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第7話 道化は嗤う



 先程リッチが放った火球によって、オムニスはアキラを見失ってしまった。

 火球によって燃えたモンスターなどの臭いの所為で、鼻も効かなくなっている。オムニスは、苛立ちと警戒心を露わにした唸り声と共に、リッチに向けて愛剣を構えた。 

 剣の周囲には、蒼白い光が纏わりついており、リッチは明らかに剣を警戒した間合いを取っている。蒼白い光の正体は、『剣気』のスキルだ。


 『剣気』のスキルは、剣の威力、耐久値を上昇させる以外にも不死者アンデッドや精神体のモンスターに対しても有効な性質を付与する事が出来る。


「ホシイ、シネ、ワタシノモノニナレェェエエエ!!」


 リッチは、自分の放った声によって相手に呪いを付与するスキルを持っていた。


 だが、呪い耐性を持つオムニスは効果が薄く、声の衝撃波も決定打にはならない。その為、火球にて攻め落とそうとしている。


 対するオムニスも、遠距離攻撃を得意とするリッチを攻め切れず、僅かにだが焦りにも似た感情を抱えていた。

 時間をかければかける程に、周囲のモンスターを呼び寄せる可能性があり、耐久力が高いオムニスであっても火球が直撃すればタダでは済まない。


(くそ、どうする……)


 遠距離からの攻撃手段のないオムニスは、明らかに不利な状況だ。


 いや、リッチ単独であるなら倒せない敵ではない。


(新手か)


 オムニスは、優れた感覚と『野獣の本能』のスキルから増援のゾンビが近付いて来ている事に気付いていた。

 霧の向こうから現れるのは、ゴブリン、シャドウ・ドッグ、人間などの混合ゾンビ軍団だ。あれらのゾンビ軍団を盾にされては、流石のオムニスも不利な事を悟る。


 逃げる選択肢もオムニスの中にはあった。


 だが、アキラを見失った現状で逃亡の選択肢は選ぶ事は出来ない。

 短い間とはいえ、互いに協力した……オムニスにとって、親しい感情を抱いた少年を置いて逃げる選択肢は既に捨てていた。


「ウバエ、コロセ、ヒキサケ!」


 リッチの命令でゾンビ達が一斉にオムニスに襲い掛かる。


 オムニスの一瞬の脱力によって、瞬間的に集中力を極限まで高めた。そして、前方に迫るゾンビ軍団の中に跳び込む。

 まず、目の前にいた人間のゾンビの首を刎ね、掴みかかってくるゴブリン・ゾンビの頭を切り返した剣で叩き斬る。


 だが、多勢に無勢ーー直ぐに囲まれる。


「ガァォォオオオオ!!」


 オムニスは、肺に空気を溜めて全力で咆哮する。


 『咆哮』のスキルは、声を衝撃波に変える。それによって、ゾンビ軍団は吹き飛び、体勢が崩れた。     

 追撃の構えをとったオムニスに向かって、リッチの火球群が降り注ぐ。


(くそっ)


 スキルを放った直後の硬直状態によって、回避が僅かに遅れたオムニスは火球を紙一重で躱すが、爆風の直撃を受ける事になった。


「シネシネシネシネシネシネシネシネ」


 オムニスは、絶え間なく降り注ぐ火球を転がる様にして躱す。そして、決死の覚悟で炎の中を潜り抜けてリッチに迫る。


「うぉぉおおおお!ぐっ」


 剣を振り下ろす直後、ゾンビを盾にされる。


「逃すか!」


 『怒り』のスキルによる一時的な能力値の上昇によって、リッチの右腕諸共胸に剣を突き立てる。それでも、リッチが死ぬ事はない。

 反対に、至近距離から火球をオムニスは受けてしまった。


「ぐぅっ」


 鎧に守られた体すら焼く火球の炎と熱の爆発によって、地面を転がる。


 

 

 オムニスの中には、リッチを倒せる自信があった。それは、嘗ての世界で単独でリッチを倒した経験と数多の戦場を渡り歩いた経験があったからだ。だからこそ、心の何処かで油断していた。

 世界が交わり、ステータスと呼ばれる力が与えられた時点で、戦闘の力関係は大きく変わってしまった事にオムニスは気付く。


 全身に走り抜ける激痛を歯を食いしばって耐え、剣を支えに立ち上がる。


 燃え上がる地面やドラッグストアから上がる煙の所為で、未だにアキラの姿をオムニスは見つけられていなかった。

 

「俺がバンシーを足止めする!その間に逃げろ!」


 アキラからの返事はない。

 最悪な場合、アキラに何が起きたのかもしれない。


 『虚飾』のスキルは、ダメージを夢幻へ改変する脅威的な力がある。


 だが、脅威的なスキルだとしても、全能な力では決してない筈だ。

 最悪な状況を想定したオムニスは、リッチが残虐な笑みを浮かべるのが見えた。


「なら、お前を倒せば問題ない!」


 オムニスが、再び剣を構えた時、頭上から降り注いだ大量の液体がリッチを襲う。水と呼ぶには粘着性があり、臭いもする。

 困惑するリッチの元に、1羽の烏が飛んで行くのがオムニスには見えた。烏であるのにも関わらず、その飛び方は覚束無く、飛行と言うよりも落下に近い。そして、未だに困惑するリッチの頭上まで来た烏は突然ゴブリンの姿に変身した。


「!?」

「ッ?!!」


 ゴブリンは、自由落下によりリッチの首に背後からしがみ付く。そして、ゴブリンらしい残虐性を秘めた笑みを驚愕するリッチに向けた。


「よう、リッチ。大量の油を全身に浴びた気分はどうだ?」

「キサマハ!!」

「そんな嫌がるなよ」


 ゴブリンが手を翳すと次々と燃えた状態の紙が、リッチの周りの灯油や油の混ざった油溜まりの中に落ちて行く。


「さぁ、我慢比べだ」


 いつの間に取り出したのか、リッチの首を絞めるゴブリンの逆の手には火の付いたライターが握られていた。


「キサマ!コロシテヤル!!」

「悪いな。死ぬのはお前1人だよ!」


 『感情操作』によって怒りの感情を最大まで増幅させられたリッチは、『逃げる』という選択肢を忘れてゴブリンに掴みかかる。

 だが、殆ど同時に灯油や油に火が引火し爆発を起こした。

 更に、ゴブリンを殺す事に執着したリッチの手に生み出された火球によって爆発は誘爆し、足下のコンクリートを粉々にする程の威力を叩き出した。





□□□□□



《熟練度が一定に達しました。『精神耐性』がLV:4→5にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『損傷耐性』がLV:1→4にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『痛覚耐性』がLV:3→4にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『火耐性』を獲得しました。》

《熟練度が一定に達しました。『度胸』がLV:5→6にレベルアップしました。》


《ネームドモンスター『シャウラ』の討伐を確認しました。世界で最初に、ネームドモンスターを討伐した事を加え、条件を達成しました。特殊スキル:『賢者の才』を獲得しました。》

《特殊スキル『賢者の才』を獲得した事で、特殊条件を達成。特殊スキル:『魔素マナ支配』を獲得しました。開放条件を一部達成により、スキル:『水魔術』『属性耐性』を獲得しました。》

《耐性スキル:『属性耐性』を獲得した事で、耐性スキル:『風耐性』『火耐性』が統合されました。》

《ネームドモンスターを討伐した為、SP+10を獲得しました。》


 焼けた臭いと熱気の中で、呆然と霧の晴れた空を見上げる俺の元に満身創痍に見えるオムニスに歩み寄る。


「……」

「……」

「勝ったな」


 オムニスの言葉に、漸く勝利の実感が体を駆け巡る。


「オムニスのお陰だ」


 実際、オムニスがリッチ……いや、『シャウラ』を追い込んでくれなければ、何一つ上手く行く事はなかった、と確信できる。だからこそ、素直な感情を伝えなければいけない。


「ありがとな」

「……」


  珍しく、オムニスは絶句したまま固まった。

 俺は、その姿が面白く暫く眺めていたいと思ったが、戦いの騒ぎを嗅ぎつけたモンスターが来るかもしれないので立ち上がる。


「さて、帰ろうか」

「ああ」




 ステータスは半減してしまうが、オムニスに『虚飾』のスキルを使用する。

 すると、体の傷どころか鎧のダメージまで消えてしまったのには驚いた。


 そういえば、俺の服もいつも直ってたしな。


 オムニスは、初めて体感した『虚飾』の効果に驚愕していた。


「凄い力だな」

「本当、『虚飾』様々だ。だけど、オムニスは能力値が半分になってるから気を付けてくれよ」

「分かっている」


 事前に伝えてはいた事だが、オムニスの表情からは不安が浮かんで見える。



《熟練度が一定に達しました。『観察』を獲得しました。》



 どうやら、『観察』は名前の通りの効果があるらしく、先程よりもローブを被るオムニスの表情の変化が良く分かった。


 ちなみに、オムニスの剣やローブは『収納(武具)』の効果で出し入れ自由となっている。



 

 ステータスが半減している為、普段以上に警戒して帰路に付く。 

 運良くモンスターと出くわす事なくマンションの自室まで辿り着いた俺は、ソファーに倒れ込んだ。


「はぁ、死ぬかと思った……」


 外では決して本音を吐かない様にしていたが、家の中で我慢する必要はないだろう。


「強敵だったな」


 オムニスも、床にしゃがみ込んで『シャウラ』と戦った感想を述べた。


「……それと、済まなかった」


 オムニスは、初めて出会った時の様に俺に向かって跪く。

 オムニスの育った種族の習慣では、相手に跪く事は忠誠を示す事以外にも、全力の謝罪を行う時に用いられていたそうだ。日本で言う、土下座のような行動だ。


「あの時、お前を足手纏いと言ったが、結局は……」


 オムニスの言葉の続きを俺は手で制した。


「オムニスは間違ってないよ」

「だが、」

「オムニス。俺は、凄く弱い」


 俺は、自分の弱さを敢えて堂々とオムニスに語った。


 決定的な攻撃手段を持たず、防御手段もない。あるのは、相手の感情を操作するスキルと生き残る事にしか使えない『虚飾』のスキルだ。

 声に出してみるとはっきりと理解出来る。


 俺は、この世界で生きるには最悪な程に弱い。


「でも、勝つ事と生きる事を諦めたくない。だから、力を貸して欲しい」


 男として情けない言葉だ。

 他人に聞かれれば、呆れられるかもしれない。

 いや、オムニスも呆れてしまうかもしれない。


 俺は、人として他人より自分が大切な薄情者で戦力は囮以下の雑魚だけど、オムニスと向き合う時は自分を偽る事はしたくない。

 何故なら、オムニスの瞳は、どんな時でも俺を真っ直ぐに見ているからだ。嘘や見栄を見透かされている様で、居心地が悪い時もある。


 でも、だからこそ、俺はオムニスの前では本当の自分でいられる。


「当たり前だ。お前は、いや……アキラは、俺の仲間、だからな」


 オムニスがそっぽを向いてしまった。

 何やら、顔が赤く見える……様な。尻尾を握る手も震えてる……様に見える。



《熟練度が一定に達しました。『観察』がLV:1→2にレベルアップしました。》



「仲間、か……」

「あー、それは、その……」

「……悪くないな」


 今までの人生で、友人と呼べる人物に出会った事は何回か経験がある。

 

 だが、『仲間』と呼べる人物に出会った事はない。


「……そうか」


 なんだか、自分よりも圧倒的に強いオムニスから「仲間」と言って貰えたのが心底嬉しかった。


「それに、漸く、名前を呼んでくれたしな」

「っ」


 

 疲れはまだ残っているし、置き時計の時間も午後の3時と少し早いが夕食の準備をする事にした。



=========


名前:サイガ・アキラ【神呪ペナルティー:All 1】

LV:1

職業:道化師

副職業:選択不可

ーーーー

HP(体力):1(10)

MP(魔力):1(30)

STスタミナ:1(10)

ーーーー

STR(筋力):1(4)

DEX(器用):1(24)

AGI(敏捷):1(4)

VIT(耐久力):1(3)

INT(知力):1(13)

LUC(幸運):1(40)


SP:2→12


《固有スキル》

憂鬱

虚飾


《特殊スキル》

独占の欲望LV:1→2

魔素マナの支配LV:1

賢者の才


《スキル》

簡易拠点LV:5→6

認識誘導LV:3→4

感情操作LV:4→5

器用強化LV:3

急所突きLV:1→2

水魔術LV:1[+水球]

窃盗LV:3

度胸LV:4→6

変装LV:1→2

料理LV:1

剣術LV:1

観察LV:1→2


《耐性スキル》

精神耐性LV:3→5

損傷耐性LV:1→4

疲労耐性LV:6

混乱耐性LV:1

痛覚耐性LV:1→4

属性耐性LV:1



〈パーティー〉

1.オムニス


=========


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