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第15話 届かぬ刃


 アラドの言葉に、唖然とする。


 わざわざ僻地まで呼ばれた理由が、顔が見てみたかっただけだ、と言われれば、発する言葉なんて思いつかない。


 だが、息子と思われるヴァッシュは威勢よく吠えた。


「某は、便利な運び屋じゃないのニャ!」


 含み笑いの様な笑みを浮かべたアラドの視線が、俺達の方へと動く。


「と、思ってたんだがぁ。お前ぇさん等の面ぁが、気に入った。どうだ、お前ぇ等さえ良けれりゃ、強くなってかねぇか?」

「ちょ、何言ってるニャ?」

「何がだぁ?」

「里や外の事だって大変な時ニャのに、2人も弟子を取るなんて無茶だニャ!何かがあったら、どう責任を取るニャ!」


 確かに、ヴァッシュの話では隠れ里『ウルル』も世界が混ざり合った事による混乱の渦中の中に巻き込まれている。そんな中で、俺達の様な外部からの人を抱え込んでは、問題が起きて、迷惑をかけるかもしれない。

 反対に、俺達が巻き込まれる側になる可能性だってあるのだ。それに、【強欲】のユニークモンスターも件も片付いていない。

 オムニスの意思と一旦相談する必要がある。俺1人で判断出来る話ではない。


「己等達の稼業に、リスクは付き物だろ?それに、選ぶのは己等じゃなく、お前ぇ等だ」


 いざ、判断を迫られて、俺は迷っていた。

 隠れ里に来て、様々な事に圧倒されて、考えが上手く纏まっていない気がする。


「……」


 アラドの目を見た。選択を委ねる者とは思えない、見定める者の揺るぎない瞳だ。

 その瞳が、言外に『お前は、どうする?』と問いかけている。他の誰かではなく、『俺』という自分自身が何を選び、掴み取ろうとしているかを。


 答えが決まっているのに、迷った振りをしている自分が情けない。


 また、あの声が聞こえる。

 必死に助けを乞う人の声が。それに答えられない、弱い自分の声が聞こえる。

 あの時の光景が忘れられない。

 自分は、今の家族に、オムニスに救って貰えた。なのに、俺は誰も救えない。

 そんな自分の弱さが嫌いだ。現実から目を逸らして、弱さと向き合った気になって、正当化しようとしている自分自身が大嫌いなんだ。


「……お、」


 俺も、救われる側じゃなく、救う事を選べる側の人間になりたい。


 人と関わるのは、面倒で苦手だ。人の無自覚な悪意や汚い側面は、嫌と言う程見た。だから、他人が困っている時に、手を差し伸べられる自信はない。

 多分、その気持ちは変わらない。


 だけど、手を差し伸べないのと、差し伸べる手すらないのでは全く違う。

 

「俺達……いや、俺は、強くなりたいです。だから、弟子にして下さい!」

「く、クカカカ!やっぱり、お前ぇは良いなぁ」


 上機嫌に笑うアラドの声が、天猫御殿に響き渡る。ヴァッシュは、口を大きく開けてアラドを見つめていた。


「で、お前ぇはどうする?」

「……俺も強くなりたい。だが、弟子には……」


 オムニスは、アラドの弟子になる事は決断出来ない様だ。


「勘違いすんなよ?俺は、強くしてやるとは言ったがよ。必ず、弟子になれとは言ってねぇ」


 どうやら、弟子になる必要はなかった様だ。


 ヴァッシュの言葉を聞いて、咄嗟に「弟子にしてくれ」と頼んでしまったが、自分は大変な事を言ってしまったのかもしれない。


 だが、後悔をするには時既に遅し。


「まずは、お前ぇだ。行くぞ」


 立ち上がって、足音も立てず歩いて来たアラドは、俺を脇に抱える。

 すると、天猫御殿の開け放たれた廊下に出る。

 眼下には、昔ながらを思わせる街並みが広がっていた。高い場所にある事から、眺めが良い。


「そんじゃぁ、行くぜぇ」

「え?」


 確認するより早く、アラドと俺の体は空中にあった。既に、天猫御殿は後方に小さく見えるのみとなり、俺達の体は重力に引かれて下に落ちるだけとなっている。


「ひとっ跳びとはいかねぇが、直ぐに着くからなぁ」


 アラドの言葉から、天猫御殿からここの空中まで跳んだ、のだという事が分かった。


 だが、そんな出鱈目な跳躍力が存在している事が信じられない。そして、次にアラドは、何もない筈の空中を蹴ったのだ。


「!?」


 しかも、森に向けて加速しながら空中を駆けている。それなのに、脇に抱えられている俺には全く負荷がない。


 何もかもが理解が及ばない。


 着地の時でさえ、衝撃や物音ひとつしなかった。


「……」


 地面に降ろされた俺は、靴を履く事も忘れてアラドを見上げる。

 当のアラドは、呑気にキセルを咥えていた。


「でぇ、何で強くなりてぇんだ?」

「え?」

「お前ぇは、俺の弟子になったんだぁ。師匠の己等に、お前さんの心の内を話してみな」


 突然そんな事を言われても、言葉が纏まらない。


「言葉なんてぇのは、不恰好なくれぇが丁度良い。着飾る事も、格好付ける必要もあるめぇよ。大事なのは、お前さんの魂が、どんだけ本気かってぇ事よ」


 俺の考えている事を見透かした様な言葉を聞いて、何故だか決心が付いた。

 言葉を必死に纏めて、取り繕うとしていた思考を捨てて言葉を紡ぐ。伝わるかは分からないけれど、自分が思うままの言葉を。


「俺の父さんと母さんは、事故に巻き込まれて死にました。事故の直後は、息が合ったのに、俺は何も出来なかった」


 他人は、皆「しょうがない」「君の所為じゃない」って言うが、そんな一言で片付けられるような事じゃない。

 無力で、無知だった俺は、目の前の『死』が恐くて泣き叫ぶ事しか出来なかった。


「昨日、家族を救う為に、力を貸して欲しいって言われました。俺は、それを断った」


 無意識に食いしばっていた奥歯が、『ギリィ』と音を出す。

 口に出すまで悩んでいたのが嘘の様に、心の内にあって、俺が目を背けていた言葉が次々と溢れ出して来る。


「俺に、人を救う力がないから。誰よりも、弱いから。尤もらしい言い訳をして、俺はあの人の思いを拒絶した。家族を失う絶望感や後悔を俺は、知っていた筈だったのに……」

 

「面倒だから、他人だから、人間だから、目を背けてた。あの時の俺は、救う事を選ばなかったのではなく、俺にはそれしか出来なかったんです」


「俺は、家族を失ったあの頃と何も変わっていない。無力なままだ。だから、変わりたいんです。自分で、自分の選択を選び取る為に」


 急に色々話してしまったが、アラドにとっては何もかも知らない自分勝手な話だ。


「良いなぁ、おい。お前ぇの魂を感じたぜぇ」


 キセルを懐にしまったアラドは、代わりに空中から鞘に収まった刀を取り出した。


 アラドが刀を抜くと、刀身が途中で折れて無くなっていた。それ故に、刀と呼ぶには短く、脇差と呼ぶには長い、半端な刀となっている。


「こいつぁ、己等の刀だ」


 そんな事は、見れば分かる。


「ほれ、くれてやる」


 刀身を鞘に収めた刀を渡された。


「え、ありがとうございます?」

「己等からアキラへの修行内容は、刀で霊樹を斬り倒す事だぁ」


 そう言ったアラドが視線を向けた先には、木と呼ぶには逞し過ぎる幹をした大樹が生えていた。周囲の木々よりも、年月を感じさせる姿は、観ていて圧巻である。


「霊樹ってぇのは、周囲の魔素マナを取り込む性質があるんだが、溜め込み過ぎるとモンスターを呼び寄せちまう」


 アラドの話では、霊樹は魔力を溜め込み土壌を豊かにするらしいが、溜め込み過ぎると害となるモンスターを引き寄せてしまうらしい。その為、定期的に森にある育ち過ぎた霊樹を里の者達は伐採している。

 『それだけ?』と思うかもしれないが、【神呪ペナルティー:All1】を持つ俺にとって大樹を刀で斬り倒す事は、とてつも無く困難な事なのだ

 まず、圧倒的にSTRと技術が足りない。

 

「あの、実は」


 本来なら、最初に話すべきだったステータスに付いて話そうとすると、手で制された。


「己等は、【神呪ペナルティー】や能力が低いアキラだからこそ、この修行が必要なんだぁと思うぜぇ」

「俺のステータスの事まで……」


 俺が教える前から、アラドには、全てお見通しだった様だ。

 一見、無謀な修行の様に思えるが、自分より遥かに強く、思慮深い筈のアラドの言葉を信じる事にする。


「分かりました。やってやります!」

「クカカカ、良い面してらぁ」


 アラドが見ている前で、鞘から剣を抜き構える。両手に力を入れて柄を握り、俺の体より遥かに太い霊樹に向かって刀を振り下ろした。


 だが、『ガギィン』と鈍い音を上げて、刀身は霊樹から弾かれる。


「!?」

「魔素を溜め込んだ霊樹はぁよぉ、殻の様なもんで身体を覆っちまうのさ」


 再びキセルを咥えて火を付けたアラドは、煙を霊樹の枝に向けて吐き出す。


「その後は、モンスターを集める元凶になぁっちまう。気ィ引き締めろよぉ?」

「はい!」


 アラドがオムニスの修行の為に、場から去っても、俺は実直に刀をふり続けた。    

 基本的な刀の握り方や振り方は、アラドから習ったが未だ違和感がある。それも当然だ。俺は、剣道は元より、世界が交わった後の戦闘でも、上段から剣を振り下ろす経験などなかった。それ故に、刀を振り続ける事が、これ程辛い事だとは知らず、刀身が途中から折れているにも関わらず刀が重く感じる。


 息が上がり、草や苔に覆われた地面にへたり込みそうになると、オムニスの戦う姿を思い出した。

 オムニスは、刀よりも何倍も重い筈の剣を振るい戦い、俺を護ってくれていた。


ーー俺も、あんな風になりたい。


 憧れと呼ぶには、気恥ずかしい感情。だから、せめてオムニスの隣に立てる人になりたい。


「ーーっ!」

 

 突然、掌に痛みが走った。

 今まで感じていた痛みとは、別の痛みに視線を向ける。

 掌の皮が捲れ、赤い内側の皮膚が見えていた。

 俺は、『水魔術』で作り出した水で傷を洗い流し、菌が入らない様に固定する。

 痛みは未だに感じるが、大した事はない、と自分に言い聞かせて刀をふり続けた。

 『虚飾』で傷を無かったことにしても、直ぐに皮膚が捲れてしまっては意味がない。

 その後も、ひたすらに霊樹に向かって刀を振るうも、アラドが『殻』と呼んだ壁の様な物を突破出来ず、霊樹自体には傷一つ付けられていなかった。

 その間も、頭の中にはシステムのレベルアップを告げる音が鳴り続ける。それでも、斬れない。届きすらしない。


 どうやったら斬れるんだ?


 当然の疑問ばかりが浮かぶ。

 アラドは、『俺だからこそ、この修行が必要だ』と言った。それなら、必ず修行を達成する方法がある筈。


「剣の速度…剣の角度…踏み込み…狙い…躊躇い…何が、足りない?」


 小声で自問自答を繰り返しながら、ひたすら刀を振り抜く。


 低い能力値であっても、短時間の休憩以外では常に刀を持ち、霊樹と相対していた。


 だが、斬れず、届きすらしない。


 自分に足りない物が多過ぎる事は知っていた。だからこそ、修行をして足りない『ナニカ』を補う必要がある。

 または、足りない『ナニカ』に代わり足る『ナニカ』を獲無ければいけない。


 俺に最も足りない物は何か?


 そんな物は決まっている。それは、『力』だ。

 腕力や筋力などではなく。敵を倒す為の、結果を引き寄せる力が俺には足りていないんだ。








=========


名前:サイガ・アキラ【神呪ペナルティー:All 1】

LV:1

職業:道化師

副職業:選択不可

ーーーー

HP(体力):1(10)

MP(魔力):1(30)

STスタミナ:1(10)

ーーーー

STR(筋力):1(22)

DEX(器用):1(42)

AGI(敏捷):1(4)

VIT(耐久力):1(15)

INT(知力):1(28)

LUC(幸運):1(40)


SP:2→12


《固有スキル》

憂鬱

虚飾


《特殊スキル》

独占の欲望LV:5

魔素マナ支配LV:2

賢者の才


《スキル》

簡易拠点LV:8

認識誘導LV:6

感情操作LV:8→9

筋力強化LV:2→6

器用強化LV:7→9

耐久強化LV:1→4

知力強化LV:4→5

急所突きLV:5

水魔術LV:3[+水球、+水壁]

窃盗LV:5

度胸LV:9→10……→勇気LV:1

変装LV:3

料理LV:4

剣術LV:4……→刀剣術LV:1→5

槍術LV:2

観察LV:7→9


《耐性スキル》

苦痛耐性LV:5→7

精神耐性LV:7→9

損傷耐性LV:8→9

疲労耐性LV:9→10……→過労耐性LV:1→3

属性耐性LV:3

痛覚耐性LV:1→4




〈パーティー〉

1.オムニス


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