第2話 世界の機能
デカイ。
外で会った時から大きいと思っていたが、オムニスの身長は2メートル以上はある。
だが、これで鬼人の中では小柄だと言うのだから驚きだ。
外で何時迄も話をしていては危険だと思って部屋に連れて来たが、途中で逃げ遅れた人と出会わなかった事に安心する。
悲鳴を上げられたりすれば面倒だし、落ち着いて納得して貰える根拠は持っていない。
今の所、場所を移動する事を考えていないが、最悪移動した方が良いかもな……と、今後の事を考えながら背後を振り向くと興味深げに電化製品を触るオムニスが目に入る。
纏っていたローブは、汚れていたので玄関で脱いで貰ったけど、脱いだ下から現れたのはドワーフ製だという灰色の鎧だ。
ますますファンタジー地味て来た単語を聞いて、ドワーフなどに出会える可能性のある世界に、少しだけ期待した事は胸の奥にしまっておく。
何より、生き残る為の問題が山積みなんだからな。
取り敢えず、賞味期限的に置いたままにしていた食パンとジャムをオムニスの前に置き、ぬるくなってしまったが飲めそうなので牛乳もコップに注ぐ。
またしても、興味深けにパンやジャムを見比べて、一口食べた瞬間次々と「美味い美味い」と呟くオムニスの口の中に食パンとジャムが消えて行く。
食欲のあまりなかった俺の食パンも半分以上を食べて、ご機嫌なオムニスは、また部屋を眺め始める。
「あの……」
「すまない。先ずは、情報共有からだな。と言っても、この周囲の地形は俺のいた場所……いや、世界とは変わり過ぎていて参考にならないな」
「地形に付いては同意見です」
俺とオムニスの考えた答えとしては、互いの世界の特徴が混ざり合っている事から、互いに住んでいた2つの世界が混ざり合ってしまったのだろう、とファンタジー全開の見解となった。
その原因として考えられるのが、最高位管理者だが、調べる方法もなければ確かめようもないので保留となった。
「次は、ステータスだな」
「ステータス?」
「レベルが上がると勝手に表示される。意識して念じてみろ」
オムニスに言われた通りに念じて見ると、目の前に半透明な板が出現した。
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名前:サイガ・アキラ【神呪:All 1】
LV:1
職業:
副職業:
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HP(体力):1(10)
MP(魔力):1(10)
ST:1(10)
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STR(筋力):1(4)
DEX(器用):1(5)
AGI(敏捷):1(4)
VIT(耐久力):1(3)
INT(知力):1(3)
LUC(幸運):1(30)
SP:2
《固有スキル》
憂鬱
虚飾
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自分のステータスの能力値が、全て『1』になってる。
嫌な予感がして、【神呪:All 1】の欄に触れてみた。
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【神呪:All 1】
・全てのステータスの能力値が『1』になる。
・システム適応前の身体能力のみ維持される。(効果やスキルによる能力値上昇は無効化される)
・レベルアップ不可。
・獲得予定の経験値は、特殊アイテム『LVカード』として保管される。(譲渡可能)
・スキルのレベルアップ可能。
・ユニークモンスター【傲慢】の『?????』を討伐する事で解呪可能となる。(第三者討伐でも可能)
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糞ゲーじゃねーか!
何だ、このバグみたいな呪いは!
ステータスやレベルがある時点で、レベルアップする事で強くなるのは間違いない。それなのに、『全能力値1』『レベルアップ不可』とは死刑宣告に等しいじゃないか!
幾らスキルのレベルアップが可能とはいえ、スキルを手に入れる前に死んでしまう。
「どうした?」
嘘を突き通せる自信がなかったので、恩人であるオムニスには正直に神呪に付いて話す事にした。
「まずいな……」
分かってる。絶望的だって事は分かってるから、そんな目で見ないでくれ。
そういえば、他にもスキルがあったような……。
か細い、蜘蛛の糸にでも縋り付く想いで残りのスキル2つの欄に触れた。
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固有スキル:『憂鬱』
・戦闘で獲得出来る経験値が、半減する。
・スキルの熟練度が倍増する。
・職業:『道化師』開放。
固有スキル:『虚飾』
・身体的、精神的な外傷となった事象を夢幻へと改変する。
・自動発動と任意発動が可能。
・スキル発動の度に、能力値が半減する。(最後にスキル使用24時間後に、元に戻る)
・自分と相手の全ステータスを『半分』にする事で、1日に3回だけ他者に『虚飾』を適応させる。(条件:相手との接触)
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要するに、これはチート能力だ。
いや、普通に【All 1】のない人達からしたら微妙な能力かもしれないが、俺にとっては唯一無二と言って良い程のチートスキルになる。
まず、【神呪】による効果で、スキルのデメリットは殆どない。そして、唯一の例外であるスキルは、『憂鬱』による熟練度倍増の恩恵を受ける。
「どうした?」
先程までは哀れみの込められていたオムニスの視線が、不可解な者に向ける様な訝しんだ視線に切り替わっていた事に気付く。それでも、地獄から救い出された気分の俺にとって気に留める程のことではない。
「固有スキルがチートだった」
「ちーと?」
言葉は通じても、ゲームやアニメの様な娯楽で使われる言葉を知らないオムニスに『チート』の意味と俺のスキルについて説明する。
最初は冷静に聞いていたオムニスの表情は、俺の話が終わる頃には、表情だけで人を失神させる事が出来そうな程に険しくなっていた。
あれ、なんかまずい事でも言ったかな。
冷静を装って、ぬるいペットボトルの水を一口飲んでおく。
「ちなみに、他にスキルはないんだよね……」
沈黙が嫌で、他のスキルを持っていない事を伝えると『ギラリッ』と効果音がしそうな勢い睨み付けられた。
もしかしたら、ただ単に見てきただけかもしれないです……はい。
「いや、充分だ。改めて、俺に協力して欲しい」
《半獣鬼人『オムニス』から、パーティー申請が送られて来ました。受諾しますか?》
突然聞こえて来なかった声に、少し驚いたが、今更迷う事はない。
『YES/NO』の欄がなかったので、心の中で、「受諾する」と念じる。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
《人間『サイガ・アキラ』が、『オムニス』のパーティーに参加しました。》
俺がパーティーに参加した後、オムニスが自分のステータスに付いて教えてくれた。
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名前:オムニス
LV:3
種族:鬼人(?)
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HP(体力):160
MP(魔力):55
ST (スタミナ):96
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STR(筋力):100
DEX(器用):49
AGI(敏捷):62
VIT(耐久力):85
INT(知力):44
LUC(幸運):12
《特殊スキル》
野獣の本能LV:1
鬼血覚醒
《スキル》
収納(武具)LV:1
筋力強化LV:2
敏捷強化LV:2
耐久強化LV:2
言語翻訳LV:4
自動治癒LV:1
交渉術LV:1
剣術LV:3
体術LV:2
咆哮LV:1
威圧LV:1
怒りLV:3
《耐性スキル》
呪い耐性LV:5
出血耐性LV:3
精神耐性LV:2
毒耐性LV:1
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「調子に乗ってすみませんでした」
取り敢えず、謝っておく事にした。
てか、強すぎるだろ。
もしかして、これが普通なのか?
頼む、誰か嘘だと言ってくれ。
分かりきってはいたが、現実は残酷だ。
人間と鬼人の種族的な差や歴戦の猛者感を出すオムニスと学生の俺では、ステータス的な能力差が現れて当然だ。となると、ある仮説が成り立つ、ステータスの能力値は単なる数字ではなく、その人の持つ能力によって大きく変化する可能性が考えられる。
例えば、重量挙げの選手ならSTRが高く、学者ならINTが高いなどだ。
だが、それだけで種族間の差を超えられるとは思えない。
「良くは知らんが、気にするな。俺とお前では、強みが違う」
「それだ!」
「?!」
オムニスが嘘を言っていなければ、モンスターのステータスには『職業』『副職業』『SP』がない。
一応確認してみたが、やはりオムニスのステータスに『職業』などの欄は存在しなかった。
これから考えられるのは、人間は『職業』『副職業』を獲得する事によって、自分の強みを伸ばしたり、予測が難しい独自の戦略を創り出す事が出来る。その上、『SP』=ステータスポイントを振り分ける事で、能力値の上昇をコントロールする事が出来る。
だが、オムニス達の様なモンスターは違う。
モンスターの強さは職業に応じたスキルや恩恵ではなく、種族的なポテンシャルから来る強さが大きく関わっている。そして、モンスターにとってのスキルは、自分が本来持っている力を底上げする力、と考えられる。
分かりやすくステータスを例えるなら、人間の場合は加工前の鋼だ。作成者の意思によって、様々な武具に姿を変える柔軟性を持っている。
モンスター達の場合は、完成した武具そのものだ。加工を目的にするのではなく、敵を屠り、身を守る事に特化している。
結果的に分かったのは、どちらにも強みはあり、弱みもあること。それ故に、高いステータスを持つ者同士の戦いは、自分が見出した強みの押し付け合いになる事は想像するのに難しくない。
問題は、俺の強みが『生存』にのみ特化している事だ。
幾ら、『憂鬱』の能力でスキルを強化した所で基礎となる能力差が神呪の所為で、全て『1』。システム適応前の身体能力が維持されていると言っても、鍛えてもいない高校2年生レベルだ。高が知れている。
さっきまでは、スキルレベルを上げれば何とかなると思っていたけど、限界は近そうだ。
「何か気になるのか?」
「すみません。俺、足を引っ張る事になるかも……」
「構わない。元々、俺が期待したのはお前の知識だからな」
隠し事をしないオムニスの言葉は有り難かったが、同時に『戦力として期待はしていない』と言われている様で胸が痛い。
「……そうですか」
先程、俺のステータスの神呪について説明した時に「充分だ」って言った理由は、戦力として考えていなかったからか。
気づくのが遅過ぎだろ。
何か、分かってはいるけど、やるせないな。