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第4話 命がけ


「と言う訳だ。俺は、モンスターを一掃して来る」


 どの辺りが「と言う訳だ」なのか分からない。


「俺は、強くなる為にモンスターを狩る。お前は、必要な物を探して回収してくれ」


 相変わらず、オムニスは俺の話を聞かずにモンスターと人間が戦っていると思われる現場に向かっていった。


 これが、戦いに明け暮れた戦闘種族と平和ボケした人間の差なのか。


 悩んでいても仕方がないので、俺もアウトドア用品の売っている店に向かった。

 アウトドア用品は、予想外にも殆ど手付かずで商品が残っていた。俺は、テントやガスコンロなどアウトドア用品を隅から隅まで回収して行く。

 正直、使い方が分からない商品もあったが、回収しておいて損はないだろう。そして、スタッフオンリーと書かれた倉庫の中で、厳重に仕舞われていたナイフや灘、片手斧やスコップも回収しておく。

  

 【神呪ペナルティー】で、元々の身体能力は維持されてるみたいだけど、重労働は疲れるな。


 俺は、元々運動部でもなければ、体を実戦的に鍛えた事もない。


 オムニスに言わせれば、ひ弱な人間だ。


 だいたいの商品を回収した俺が、店の裏から戻ると電化製品売り場の方から逃げて来たと思われるゴブリンと出くわした。


 明らかにゴブリンは、焦っている。


 俺は、まず感情操作で自分の感情を落ち着かせた。そして、『簡易拠点』から先程回収したナイフを取り出す。

 構え方は知らないが、取り敢えず、漫画で見た事があるナイフを敵に向ける様な構えをとっておく。


 だが、興奮状態にあるゴブリンの動きは早かった。

 俺が悩んだ数秒の間に、目の前に迫っており、手に持っていた包丁が腹部の皮膚を貫く激痛を感じ……消える。


 一瞬、自分でも理解出来なかった。


 気付いた時には、自分の体が、ゴブリンの持つ包丁の軌道からズレており、ゴブリンもまた自分の持つ包丁と俺を交互に見ていた。


 なるほど。これが、『虚飾』の効果なんだな。

 自身に起こった事象を改変する……予想以上に、強力な効果だ。


 混乱するゴブリンの感情を『感情操作』で煽り、『認識誘導』で俺の動きへの認識を阻害する。そして、正確に狙った軌道から、ゴブリンの首筋を斬り裂く。

 話には聞いていたが、勢いよく血が流れ、間も無くしてゴブリンは動かなくなった。


 そこへ、オムニスがやって来た。

 

「なかなかやるな」

「ずっと見てたんですか?」

「すまないが、お前を試させて貰った」


 命の危機を感じた分、不満はある。それでも、オムニスにとって一連の戦闘が、俺と言う人間を見極める為に、重要だった事は分かる。

 異世界の住人。しかも、オムニスにとって普通に走っただけで負荷のかかる、ひ弱な子供だ。

 幾ら、知識だけが目的だとしても、自分の協力者として吊り合いが取れ、敵に立ち向かう意思があるかを判断されたに違いない。

 

 この世界は、ゲームじゃない。だから、オムニスだって生きる事に真剣な筈だ。 

 それなのに、俺が足を引っ張って危険に巻き込まれてしまっては協力関係など維持出来ない。


 自分が生きる為に不必要なら、切り捨てるのが懸命だ。



 オムニスは、俺の持つ『虚飾』の効果を事前に知っていた。だから、俺が死ぬ心配はしていなかったのかもしれない。


「それで、俺は合格ですか?」


 俺の返答に驚いたのか、それとも満足のいく答えだったのか、オムニスの表情が変わった。


「無論だ」


 どうやら、オムニスの御眼鏡にはかなう事が出来た様だ。

 正直、オムニスに見限られた場合、俺は殆ど詰んでしまう。


「良かった……」

「所で、そろそろ日が暮れるぞ」

「なら、後一箇所くらい店の物資を回収したら帰りましょう」


 夜は敵が見えないし、危険が多そうだと判断して探索は切り上げる事にした。


 ショッピングモールにいた人間は、オムニスがモンスターを倒している間に裏口から逃げてしまったらしい。

 ショッピングモールから出る前に、建物内のドラッグストアに寄って商品を回収しておく。流石に、薬や消毒薬があるとないでは、今後の安全性が雲泥の差になりそうだったのでオムニスにも協力して貰って回収作業を急ピッチで行った。


 帰りは、オムニスの背中に背負われる形で帰ろうとしたのだが、風圧で飛ばされ、砕けたコンクリートと泥の地面に頭と首と背中を強打しつつ、出荷されるマグロの様に地面を転がる事になった。

 おそらく、意識が2〜3回飛んだので『虚飾』が発動したのだと思われる。



《熟練度が一定に達しました。『風耐性』『損傷耐性』を獲得しました。》



 俺、HP:1だから、ダメージ減っても意味ないんだよ。

 でも、風耐性はありがとう。


「やはり、抱えた方が良くないか?」


 オムニスの言葉から、連れて来てくれる時のお姫様抱っこが彼なりのひ弱な俺への気遣いだったのだと漸く気付いた。


 あ、泣きそう……。


「……お願いします」


 次は大人しく抱えられて、マンションまで帰る事になった。





《熟練度が一定達しました。『風耐性』がLV:1→3にレベルアップしました。》

《熟練度が一定達しました。『精神耐性』がLV:1→2にレベルアップしました。》

《熟練度が一定達しました。『感情操作』がLV:1→3にレベルアップしました。》

《熟練度が一定達しました。『認識誘導』がLV:1→2にレベルアップしました。》

《熟練度が一定達しました。『疲労耐性』を獲得しました。『疲労耐性』がLV:1→4にレベルアップしました。》


 家に帰るまでの短時間とショッピングモールで溜め込んでいたと思われる熟練度のお陰で、スキルレベルが軒並みレベルアップした。

 更に、部屋で簡易拠点内の荷物を確認していると、簡易拠点とは別に『LVカード一覧』の文字が小さく映し出されていた。



=========


【LVカード】

・ゴブリン×1枚


=========



 どうやら、パーティーを組んでいるからといって経験値まで共有される訳ではないらしい。それでも、自分1人で漸くモンスターを倒せた事が何より嬉しかった。


 気持ちが軽くなった所で、ランプに照らされた置き時計の時間が6時を示している事に気付く。


 オムニスは、元々暗闇でも目が効くらしく剣に付いた汚れをショッピングモールから回収して来た布で拭っている。


 俺は、手を消毒してからガスコンロに火を付けて土鍋で料理をしていく。

 悪くなりそうな白菜や茄子などの野菜類を切って、緩くなった肉バラと土鍋で炒めて行く。具材に日が通ったら、水、ダシ、味噌、酒などの調味料を加えて、元々凍っていた筈の冷凍うどんを投入する。そして、仕上げとして溶けてしまったバターと卵を割り入れる。


 あぁ、ヤバい。匂いが悪魔的だ……。

 

「何だそれは?」


 オムニスも興味津々だ。

 

「これはだな、味噌バター煮込みうどんだ!」

「みそばたーにこみうどん……」


 待ち切れない様子のオムニスの分を更に盛る。


「あ、見た目ライオンっぽいけど、ネギ大丈夫?」

「どう言う意味だ?」

「アレルギーとかある?」

「あれるぎー?」

「食べた時に体が痒くなったり、息が苦しくなったりした食材はある?」

「……ないな」

「それは良かった」


 俺は、大きめのどんぶりに多めに煮込みうどんを盛る。それを、オムニスは長めに「フーフー」と息を吹き掛け、冷ましてから食べていた。箸は使えないので、フォークで器用に口に運ぶ。


「美味いっ!」 

「良かった……」



《熟練度が一定達しました。『料理』を獲得しました。》



 たった1回しか料理をしていないのに、もうスキルが手に入った。

 もしかしたら、スキルの獲得に関係する熟練度はステータスが適応される前の過ごし方も関係しているのかもしれない。それに、思い出してみれば、選択可能だった職業も自分に関係ある物ばかりだった気がする。


「て、あれ?」


 考え事をしている間に、土鍋の中のうどんが殆ど消えていた。


 馬鹿な。3玉も煮込んでいたのに。


「美味い、美味いっ!」


 いつの間にか、オムニスの食べる速度が上がっている。


 もしかして、熱耐性の様なスキルを獲得したのか?


 だが、これぐらいでは俺は諦めないぞ。


 俺は、簡易拠点から冷凍ご飯(自然解凍済み)を取り出して鍋に入れる。そして、その上からとろけるチーズをかけた。


「な、それはっ」

「これこそ、味噌バター風おじやだ!」

「みそばたーふうおじや、だと……」

「まだ食べれるか?」

「ふっ、無論だ」


 結果、2人で「フーフー」しつつ食べた。


 後片付けを始める時も、水を節約する為に最低限の水で洗い流し、ウエットティッシュや消毒液を用いて綺麗にした。



 ランプの灯を消して、ベッドに入る。オムニスは、隣のリビングで休むとの事だ。一応、布団などは準備しておいた。

 

 寝る前に、ステータスを確認しておく。



=========


名前:サイガ・アキラ【神呪ペナルティー:All 1】

LV:1

職業:道化師

副職業:選択不可

ーーーー

HP(体力):1(10)

MP(魔力):1(30)

STスタミナ:1(10)

ーーーー

STR(筋力):1(4)

DEX(器用):1(21)

AGI(敏捷):1(4)

VIT(耐久力):1(3)

INT(知力):1(13)

LUC(幸運):1(40)


SP:2


《固有スキル》

愚者

虚飾


《特殊スキル》

独占の欲望LV:1


《スキル》

簡易拠点LV:5

認識誘導LV:2

感情操作LV:3

器用強化LV:2

窃盗LV:3

度胸LV:2

変装LV:1

料理LV:1


《耐性スキル》

精神耐性LV:2

損傷耐性LV:1

疲労耐性LV:4

風耐性LV:3



〈パーティー〉

1.オムニス


=========



 そういえば、『独占の欲望』とかいう特殊スキルを獲得していたんだな。



=========


特殊スキル:『独占の欲望』

・周囲にあるアイテム類の気配を鋭く感知する。

・敵対者の能力値を徐々に低下させる。

・一部の耐性スキルを除き、スキルでの防御は不可能。


=========



 なるほど。名前はともかく、能力は俺のスタイルに合ってるな。


 取り敢えず、俺のスタイルは『生存第一or隙あれば付け込む』……これで暫くはやって行くつもりだ。

 

 正直、今のまま【傲慢】のユニークモンスターを探すのは現実的ではない。それに、ユニークモンスターと呼ばれるモンスターが弱い訳がないんだ。

 まずは、1日を慎重に過ごすべきだな。






 思ったよりぐっすり眠れた。


 置き時計の時間は、6時を示している。

 体を伸ばし欠伸をすると、リビングに向かう。

 リビングでは、オムニスが俺の通う高校で使っている化学の教科書や歴史の教科書を読んでいた。


「おはようございます」

「……?」

「すみません。もしかして、こう言う習慣ってありませんでしたか?」

「確かに、俺達に『おはようございます』と言う習慣はなかったな。だが、お前と過ごすのだ。俺が慣れれば問題ない」


 見た目は凶悪だが、オムニスの理性的で柔軟な性格は素直に凄いと思う。

 最初に出会った時から、オムニスの行動は理性的で尊敬すべき点は幾つもある。


「それと、偶に出る敬語は辞めてくれ。俺とお前は協力関係にある。上も下もない」

「えっと、分かった……。でも、俺の名前は暁なんだけど……」

 

 尻窄みして行く俺の声を聞いていた筈のオムニスの視線は、読んでいた本に戻る。


「知っているぞ?」


 だったら、名前で呼んで欲しい……と思うのは俺の我儘なのだろうか。


「……それ面白い?」

「『言語翻訳』のレベルが低い所為で時間がかかるが、読んでいると面白いな」


 本に向かうオムニスの視線は、戦いに向かう時の鋭さとは違い、丸みや柔らかさすら感じる。


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