第17話 新しい力
両手の掌に、濡れても良いと言われた包帯が巻かれた状態で風呂に入っている。
久しぶりにお風呂に入れて嬉しいが、お風呂の後に包帯を変えなければいけないので、同じ痛みを味わうかと思うと気分が憂鬱になる。
「良い湯だなぁ、アキラよぉ」
「ぉお!?」
「さっきからいただろぉが」
「全く気付きませんでしたよ!」
気配どころか、存在そのものを消して現れてる気さえする程に神出鬼没なアラド。
心臓が未だに、驚いた所為で激しく拍動を繰り返している。
「まぁ、お前ぇとは年季が違うからなぁ」
突然現れて、隣に座っているアラドは、自前で持って来ていた酒瓶から直接酒を飲む。その表情からは、アラドが何を考えているのかを読み取る事は出来ない。
視線は俺には向けられず、何処か遠くを見ている様にも見える。
「どうだった?」
「どうだった?」とは、おそらく霊樹を斬って……という事だろう。
「……安心しました」
「何がだぁ?」
「霊樹の希望に、答える事が出来た事がです」
その時、アラドが俺を見ている事に気付く。
満月の様な瞳と銀色のオッドアイが、俺の心を見通すかの様な不思議な光を宿している様に見える。
「お前ぇ、声を聴いたんだなぁ?」
「……多分」
「くくく…がはははは!」
アラドは、風呂場で大声で笑う。
「そうかい。なら、奴は本望だったなぁ」
「師匠も聞こえるんですか?」
「ああ」
「俺で良かったのでしょうか?」
「そいつを決めぇんのは、己等じゃあるめぇよ」
お湯に濡れたアラドの手が、頭に乗せられる。
「だげどよぉ。良くやったぜ」
「……はい」
古傷だらけのアラドの手は、優しく温かかった。
「お前ぇ自身はどうだ?」
酒を煽り、俺の返答を待っている。
俺は、ゆっくり考えて、思ったままに話す事にした。
「弱さにも、色々ある事を知りました」
「ほぅ?」
「強くなるには、弱いままじゃいけないと思ってました。でも、弱さがあるから、人は強くなれる事を教えてもらいました」
「そうかい」
再び酒を煽ったアラドは話し出した。
「ウルルの民が、何の為に剣を振るうと思う?」
そんな事を急に言われても、今日来たばかりの俺に分かる筈もない。
だが、師匠であるアラドの問いなので自分なりに必死に考える。
「生きる為、とか?」
「間違っちゃいねぇな。元より、決まった答えなんてぇ、ありゃしねぇがなぁ」
アラドは、ニヤリと笑みを浮かべた。
「だがよぉ。少なくても、己等は弱い奴の為に、刀を振るってるつもりだ」
「……」
「弱いからって、死んで良い訳がねぇ。弱いからって、無慈悲に踏み躙られて良い訳がねぇんだ」
「……」
「護る者と奪う物を決めぇんのは、そんな下らねぇ理屈じゃなねぇ。善悪も関係ねぇ」
「師匠……」
「アキラよぉ。俺の弟子になった限りは、自分の中にある魂に従え。良いな?」
「それは……状況によるかと…」
「ガハハハ!お前ぇらしい答えだな、おぉい」
普通怒っても不思議じゃない所で、アラドは笑い出した。
「さっきも言ったがぁ、今のは俺の考えだ。アキラは、自分の信じる物を信じなぁ」
自分の信じる物……と、言われても難しい。
俺は、その場で最も必要だと思う事を選びたいと思っている。
だが、機械の様に常に無感情でいられる訳ではない。
天猫御殿に来て、自分に必要な選択ではなく、自分が望む選択を何度もしてしまっている。その結果を後悔しているかと問われれば、後悔はしていない。
もしかしたら……の話などをすれば、後悔のない選択など最初から何処にも存在はしていないだろう。
「明日は、出かけるぞぉ」
急にアラドに話しかけられて、意識が思考の深みから戻って来る。
「え、何処に?」
問いかける俺に、アラドはニヤリと笑って教えてはくれなかった。
天猫御殿に用意された部屋に、布団が引かれていた。
オムニスは、最初に部屋に戻って来ており剣や鎧の確認をしている。
「包帯は変えて来たのか?」
「うん、まぁね……」
ヴァッシュの処置は、加減がない為、正直辛い。
「そうか。今日は、どんな事をしていたんだ?」
オムニに問われて、オムニスの正面に座った俺は今日あった出来事を話した。それを聞いていたオムニスは、真剣な顔をしたり、考え込んだり、と様々な表情を見せてくせる。
「霊樹か」
「知ってる?」
「勿論だ。限られた地域にのみ自生し、魔力を溜め込む大樹だ。だが、一説には魔力を過度に溜め込んだ霊樹はモンスターになると言われている」
「マジか……」
「詳しい事は、俺も知らん。前提として、長齢な霊樹は珍しいからな」
「そうなんだ」
「ウルルがどうだかは、知らんぞ」
思い出してみれば、そこら中に似たような大樹があった気がする。
次に、俺はオムニスが何をしていたのかを問いかけた。
「若頭達や兵士と訓練をしていた」
更に、どんな訓練をしていたのかを聞くと実戦に向けた戦闘訓練や実際に隠れ里の外の調査などを行なっていたそうだ。ヴァッシュに付いて、俺の住んでいた街に一旦戻ってユニークモンスターの調査を行った様だが変化は今の所無い様だ。
オムニスの話を聞くと、俺が樹を1本斬っている間に色々な冒険をしている様に感じる。
「あれ、若頭達?」
若頭は、ヴァッシュだけじゃないのか。
「どうやら、若頭は2人いるようだ」
「へぇ、どんな猫妖精だった?」
すると、オムニスは難しい表情を浮かべた。
「色々な意味で天才、だ……」
「凄い奴って事?」
「それは間違いない。彼女は、俺の出会った事がない部類の天才だ」
オムニスが言い澱む程の猫妖精なんて、一度は見てみたいな。
そんな事を考えながらオムニスと会話を行う。そして、区切りが良い所で会話を辞めてステータスを確認する。
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名前:サイガ・アキラ【神呪:All 1】
LV:1
職業:道化師
副職業:選択不可
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HP(体力):1(10)
MP(魔力):1(30)
ST:1(10)
ーーーー
STR(筋力):1(22→34)
DEX(器用):1(42→45)
AGI(敏捷):1(4→34)
VIT(耐久力):1(15→33)
INT(知力):1(28→43)
LUC(幸運):1(40→70)
SP:2→12
《固有スキル》
龍脈之王
憂鬱
虚飾
《特殊スキル》
独占の欲望LV:5
賢者の才
天之太刀
《スキル》
簡易拠点LV:8
心象操作LV:1→5
身体強化LV:1→6
急所突きLV:5
水魔術LV:3→4[+水球、+水壁]
刀剣術LV:5→6
窃盗LV:5
勇気LV:1→3
変装LV:3
料理LV:4
槍術LV:2
推測LV:1→3
《耐性スキル》
苦痛耐性LV:7→8
精神耐性LV:9→10
損傷耐性LV:9→10
過労耐性LV:3→4
属性耐性LV:3
痛覚耐性LV:4→6
侵食耐性LV:1
〈パーティー〉
1.オムニス
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固有スキル:『龍脈之王』
・龍脈から直接魔素を引き上げ、能力を向上させる。
・負担は、受け皿となる器によって変化する。
・魔素を見る事が出来る。
特殊スキル:『天之太刀』
・魔力と魔素を濃縮した太刀。
・威力は注いだ魔力と魔素によって変化する。
スキル:『心象操作』
・感情や認識を含め、印象なども操作可能。
スキル:『身体強化』
・レベル×能力値+5となる。
スキル:『刀剣術』
・刀術と剣術を統合したスキル。
スキル:『勇気』
・精神関係のスキルに抵抗が失敗しても、時々無効化出来る。
スキル:『推測』
・可能性のある未来を推測する事が出来る。
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いつの間にか、固有スキルと特殊スキルが増えていた。
しかも、2つともイマイチ効果の内容が理解出来ない。
確か、龍脈って言うのは、地面の下を流れる力の流れ……の様な物だった筈だ。それを『龍脈之王』は、自在に汲み上げて自身の力に変える事が出来る。それは分かるが、『負担は器によって変化する』と言われても難しい。
もし、この『器』がレベルの事を指すなら、レベル1の俺にとって自爆スキルにも等しい物になる。
このスキルは、後々確かめていくしか無さそうだ。
『天之太刀』は、龍脈から汲み上げた魔素を使えば、それなりの威力は出せるだろう。
だが、魔力や魔素を込めた時の実際の威力は確かめる必要がある。
他にも、スキルや耐性スキルも強化されている様だが、特に変わった内容はない。
ただ、耐性スキルの説明が一々〜〜の耐性を上げる……としか書いてないので、それでは説明の意味がないと感じつつあった。
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月を蜘蛛が覆い隠した深夜。
商店街の奥で、黒い群れが蠢いている。
蜘蛛型モンスター達が動く足音。キチキチといった不可思議な音が、商店街の家々に響く。
生き残っている人々は、窓を閉め恐怖に怯えていた。
逃げ出した住人は、1人残らず捕まってモンスターの餌にされてしまった。子供が騒いだ家は、窓を割り、壁を破壊され、住人が連れて行かれた。
生き残った住人は、恐怖と目に焼き付いた光景に狂いそうな心を必死に堪える。
「もう駄目……」
「大丈夫。皆いるから」
「舞衣さん、ごめんなさい」
「良いのよ。弱音を吐いても」
悪戯っ子の様な明るい笑みを浮かべた女性も疲労の色が濃く現れ、弱音を吐いた少女と同じ隈がくっきりと浮かんでいる。
「お母さん達……」
「また怖い夢を見たの?」
自分達、大人を含めて、子供も眠る度に道を歩くモンスターや襲われる人々の悲鳴が聞こえてくる気がして眠れない。
眠れたとしても、悪夢でうなされていた。
偶然にも、目の前に座る女子高生と一緒に籠城する事になった女性ーー熊谷舞衣も明るく振る舞っているが、既に限界は近い。
夫の仕事柄、食料には余裕が未だあるが、精神的には狂っても可笑しくないと舞衣は思っていた。それでも、明るく振る舞えるのは、12歳になったばかりの娘と偶然助けた高校2年生の少女がいてくれるおかげだ。
(私が挫けちゃ駄目。私が、しっかりしないと……)
3人で抱き合い、恐怖を紛らわす。
その時、何処からか悲鳴が聞こえた。
おそらく、食料がなくなり、一か八か脱出を試みた住人が捕まったのだ。
この商店街は、既に蜘蛛型モンスターの巣だ。脱出する事は、容易ではない。
助けを呼ぶ事は出来ず、外の状況を確かめる方法もない。
今は、時折聞こえてるモンスターの足音に怯えながら生きるしかない。
「大丈夫よ。必ず、助けが来る筈だから……」




