7話
湯から上がると、何時もの表情は何処へやら硬い表情の白妙が新しくした布団と共に待っていた。
布団と男。
いっその事、この男に初めてをもらって貰った方が踏ん切りが着くのではっとトチ狂った事を考えてもみる。
妹分の後正の頼みとなれば、この同しようもなく優しい男は聞いてくれるかも知れないが、
そんなことをしたら、この男がその後どんな目にあうか考えるだけで足がすくんでします。
「お座りください」
何時までも突っ立ったまま動かない、清香に座る様に促すとさらに言葉を紡いだ。
「証が正式に来た事を、これから甲斐様にお伝えして来ます」
パッと顔を上げる。
「つきましては、花が時はまだではありますが華人として生活していただける様に本家に移ることになります」
死刑宣告を淡々のつげるこの男が憎い。
でも、同じくらい愛しい。
どうせ、この身はあの男に上げることは攫われた日から決まっていたではないか。
もうどうでもいい。っと心が投げやりになりそうになるも、何かが強く清香を引き留める。
「今後の世話役ですが、私も一応男の身。その為、華人として……」
「白妙」
淡々とこっちを無自覚に傷つける言葉を放っていた男は、ようやくしっかりと清香のことを見た。
改めてもう一度名前を呼ぶ。
「白妙」
「……はい、何でしょう?」
こんな時でも、この人は私の名前を呼ばないのだ。清香と呼ぶのはこの館で、あの男だけ。仕方ない、あの男が鬼で私があいつの華人だから。
この人は何時も私を、貴方。
正式な場やあいつの前では華人さまと呼ぶ。
本当に憎らしい。
こんな人嫌い。
何時までも私を子供扱いして。
大人になりかけたら、ぽいっと鬼に差し出そうとする。
嫌い。
憎い。
嫌い。
嫌い。
でも、好きなの。
何で、そばにいてくれるのが白妙じゃなくなっちゃうんだろう……
「白妙。お願いがあるの、ほんの少しの間でいいの。私を子どものままでいさせてくれないかしら」
「貴方は…………もう子どもではありません」
「次の証が来るまででもいいの。貴方の愛らしい子どもでいさせて」
何時もの彼の言葉を使うのはずるいのだろうか?しょうがないそうやって、親の様に兄の様に私を育てたのはこの人なのだから。
「貴方は愛らしい私の子ですが……何時までも子どもではいられないのですよ」
何時もの顔ではなく、眉が泣きそうに苦しそうに歪んでいる。
こんな時なのに、泣きそうな顔もするのだと白妙の顔をまじまじと見てしまう。
「白妙も子離れの時間が必要でしょ。お願い、本当に最後だから」
手を握りしめて出来るだけ子どもに見えるように、わざと甘えるようにお願いする。
そんな縋る思いで伝えると、さらに顔を歪めて白妙はうつむいてしまう。
「次の証がいらっしゃるまでですからね……」
絞り出す様にそう彼は呟く。
「うん、ありがとう……だから、白妙大好き」
いつものように誤魔化しながら好きと言った言葉、そして泣き笑いで返す顔を彼に見られずに良かった。
どうせ捨て去る、この恋ならば。
最後まで捨てずに持っていてもいいのではないか。
身体もくれてやるが、
心は絶対にあんな鬼にあげない。
心を上げない限り、華は咲かず
伴侶の契約なんて結べないでしょ?