表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/20

第5話 経験値の使い方




 朝作ったハムレタスサンドとコーンスープ。そして、温めた牛乳に砂糖を少し入れた甘めのホットミルク。

 ちなみに、オムニスには砂糖は別皿にして、自分で調整してもらう様に頼んだ。


「美味いな」


 シャキシャキとした新鮮なレタスとハムとスライスチーズの塩っけと旨みがやみつきになりそうだ。それに、パンにバターとは別に塗っておいたワサビとマヨネーズのソースがまだ美味い。

 そういえば、オムニスは……既に完食していた。今、熱々のコーンスープと『フーフー』しながら格闘中の様だ。


 だが、これだけ食欲があると食料の確保は優先しないといけないな。

 何処かの食品工場に忍び込んで回収するにしても、地形や地理が変わっている上に徘徊するモンスターの分布や強さも分からない事が多い。

 もし、オムニスのステータスを中心にモンスターの強さを考えるなら警戒はして損はないだろう。だから、聞いておかなくてはいけない。


「オムニスって、どれくらい強いんだ?」

「ん?普通よりは強いとは思うが……厳密には分からんな」

「そっか、ありがとう」


 急に、「お前ってどれくらい強いの?」と聞かれても困るよな。


「だが、種族の中に時折現れる特殊な個体には勝った事がない」

「特殊な個体?」

「種族の王や側近を名乗る連中だ」


 口についたコーンスープを舐め取り、オムニスは話を続ける。


「特に王の力は、その他の雑魚とは隔絶している」

「それだけ強いのか……」


 オムニスがそこまで言うなら、警戒していて損はなさそうだ。


「王の強さは、単純な強さではない」 

「つまり?」

「聞いた話では、ゴブリンの王は、配下に狂化と強化を行う事で戦力を増強し、手足の様に操るらしい。そして、ゴブリンを強制的に進化させる事もできると聞く」


 『進化』とは、モンスター達の限界を越えた時に姿だけでなく能力を含めた存在全てを書き換える現象の事らしい。

 本来は、そんな簡単に起こる現象ではないが、それを強制的に促すのがゴブリンの王の力だという。


 とんでもない奴だな。


 


 取り敢えず、2日目の行動を開始する。


 昨日と同じ様に、屋上から双眼鏡を使って周囲の観察と目ぼしい建物を探す。


 こうしてみると、家の窓やベランダから『SOS』『助けて!!』『救助求む!!』などと書かれた布や旗が垂れ下がっている所が多い。それら意外にも、人の気配がある部屋や建物を見かけた。


 案外立て篭もっている人は多いんだな。


「ん?」

「どうした?」

「あ、何でもない」


 今、知り合いに凄く良く似た少女が、同じ制服を着た高校生達と移動しているのが見えた。向かう先は、昨日のショッピングモールとは反対側のドラッグストアだ。

 

 世界が異世界に変わって少なくても、2日目。


 まだ、他の人間と情報を共有するには早いな。

 寧ろ、落ち着いて行動に移す事が出来ている人間がいたと言うだけでも良い発見だ。だから、せめて今は邪魔はせずに、俺達は別な場所から物資を根こそぎ回収して行くか。


 俺は、オムニスにスーパーのある方角と建物の姿形を伝える。


「分かった」

「……」

「恐いのか?」

「……いや、大丈夫だ!」


 俺は、昨日と同じ様にオムニスにお姫様抱っこをされ、絶叫マシンの世界に身を投じる事になった。耐性を獲得した事で、昨日よりも楽になると思ったが、急停止や急加速の動きには耐えられず、根本的な能力値の低さを恨むしかなかった。



《熟練度が一定に達しました。『風耐性』がLV:3→4にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『精神耐性』がLV:2→3にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『疲労耐性』がLV:4→5にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『度胸』がLV:2→3にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『感情操作』がLV:3→4にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『混乱耐性』を獲得しました。》



 相変わらず、絶叫マシンの効果は絶大だ。

 暫く、目眩や吐き気を耐えなければいけないがこれ程簡単にスキルのレベルアップを行える方法はない。

 

「次からは加減する……」

「いや、大丈夫」


 俺は弱い分、戦い方を模索する必要がある。だから、スキルをレベルアップさせる機会を逃すのは勿体ない。それに、いざと言う時に動けないでは話にならないので慣れておく必要がある。


「俺が、慣れれば良いんだから」


 『混乱耐性』を獲得した事で、目眩が軽減して行く。


「それじゃ、行くぞ」


 駐車場に止めたままになっていた車の死角に隠れながら、スーパーへと近づく。人間の姿はないが、ゴブリンの姿が見える。

 どうやら、スーパーはゴブリンに占領されている様子だ。


 それにしても、この辺りにはゴブリンが多いな。


「気を付けろよ。奥に、ホブゴブリンがいる」

「確か、ゴブリンの上位種だよな」

「所詮はゴブリンだが、油断はするな」


 正面から戦う事は得意では無いが、物資を手に入れる為にはやるしか無い。

 簡易拠点から軽めのナイフを取り出して、事前にオムニスから教えて貰った動きを思い出す。俺の能力値は、まず間違いなくゴブリンより弱い。


 だが、相手の隙を生み出して、突き崩す方法はある。


 俺は、オムニスの背を追ってスーパーに駆け出す。

 オムニスは、走った勢いを殺す事なくゴブリン1体の首を刎ねる。そして、俺も動揺するゴブリンの感情を感情操作で増幅させて、対応の遅れたゴブリンの首筋をナイフで斬り裂く。


「行くぞ」

「ああ!」


 オムニスが率先して中の敵を屠る。俺は、スーパー内全体に感情操作のスキルにより、ゴブリン達の不安や混乱、動揺などの感情を増幅させる。それによって、対応やホブゴブリンの命令を行う事が出来ない。

 ゴブリン達が混乱している間に、ナイフを構えてゴブリンを襲う。


 だが、隙をついたとしてもステータスはゴブリンが上だ。攻撃が当たれば、致命傷になりかねない。


 普通ならな。


「ギィ、?」


 粗末な槍で俺を貫いた筈のゴブリンの前から俺が消えて、目の前に現れる。

 

「ガァッ」


 ゴブリンの喉にナイフを突き刺す。


 2体目。


 俺がオムニスより圧倒的に弱い事に気付いたゴブリン達は、一斉に襲いかかって来る。


「!」

「オムニス、ホブは任せた!」

「分かった!」


 一瞬悩んだ様だが、オムニスは直ぐにホブゴブリンに向かって行った。ホブゴブリンは、火弾の様な物を手に作り出し、オムニスに向かって放つ。

 オムニスは、火球を剣で両断した。


 魔法!?

 しかも、斬った!?


「ギィア!」


 オムニスの方ばかりを気にしている場合ではなく、目の前のゴブリン達に集中する。と、言ってもゴブリンの攻撃を躱し続ける事は難しく、直ぐに致命傷を受ける。


 だが、『虚飾』で現実を改変し、動揺する感情を煽り急所を狙って仕留めて行く。

 ナイフの斬れ味が落ちて来ると、一撃で仕留めるのが難しくなる為、急所を突いたナイフは無理に引き抜かず、『簡易拠点』から新しい物を取り出す。

 時には、倒したゴブリンの体を盾にして、そこから生まれる僅かな隙を突いてナイフを振るった。


「ギィ!」


 キィンッと金属同士がぶつかる金属の音が響く。


 だが、根本的な能力値の差を覆す事は難しい。その為、攻撃の勢いに逆らわず、攻撃の軌道を逸らす事にだけ意識を集中する。


「うっ」


 死角からゴブリンに背中を刺される。


 『虚飾』で傷はなかった事になるが、痛みは本物だ。


 『虚飾』によって俺を見失い、『認識誘導』で更に認識を狂わせたゴブリンの頭上にスコップを『簡易拠点』から取り出す。そして、自然落下の勢いを利用してゴブリンの頭上にスコップを叩き付ける。


 『簡易拠点』は、手の届く範囲にしか物を出し入れ出来ないが、それでも戦いに利用する方法を自分なりに考えた。


「ぎ、ギィぃ」


 自分より明らかに弱い敵を倒せない苛立ちの感情を煽り、冷静な判断力を失わせる。そして、感情に任せて跳びかかってくれば、『認識誘導』で認識そのものをずらして1体ずつ仕留めて行く。

 他にも、『簡易拠点』から砂を空の手の中に取り出して、目に浴びせる事で視界を奪い殺す。

 更に、『独占の欲望』の効果でスキルを徐々に低下させて弱らせた所で着実に急所を突いて片付ける。それでも、俺の低い能力値の所為で疲労が溜まって来ると動き自体が鈍る。


 

「ふっ!」


 俺の周りに残っていたゴブリン全てが、一瞬で斬り裂かれた。

 圧倒的な能力値の差による暴力を目にすると、俺の行っていた泥臭い戦略が馬鹿らしく感じられる。


「すまん、遅くなった」


 オムニスが、愛剣のバスターソードを持ち、残りのゴブリンを一掃してくれた。


 


 全てのゴブリンを倒した時には、頭の中に直接音が鳴り響く。

 


《熟練度が一定に達しました。『疲労耐性』がLV:5→6にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『度胸』がLV:3→4にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『感情操作』がLV:3→4にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『認識誘導』がLV:2→3にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『器用強化』がLV:2→3にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『剣術』『急所突き』『痛覚耐性』を獲得しました。》



 スキルが大幅にレベルアップして、3種類のスキルも獲得出来た。これは大きな収穫だ。


 だが、店内で戦った所為で、物資を大分駄目にしてしまった。

 ゴブリンに踏まれた物や血が中身にかかった食品は、病気や感染症が怖いので諦める。

 缶詰類やティッシュ類などの生活用品も含めて、物資は全て回収した。勿論、陳列棚に並んでいない商品も探して全て回収する。そして、一応ゴブリン達が持っていた武器なども回収しておく。


「どうした?」

「そういえば、死体が腐敗して病気が蔓延したりしないかな……と思って」

「おそらく、夜には死肉を漁るモンスターも動き出すから心配は無いと思うが……心配なら回収したらどうだ?」

「いや、辞めておく」


 口に入れる食品などをゴブリンと一緒にしたくない。


 意識の問題だろうが、嫌な物は嫌なのだ。


 その後、一旦スーパーから離れて物陰から休憩を取る事にした。簡易拠点から水と朝作ったハムレタスサンドを取り出して、オムニスの分も手渡す。そして、ハムレタスサンドを食べながらステータスの確認を行う。



=========


名前:サイガ・アキラ【神呪ペナルティー:All 1】

LV:1

職業:道化師

副職業:選択不可

ーーーー

HP(体力):1(10)

MP(魔力):1(30)

STスタミナ:1(10)

ーーーー

STR(筋力):1(4)

DEX(器用):1(21→24)

AGI(敏捷):1(4)

VIT(耐久力):1(3)

INT(知力):1(13)

LUC(幸運):1(40)


SP:2


《固有スキル》

憂鬱

虚飾


《特殊スキル》

独占の欲望LV:1


《スキル》

簡易拠点LV:5

認識操作LV:2→3

感情操作LV:3→4

器用強化LV:2→3

急所突きLV:1

窃盗LV:3

度胸LV:2→4

変装LV:1

料理LV:1

剣術LV:1


《耐性スキル》

精神耐性LV:2→3

損傷耐性LV:1

疲労耐性LV:4→6

混乱耐性LV:1

痛覚耐性LV:1

風耐性LV:3



〈パーティー〉

1.オムニス


=========



=========


【LVカード】

・ホブゴブリン×1枚

・ゴブリン×9枚


=========


 

 『憂鬱』の効果のおかげか、スキルのレベルアップ速度が早い。それによって、戦闘でも役に立つスキルが増えて来ている。

 『LVカード』は随分増えたな。

 どうやら、スーパー内のゴブリン達全体に感情操作のスキルを行使した事によって獲得出来た様だ。


 だが、【神呪ペナルティー:All1】によってレベルは上がらない。

 つまり、現状は宝の持ち腐れという訳だ。


 ……いや、そうでも無いな。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ