ステラ・ラ・アドアステラ
「よし、やったぞ。ほれ、成功したではないか!」
「まさか、そんな。あんな古い術式で成功するなんて。」
何やら声が聞こえる。
女性と男性の声だ。
少しずつ意識が覚醒し始める。
この感覚は、1年前にこの世界に召喚された感覚に近い。
頭がぼやけていて、体中に力が入らない。
「ほら、貴方大丈夫??」
女性と思われる声が近づいてくる。
そして体をゆっくりと起こしてくれた。
「神の御手よ、傷つき倒れし者に救いの光を与えよ。」
《ヒーリング》
優しい光が体を包み込んでいく。
その温もりは、まるで幼い頃に感じた母の抱擁の様だ。
疲労感や頭の頭痛が消え去っていく。
「君は、、、?」
目の前に赤髪の女の子が居る。
吸い込まれそうな綺麗な赤い瞳だ。
「すまないな、このような乱暴な方法で其方を喚び出してしまって。」
「召喚、、また俺はどこかに飛ばされたのか?」
辺りを見渡す。
先ほどまで居た教会とは全く雰囲気が逆だ。
狭く薄暗い小部屋に、独特の匂いが漂っている。
目の前にいる女性とその奥に細身の燕尾服の男性が立っている。
女性は赤い髪に赤い瞳、そして角。背中には翼。。。。
「角!?翼!?」
急いで目の前の女性から離れる。
足元が定かではなく、転びそうになるが何とか部屋の隅にまで避難した。
角に翼。これは人族では決してあり得ない特徴だ。
この特徴を持っているのは。
「魔族。」
よく見ると後ろの男性も、赤い女性よりは小さいが角と翼が生えている。
「そう、我は魔族。竜魔族が長アドアステラ家の長女。ステラ・ラ・アドアステラだ。」
「そして、其方は人族であろう。我が未来の伴侶よ。」
赤い髪の女性が名乗りながら、徐々に近づいて来る。
魔族は人族や他の種族と現在戦争状態であり、
魔族の王である魔王を滅ぼす為にこの世界に召喚されたのが俺たちだ。
「ステラ、と言ったな。何の為に俺をこんな所に喚び出した?人質にするなら、無能な俺は何も役に立たないぞ。」
「あと、それ以上此方に近寄るな。」
「何を怖がっておる。私は其方に害を及ぼそうとは考えておらん。寧ろ其方に私を、いや私の一族を助けて欲しいのだ。」
そう言いながらステラと名乗った女性は、歩を止める事無く、近づいてくる。
そしてもう目と鼻の先にまで来てしまった。
俺は逃げようと試みるが、思うように足が動かない。
気が付けば蛇の様な黒い文様が這うように俺の両足を縛り付けている。
《バインド》
女性がそう呟いたのが聞こえた。
「すまぬな婿殿。逃げられては面倒なので、拘束させてもらった。」
女性は、震える俺を怪しい瞳で見つめつつ、白く細い手で俺の頬を撫でてくる。
これがこのような場所、相手でなければ、最高に喜ばしい場面だが、
今は恐怖しか感じなかった。
「分かった、俺に出来る事なら、何でもするから。頼む、殺さないでくれ。」
必死に懇願する。
こんな所で死にたくない。
俺はまだこの世界で何も、何も出来ていないのに。
女性がピタッと動きを止めた。
そして少し離れてから、我慢できないとばかりに、笑い始める。
そして笑い声は徐々に大きくなっていき、仕舞いに声を張り上げて笑い始めた。
我慢できないようで腹を抱えている。
「いや、すまぬな。少し悪ふざけが過ぎた。」
そういうと、手をパチンと鳴らして、俺の足を拘束させていた魔法を解除した。
「は、え、、、いったい何がどうなって?俺は、いや君は?」
「改めて名乗ろう。我が名は、ステラ・ラ・アドアステラ。竜魔族が長タナトス・リ・アドアステラが長女。そして次期魔王候補の一人だ。」
「何故、其方を喚び出したのか、であったな。それは其方は私の婚約者に選ばれたからだ!」
そう宣言しながら、ステラは自らの右手の甲を此方に向けて来た。