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第12話 遭遇前



 「ふんっ」


 俺がスキルを掛け合わせてゴブリン1体の首をナイフで斬り裂く頃には、オムニスの足下には3匹のゴブリンが転がっていた。そして、逃げ出したゴブリンには、狙いを定めて〝水球〟を放つ。


 くそ、外した。


 距離が離れる事によって狙いがつけ難くなり、敵が動いているとなると余計に難しい。


「〝飛空斬〟」


 自分の低い能力値では、追いかけても無駄だと判断した側でオムニスが放った複数の斬撃が2体のゴブリンの動きを止める。

 オムニスが、どんどん人外(元々人外)への道を駆け足で進んで行く光景を目の当たりにした。


「止めを刺すぞ」


 俺達は戸惑いなく、ゴブリン達に刃を振り下ろす。



《熟練度が一定に達しました。『剣術』がLV:2→3にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『急所突き』がLV:3→4にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『水魔術』がLV:2→3にレベルアップしました。それにより、『水魔術』に[水壁]が追加されました。》



 戦闘を繰り返す事で、様々なスキルレベルが上昇している。

 特に、新しく獲得した〝水壁〟を早速使って見るが、名前の通り水の壁を作り出す効果があった。

 発動までのタイムロスを考えると、防御よりも、行動を阻害したり、視覚を作る事に使えそうな魔術だと考える。




 今日は、商店街への道を歩きながら、見落としがないように慎重に進んで行く。

 4日目となれば、食料品は食べれる物が限られて来るだろうし、それ意外の物資もモンスターなどに荒らされる前に回収しておきたい。それに、並行して戦闘経験を積んでスキルレベルを上げる事が今日の目標だ。

 

 現在は、大樹の影に隠れるようにあった事で見落としていたコンビニに住み着いていたゴブリンを討伐した。


「ふぅ〜」 



《熟練度が一定に達しました。『精神耐性』がLV:6→7にレベルアップしました。》

《熟練度が一定に達しました。『苦痛耐性』がLV:3→4にレベルアップしました。》



「どうした?」


 いつもより疲労している俺を心配したオムニスが、声をかけてくれた。


「魔術って、案外疲れるな」

「無理をするな。本来、戦闘は、俺の役目なんだ」


 棘のある言葉の様に聞こえるが、レベルの上がった『観察』によって、オムニスが不安そうな表情をしている事が分かる。


 だが、スキルのレベルを上げる事は、俺にとって唯一強くなれる可能性のある道だ。だから、妥協は出来ない。


「ごめん、オムニス。でも、少しでも役に立ちたいんだ」

「……全く。何か有れば、直ぐに頼れ。良いな?」

「分かった。ありがとう」


 前を歩くオムニスに続いてコンビニ内に入る。店内には、何の生物かも分からない骨が落ちており、壁や床は汚れている。

 俺は綺麗な所を探して、日用品や冷凍室に入っていた水やお茶、溶けてしまった冷凍の野菜類などを回収して行く。

 残念ながら、パンやおにぎりなどはゴブリンに荒らされ、食べれる状態ではない食料の方が多かった。隅々まで探したが、回収出来た物の質と量は、それ程良い物ではない。

 


 ここに来るまでの間、食料がなくなり、籠城が困難となった人々が逃げ出して、モンスターに襲われたと思われる痕跡を幾つか見つけた。

 突然の大災害だ。籠城している人々も、そろそろ限界だという事は嫌でも分かって来るだろう。だからこそ、今後どんな動きをするのか、見極める必要がある。


「………見られてるな」

「建物の中からか?」

「ああ」


 フードを深く被ったオムニスが教えてくれる。

 バスターソードを軽々と振り回している時点で、普通の人間とは思われていないだろうけど、姿を晒して騒がれると厄介だ。

 俺達は足早に、その場から立ち去る。

 

 俺に住んでいるマンションには、既に誰1人おらず、皆避難してしまった。そのおかげで、オムニスが自由に行き来出来ているが、他の人間に見られれば、確実に大騒ぎだ。

 一応、その時の言い訳も考えておくか。


 

 暫くモンスターを討伐と物資回収を並行して行いつつ、商店街への道を進む。

 偶然にも横転しているレトルト食品などを積んだトラックを発見し、充分な量の物資を回収出来た。

 後は、俺のスキルレベルがもう少し上がれば、今日の目標は達成となる。


 物陰に隠れて休息をとっている間に、オムニスへ【LVカード】を渡す。相変わらず、渋る様子のオムニスに良い加減諦めろ、と言って押し付ける。


「この借りは必ず返すからな」


 その台詞の、そんな使い方を始めて聞いたかもしれない。


「所で、オムニスのステータスはどれくらい強くなったんだ?」


 何気なくオムニスに問いかけると、周囲の気配を探り安全だと判断し教えてくれた。



=========


名前:オムニス

LV:20

種族:半獣鬼人ハーフ・オーガ

ーーーー

HP(体力):274

MP(魔力):102

STスタミナ:205

ーーーー

STR(筋力):233

DEX(器用):166

AGI(敏捷):178

VIT(耐久力):199

INT(知力):100

LUC(幸運):31



《特殊スキル》

野獣の本能LV:5

剣聖の才(獲得時→剣術と体術が統合)

鬼血覚醒


《スキル》

収納(武具)LV:1→3

剣気(破壊)LV:1→2

体力強化LV:1→4

腕力強化LV:2→5

敏捷強化LV:2→4

耐久強化LV:2→5

言語翻訳LV:4→5

自動治癒LV:1→3

交渉術LV:1→2

飛空斬LV:1

咆哮LV:1→3

威圧LV:1→2

怒りLV:3→4


《耐性スキル》

呪い耐性LV:5→7

出血耐性LV:3→4

精神耐性LV:2→3 

魔術耐性LV:1

毒耐性LV:1→2

火耐性LV:1→4



〈パーティー〉

1.サイガ・アキラ


=========



 いつの間にか、オムニスに『剣聖の才』とか言う特殊スキルを始め、とんでもなく強化されていた事を知る事になった。

 スキルのレベルも軒並み上昇しており、能力値など俺の何百倍も上を行っている。


「おい、大丈夫か?」

「大丈夫、だ」


 自分の弱さに、動悸がするだけです。


「俺の強さは、アキラの強さでもあるんだろ?」

「……」

「だから、胸を張れ」

「オムニス……ありがとな」


 お礼に、鬣に隠れた首の辺りを撫でてやる。

 すると、「ぐるぐる」唸りながら、「辞めろ」と怒られてしまった。


 おそらく、オムニス達モンスターは、俺達の様な人間とはスタート地点から違う。

 熟練度=経験となるなら、前の世界から戦や生存競争に明け暮れていたモンスター達に、武器すら持った事のない人間が経験で上回る事は難しい。だから、今、俺がやる事は決まっている。

 

 取り敢えず、俺のやる事はひたすら経験を積んでスキルをレベルアップして行くしかない。


「次に行くぞ」


 オムニスが先に進み、俺は背中を追いかける。





□□□□□



 偵察部隊は、商店街方面へと偵察を行なっていた。『盗賊』の職業を持つ、夕華をリーダーとして誰1人として油断する事なく先へと進んで行く。

 戦闘においても、モンスター1体に対して必ず2人以上で戦闘を行う様に心がけていた。多人数戦が難しい、細い路地や建物内での戦闘は出来る限り避けながらも、着実に先へと進む。


「本当に、レベルが上がった……」


 建物の影で休憩を取っていると、今日初めて偵察部隊に参加した恰幅の良い男性ーー熊谷勇次郎が驚愕していた。


 夕華は、玲程にステータスやシステムに付いて詳しくはない。

 強いて言えば、他の人達よりもスキルと職業を知っているくらいだ。


 だが、この情報も秘匿されている訳ではなく、戦闘に参加する人やモンスターと戦う意思のある人なら誰でも簡単に知る事が出来る様になっている。そして、このステータスに関する情報は、新しい情報が入る度に追加されており、纏め役は玲達がしている。

 その為、偵察部隊の人達は夕華が教える前から勇次郎にステータスの使い方や職業の獲得方法について説明していた。


「え、おっさん、料理人の職業を選んだの?」

「なんだか、これが良い気がしたんだが……駄目だったか?」

「いや、駄目じゃないけど」

「料理人って、ネタ職っぽいから誰も獲得してないんだよ」

「え……」

「ごめんなさい。私が、「自分に合った職業を選んで」なんて、言ったから……」


 最初に偵察部隊の人達が、勇次郎に持っていた印象は、決して良い物ではなかった。


 だが、彼には彼なりの意思や葛藤があった事を会話や共に戦闘を行っていた夕華は気付く。


 頑固で怒りっぽいと思っていた性格は、本来の慎重で家族思いな彼の性格の裏返しであった。

 この世界になった直後に、モンスターに襲われて戦う事も出来ず、必死で逃げて来た故のトラウマを抱えながらも家族を助けたいという思いに、少なからず夕華は共感した。そして、その感情を偵察出発前に吐露した事で、偵察部隊の人達の中にも勇次郎に共感して力を貸そうとする者が現れた。

 偵察部隊に参加する殆どの人々は、家族や友人などと離れ離れになっている。その為、失った者の思いに共感出来るし、突き離す事もしない。


「おっさん、料理人だったのか!?」

「まぁ、居酒屋だから、君達みたいな子供の来る所じゃないけどな」

「それじゃ、後数年でおっさんの所で酒が飲めたんじゃん……」

「今度、料理食べてみたいです」

「そ、そうか……まぁ、機会があったらな」


 恥ずかしげに頬を掻いた勇次郎は、立ち上がり周囲を警戒している夕華の元に来る。


「どうしました?」


 振り返る事なく、勇次郎の接近に気付いた夕華に彼は既に驚く事はない。

 偵察部隊に参加して、モンスターと相対するトラウマと戦い、恐怖で震えながらも足を進める人々の姿を目にした。しかも、自分の年齢の半分程の子供達がそんな危険な冒険をしていた事に、勇次郎は衝撃を受けた。そして、体育館の隅で怯えてばかりいた自分が恥ずかしくなってしまった。


「いや、夕華ちゃんも休んだらどうかな、と思ってな……」


 勇敢な偵察部隊の中でも、周囲の人々から一目置かれる存在が、斎賀夕華だ。

 サイドテールにした黒髪少女。優れた技能と死者を出さない判断力を持った偵察部隊のリーダーとして、確かな実力と実績を持っている。

 勇次郎が隣に立って偵察を行ったのは、未だ2時間にも満たないが、自分では彼女の様には出来ない事を痛感させられた。

 

 だが、それによって、勇次郎は偵察部隊の最年長者として子供達への気配りを行う余裕を得る事が出来た。


 「大丈夫です。熊谷さんこそ、初めての偵察ですので、出来るだけ長く休んで下さい」

 「だけどな。子供の君が、そんなに頑張っていると休み難いんだよな……」


 最年長者としての意地の様な台詞になってしまったが、勇次郎の言葉を聞いて夕華が振り返る。


「大人や子供は関係ありませんので」


 静かな言葉だったが、明確な勇次郎への拒絶に唖然とする。

 すると、そこへ他の偵察部隊の人達が歩み寄り、肩を叩く。


「残念だったな、おっさん」

「ドンマイ、です」

「くぅ……」


 自分の娘と大差ない子供達に励まされるのは、ピリピリと心に沁みるものがあった。


 その後、再び偵察を開始する。


 すると、驚く様な光景を見つけた。


「何だ、これっ」

「モンスターが死んでる」


 夕華達の前に転がるのは、ゴブリンなどのモンスターの死骸だ。

 傷口を観察する限り、鋭い刃物で斬り殺されている。


「……凄い」


 夕華の珍しい反応に、偵察部隊の視線が彼女に集まる。そして、代表して勇次郎が「何がたい?」と問いかけた。


「モンスター達の傷口が2種類ある。でも、どちらも、急所と思われる場所を的確に突いている」


 更に、夕華の話は続く。


「その中でも、このモンスターの傷跡は凄まじい腕を持った太刀筋で斬られたに違いありません」


 夕華が知っている最も優れた剣士は、間違いなく幼馴染の玲である。そして、玲と共にモンスターと戦い、太刀筋に付いても教えて貰った夕華は直観した。


(このゴブリンを倒した相手は、玲よりも強い)


 このまま、一旦撤退するべきか考える。

 食料の備蓄を考えると、物資は少なからず回収はしておきたい。

  

 だが、だからといって、部隊の人々を危険に晒す訳には行かない。


 悩む夕華の元に、近くにあったコンビニを偵察して来た少年が戻って来る。


「駄目だ。全部、盗られてる」


 その報告を聞いて、夕華の心に焦りが生まれた。


「……」

「もしかして、おっさんの家はこの近くか?」

「……ああ。商店街の方だから、10分くらいだ」


 今の街は、以前の街とは変わってしまっている。その為、地理や地形が変わり、モンスターが闊歩している事で10分で行けていた道が、30分以上かかってしまう事も不思議じゃない。


「家に食料とかある?」

「一応、仕事の関係上食料は多めに置いていたが……」

「だ、だったら、熊谷さんの家に行くのも、アリかも〜」

「おっさんの家、行ってみたいな」

「き、君達……」


 お人好しばかりの部隊の面々の台詞を聞いた事で、夕華の中に湧いていた焦りの感情が落ち着いた。そして、闇雲に店を探すよりは良いかもしれない、と考える。


「分かりました。熊谷さんの家まで、案内して下さい」


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