思い出した。
「でも、アーク様も完璧人間じゃないし、そんな冷たい人じゃないと私は思うよ。一か月ちょっと使用人している感覚だけどね」
「完璧人間じゃない、か」
「そう。見たでしょ、あの書斎とか、服も綺麗にたためてない所とか」
するとウルは今日初めてアークだけしか住んでいない屋敷を思い返した。
「(確かにイリナの言う通り、部屋の雰囲気とかも俺が知っているあいつじゃない。俺の知ってるあいつは何でも完璧にこなし、結果の為には冷徹な事も選択する性格なはず。なのに、それが全く感じられなかったし、最初に会った時も何か作っている感じではなかった)」
「ウルにも思う所はあるんだろうけど、同じ様にアーク様も何か思う所があるんだと思うよ。ましてや、ちょっとややこしい関係性の時は、特にね」
「何か経験者って感じで言うな、イリナ」
「まぁ、私もお父さんといっぱい喧嘩して、家飛び出て来た感じだし。全く似てはないけど、よく話し合えれば関係性も変わるのかな~って思っただけ」
「何だよそれ~」
「色々言ったけど、別にどうしろって私が言いたい訳じゃないよ。私もお父さんとは喧嘩中だし、人の事なんて言えないよ。だから、ウルが思った様にすればいいと思うよ。思い悩むのも良し、スッパリ忘れるのも良しってね。とりあえず私的には、気まずい雰囲気にならなければいいよ」
「あはは、それ自分勝手じゃないかイリナ?」
「そ、そうかな?」
ウルと楽し気に休憩時間を過ごした後、私は気持ちを切り替えて立ち上がりウルに手を差し伸べた。
その手を見てウルは、手を取ってくれたので私が引き上げた時だった。
突然屋敷の窓が割れだし、何かがいくつも放り込まれた。
「何!?」
直後、屋敷の中が一瞬で煙で覆われてしまう。
私とウルは煙を吸ってしまい咽てしまうが、直ぐに姿勢を低くし服の一部で口元を抑えた。
ウルは未だに咽ていたので、私はひとまず何が起きているか把握しようと動こうとしたがウルに捕まれた。
「どこに行くんだ、イリナ。じっとしてた方がいい」
苦しそうに言って来るウルに私は、ウルの手を取って話した。
「何が起きているか把握しないと。もし火事なら一大事だし、とりあえず近くのキッチンに行ってくる」
「イリナ待っ、ごほぉごほぉ」
ウルは手を再び伸ばしたが、そこでまた煙を吸ってしまい咽てしまう。
私はそんな事とは知らずに姿勢を低くしたまま、キッチンの方へと向かうがその途中で、突然玄関の扉が目の前を通過して行った。
「さっさと見つけろ」
「分かってる」
次は何!? 誰か入って来た?
煙のお陰かまだ私の事には気付いてないので、私は近くの物陰に隠れようとしてが見つかってしまう。
「あーいたいた。こいつに違いない」
「なら、さっさと回収しろ。奴が帰ってきたら面倒だ」
「あいよ」
そう言って顔を隠した人物が私の髪を掴み上へと引っ張り上げる。
「いたいっ! 離して! 誰なのよ!」
「うるせぇ奴だな」
直後私の口元に何かを当てられ、声が籠っていたが叫び続けた。
が、徐々に眠気に襲われてしまいそこで意識を失ってしまう。
「何してる撤収だ」
「はいはい」
「誰だ? 誰かいるのか?」
そこへやって来たのはウルであった。
だが、視界が未だに悪く人影らしき姿しかウルには見えていなかった。
「おい、大丈夫なのか? 返事をしてくれ」
「おいどういう事だ? もう一人いるぞ」
「あれ? おっかしいな。情報だと一人って話だったけど」
「どんすんだ?」 連れて行くのか?」
「いや、男だしどうせ派遣使用人とかだろ。蹴っ飛ばして気絶でもさせておくよ」
そう一人が答えると、ウルに近付いて行き勢いよくウルを蹴とばした。
更には魔法を発動し吹っ飛んでいったウルの方を爆発させた。
「おい! やり過ぎだ」
「やっべ。つい勢いでやっちまった」
そう言って、屋敷に侵入してきた奴らはイリナを抱えて立ち去って行くのだった。
それから一時間後に、住民の通報により騎士団がやって来ると直ぐに騎士団長へと連絡をするのだった。
そしてアークがそれを聞き屋敷に戻って来たのは、更に三十分後であった。
「……っう、ここは」
「目を覚ましたか、ウル」
「何で……あんたが……」
ウルが目を覚ますと、そこにはアークが覗き込む体勢をとっていた。
「目を覚ました直後で悪いが、何があったか教えてくれ。イリナさんはどうした」
「っ! そうだ、イリナはいなのか?」
そこで急にウルは起き上がるが、猛烈な腹部の痛みにベットの上で縮こまる。
その様子からアークは察したのか、小さく呟く。
「襲撃、その反応からイリナは攫われたか。それとも人質か?」
「ぐっぅ……何言ってんだよ、あんたは」
「お前には関係ない」
「っ! 関係ある! イリナは俺の後輩で、大切な店の一人だ!」
それを聞きアークは少し黙ってたが、周囲に他の兵もいたため小さくため息をつき口を開いた。
「先月捕まえた奴が逃げ出し、私の屋敷を突き止めて逆恨みで襲撃して来たんだ。話は以上だ、怪我人は黙って寝ていろ」
アークはそのままウルの元から離れて行こうとするが、ウルはアークのマントを掴んだ。
「離せ」
「嫌だ」
「嫌がらせなら、後にしろ」
「嫌がらせじゃない」
「攫われたイリナさんの命がかかってるんだ! 早く離せ!」
突然の感情的な怒鳴り声に、周囲の兵士たちは驚くがウルはうっすらと笑っていた。
「あんたイリナを雇ってから変わったな」
「何の話だ? お前にかまってる暇はない」
「昔だったら、誰が誘拐されようが危険が迫ろうが、さっきみたいに感情的になる事はなかった」
「っ」
「あんたにもそう言う感情があったんだな。そうでなきゃ、一か月も継続でイリナを指名し続けないもんな」
「何がいいたい?」
そこでウルはギュッとアークのマントを引っ張り、自分の方へと引き寄せた。
「救出に行くなら、俺も連れてけ」
「何を言っているんだ、お前は」
「連れて行かねぇならここで、俺がお前の隠し子だってバラす」
まさかのウルの発言に、アークは顔を歪めた。
「どうする? 俺は本気だぜ。信用されないと思っているかもしれないが、昔の写真まだ持ってんだよこっちは」
「……脅してまで、どうして救出作戦に参加しようとする?」
「そんなの決まってるんだろ、あんたにだけいい顔させない為だよ」
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
次に私が目を覚ますと、そこは見知らぬ廃墟であった。
周囲は暗く明りは目の前の柱に魔道具が引っ掛けれており、そこから周囲を照らしているのみだった。
私は地面に座り手は後ろで鎖で縛られており、足には枷がされて逃げ出す事が出来ない状況であった。
更には口元も塞がれており、声すら出せない状況であった。
どう言う事? 何がどうなってるの? ここは何処なのよ!?
もがきながら、何とか手だけでも自由にならないかとジタバタしていると、そこに二人の人物が現れる。
「あれ? 何か音がすると思ったら、起きたのね?」
「おっ本当だ。あ、逃げようとしても無駄だよ。君を縛っているの剣で切ったりしないと絶対にとれないから」
誰、こいつら。
てか、完全に何かの事件に巻き込まれてるよね、これ。
そんな風に思って男たちを睨んでいると、更に奥から一人現れる。
私は現れた人物を見て驚愕した。
その人物は初めての仕事先で、私を剣で殺そうとした人物であったのだ。
「よぉ、久しぶりだな。覚えてるか、俺の事?」
どうして貴方がいるの!? 捕まったんじゃないの?
「何が言いたいかよ~く分かるぞ。俺は最近脱獄したんだよ。で、よくも捕まえてくれたあの団長に復讐しよと決めたんだよ」
復讐? そんなのただの逆恨みでしょ! そっちが悪い事してたんだがら、捕まるのは当然でしょ。
「で、どう復讐しようかと思ってたらあいつに隠し子が居るって噂を聞いてな。そして部下が屋敷を見つけて様子を見ていたら、お前がそこに入って行くじゃねぇか」
そりゃ、派遣使用人で依頼が来たんだから当然でしょ。
「しかも、やたらと仲良さそうにしてよ。で、そこにある情報でお前があいつの隠し子だって聞いてよ、思いついちまったんだよ復讐をよ!」
……はい? 何を言っているの、こいつ。
「あいつが居ない時に襲撃して、お前を攫ってあいつに屈辱を味合わせてやろうってな! あの日お前があそこに居たのも偶然じゃなかったって事だろ! もう分かってんだよ! だから、お前もその後で殺す!」
あ~話がややこしくなって来てる! てか、年齢を考えなさいよ! 誰が誰の子だって? 普通に考えればあり得ないでしょが! あんたに私はどう見えてんだっての!
そう反論しようにも口を塞がれている為、もごもごと言う事しか出来ず更には相手の男は既に勝ち誇った様に高笑いをしていた。
私はそれを見て少し呆れた顔をしていると、突然高笑いを止めて私の顔を見て来た。
「お前、今俺の事馬鹿にしたろ?」
何その急な勘のよさ……怖すぎるんですけど。
すると男は近くにいた男から剣をもらうと急に振り上げた。
え、ええ!? ちょっと! 待ってこの展開前にも……
「気分が変わったわ。お前からヤるわ」
そう冷たく男が言い放った直後私に向かって剣が振り下ろされる。
が、そこに何処からともなく剣が飛んで来て私の前に突き刺さり、男が振り下ろした剣から守ってくれた。
「何!? 誰だ!」
男の言葉と共に、近くにいた男たちも警戒態勢をとる。
暫くの静寂が続いた後、月明かりが廃鉱内を照らした時だった。
私の背後の壁を乗り越える様に、二人の人物が現れた。
「な、何でお前がここに居るんだ! 第三騎士団長!」
「それはもちろん、お前を捕らえる為だ」
そう告げるとアークは剣を持った男を蹴り飛ばすし、もう一人の人物に声を掛けた。
「ウル、お前はイリナさんを護れ」
「分かってる」
アーク様にウル!?
するとアークが残っていた男たちの相手をしようと向くが、一人がウルに向かって突っ込んで行く。
「ウル!」
「ガキが! 調子に乗ってるんじゃねぇぞ!」
「その声、お前が俺をあの時蹴っ飛ばした奴だな!」
突っ込んで来た男はウル目掛けて拳を叩き込むが、ウルは瞬時にそれをかわし相手の背後へと回り真横から頭部目掛けてかかと蹴りを叩き込む。
それをもろにくらった男がよろめくと、ウルが追撃として脳天にかかと落としを食らわせてノックアウトさせた。
「お返しだ」
その間にアークは一人片付け、残るは脱走した男となった。
だが男は逃げずにアークへの不意打ちを仕掛けた。
「アーク!」
と、相手に背を向けていたアークにウルが名を叫ぶ。
その声に反応してアークは瞬時に振り返り、迫って来る男に向け氷結魔法を放ち、完全に動きを止めたのだった。
そしてアークはウルの方を向くが、ウルは直ぐにそっぽを向き私の方へと駆け寄って来た。
「大丈夫か、イリナ」
「……ぷはぁ、うん。何とかね。でも驚いた、ウルまで助けに来てくれたんだ」
「うん。だって、俺イリナの先輩だしな」
「そんな理由?」
「オリックも言ってただろ。先輩は後輩の面倒を見るんだって」
ウルはそんな事を言いながら、剣を使って私の足枷を外そうとしてくれたが、なかなかうまくいかなかった。
するとそこにアークがやって来て、ウルをどかすと一瞬で足枷を斬ってくれた。
「ありがとうございます。アーク様」
「イリナさんが無事で安心しました」
そう言って、私の手の鎖もアークが斬り解放してくれた。
すると突然アークが私に向かって頭を下げた。
「イリナさん、今回の件は騎士団の責任だ。あの犯罪者の脱獄を許し、更にはイリナさんを巻き込んでしまい危険な目に遭わせてしまった」
「でも、また助けてくれたじゃないですかアーク様」
「おいおい、それで許すのかイリナ。こいつの言う通り、今回はこいつのせいだぞ。そうでなきゃ危険な目にも合わなかった」
ウルがそう口を挟むと、アークはぎろっとウルを睨む。
するとウルはそっと目線を逸らした。
「ウルの言いたい事も分かるけど、捕まったのは自分がウルの言う事を聞かずに勝手に動いたせいでもあるし。私がアーク様を責めるのはちょっと違う気がしてさ」
「……イリナは少し優し過ぎる。でも、こんなに謝るこいつを見れるのはイリナのお陰だし、いっか」
「ウル。お前さっきから少し口が過ぎるんじゃないのか? え?」
「そんな事ねぇーよ。事実を言っただけだ」
「おやおや、騎士団長を脅した事を忘れたのかな? どれだけの重い罪になるか、分からせてあげようか?」
「それ言うなら、あんたは俺の言う事飲んだんだ。自分からあれを公にする気かよ?」
何か知らない間に少し仲良くなった? と、一瞬私は思ったがそれは私の勝手な思い込みだとして仲裁に入ろうとすると、周囲からぞろぞろと男たちの仲間がやって来た。
「はぁ~やっぱり残党がいたか」
アークはそうため息をついた直後、頭上に一つの明りを魔法で打ち上げると、周囲を包囲する様に第三騎士団の兵士が現れ一斉に残党を捕縛し始め、全員を捕らえ連行し始めた。
こうして事件は一件落着したのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
事件後、私はシーラさんから一週間の休みをもらった。
その間アークの屋敷の仕事は、代わりにウルが行う事になった。
しかもウルから自分にやらせて欲しいと言い出したのだった。
シーラは少し迷っていたが、一週間ウルに任せる事にしアークにも伝えると、アークも許可したのだった。
私はてっきり一週間はやめるのではないかと思っていたので、少し驚きの展開だった。
一週間のウルとアークの関係などは分からないが、仕事は完璧にこなして帰って来るので、何とか上手くやれているのではないかと感じだ。
そしてあっという間に休暇の一週間も終わり、今日から仕事復帰となりまだ継続しているアークの屋敷へと向かった。
今日もウルがペアとして来る予定だったが、久しぶりの仕事で待ち切れずウルより先に屋敷に来てしまった。
「今日はやけに早いな、ウ――ってイリナさん!?」
「はい、イリナ・カディナです。今日から復帰しますので、またよろしくお願い致します! アーク様」
「お変わりがなくて何よりです。ウルは今日はいないんですか?」
「いえ、いるのですが。久しぶりの仕事で待ち切れず先に来てしまいました」
「ふふふ、イリナさんらしいですね。でしたら、中でお待ちになっては? まだ勤務時間前ですが、どうぞ」
「すいませんアーク様。では、お言葉に甘えて失礼します」
私は屋敷に入り、アークの後を付いて行くといつもの様にキッチン近くの椅子に座り紅茶を飲みながらゆっくりし出す。
するとアークが私に話し掛けて来た。
「ウルが来るまで、少しお話でもしますか」
「はい、ぜひ」
「とは言ったものの、どうしましょうか……そうだ。何か私に訊きたい事はありますか?」
「訊きたい事ですか?」
「はい、何でも構いませんよ。まだ勤務時間前なので、使用人とお客様の関係でもないのでお気になさらずに、今気になっている事を言って下さい」
そう言われて、私が頭の中に浮かんだ事を口に出した。
「……では、どうしてウルを隠し子なんて言っているんですか? 子と言うより、弟とかではないんですか?」
「親が子を選べない様に、子も親を選べないからですかね」
そう言ってアークは話し始めた。
元々は両親が騙されて婚約仕掛けた相手であり、アークとの子ではなかった。
が、後々調べた所屋敷まで言い寄って来た女性が連れていた子供のウルは、アークの屋敷に勤めていた使用人との子供であったのだ。
しかもその使用人は、以前女性を妊娠させてしまい子供が知らないうちに産まれて金を要求され焦っていた時に両親を騙そうとしていた奴らと出会って裏で協力し、その妊娠させ子供産んだ女性と婚約をさせようとしたいたのだった。
結果的には失敗に終わったが、使用人は捕まらず自分から女性に近付き、次は子供がいる事を武器に屋敷まで乗り込む強行作戦に出たのだ。
だが、これも失敗に終わり女性が捕まると使用人の犯行も分かり、共に捕まったのだ。
アークは薄々と分かっていたが、証拠がなく言い詰める事が出来ずにいた。
そしてある日、アークは自分との婚約を迫る為に子供まで道具にした事に我慢がならなくなっていたのだ。
その後女性の後をつけ必ず使用人との関係性を掴もうとしたが、その時にウルが捨てられる場面を見てしまう。
その時ウルをそのまま見捨てて、女性を追う事も出来たがアークはそれをせずにウルに手を差し伸べたのだった。
自分の甘さが招いた不幸だ、自分がもっと早く悪事を暴いていればこうはならなかったはずだと思ってしまったのだ。
自分勝手な思い込みであり、偏見であるとは分かっていたが、ウルを放って置く事が自分の中で許す事ができず手を差し出していたと語る。
隠し子と言っているのは、屋敷の父の世間体や雇っていた使用人が犯罪に関わっていたなどと、悪い噂が出ている中で養子を入れたなどと言っては、また根の歯もない噂が出ると思っていためであった。
そのためウルは秘密裏に育てられ、なるべくアークも接する事無く育ったのだ。
初めは両親たちも使用人たちもウルを育てる事に猛烈に反対したが、アークが頭を下げて家のごたごたに巻き込まれ捨てられたウルを、自立するまででいいと言って強くお願いをしたのだった。
両親たちもさすがに何かを思ったのか、アークの願いを受け入れたのだった。
それからは変な噂が経たぬように厳重に育てつつ、アークはウルとはほとんど接触せず、あまり屋敷に目が向かず自分に周囲の目が向く様に騎士団の仕事により励み成果を上げ続けたのだった。
その結果、ウルは自立するまで育ちアークは成果を認められ、騎士団長まで上り詰めていたのだ。
「それ、ウルに言わないんですか?」
「墓場まで持って行くつもりだよ」
「私がうっかり、話しちゃうかもしれませんよ」
「いいえ、イリナさんはそう言いながら、そう言う事をする人じゃありませんよ」
アークはそう言って紅茶を一口飲む。
「はぁ~私、アーク様のそう言う所嫌いです」
「き、嫌い!?」
するとそこで玄関をノックする音が聞こえ、私は玄関へと向かう。
「ちょっとイリナさん、今の所を詳しく」
「あ、ウル来たかな?」
私は玄関を開けるとそこには予想通りウルがいたが、何故か物凄く息切れしていた。
「やっぱり、いた、イリナ……勝手に行くなよ」
「ごめんごめん。待ちきれなくて」
そこへアークが顔を出す。
「また来たのかウル」
「来ますよ、アーク様! あんたとイリナを二人っきりにさせるわけないだろ」
「何で二人っきりがダメなの?」
「それは、色々あるの! ほら、さっさと仕事始めようイリナ。で、あんたはさっさと騎士団長の仕事に行け!」
「おい、押すなってウル」
ウルはアークの背中を押して二階へと上がって行く。
私はその光景を微笑ましく見て、掃除道具を取り出し気合を入れる。
「さーてと、お仕事始めますか!」
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